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第四章

ライラの過去1

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「どうしてライラは…あんなこと言ったんだろう」

私は自分の部屋で、未だ意識の戻らない子犬を撫でながら呟いた。
ライラにあんな風に言われたのは正直なところ、ショックだったんだと思う。

あの後はとりあえず子犬を連れて城に戻って、目が覚めるのを待っているという感じだ。
それから城に戻ってからはライラに会っていない。
どう考えても避けられている。

「お嬢様は、城の者にライラの過去について聞いたことはございますか?」

リーシャが私の横にある机に紅茶を淹れてくれた。
私はいったん子犬から離れ、椅子に座る。

「ライラの…過去?」

紅茶を一口のんで、リーシャに尋ねる。

「はい。ライラが本日あのように言ったのには、きっとライラの過去が関係あると思います」

「そう…なの?てっきり私のわがままにイライラが爆発したのかと…」

「いえ、そのようなことは決してございません。ライラは心の底からお嬢様のことを信頼し、慕っております」

「あ、そ、そう?」

あまりにも即答されたので、少し驚いた。

「…リーシャ、ライラの昔の話、教えてくれる?」

「それは…構いませんが、どうしてですか?」

「うーん…気になるのもあるけど、私は…ライラのご主人だから。なんでライラが怒ったのか、ちゃんと理解したいの」

「…わかりました。では、まずは最初に仕えた主人のことからお話しいたします」

「あ、私が最初じゃないんだね」

「はい、ライラと私は今まで同じ主人に仕えてきました。お嬢様で3人目ですね」

「そうなんだ…それで?」

「はい。最初の主人、名はジャキー・キュールと言います」

「あれ?キュールってたしか…」

「はい、ジャキー様は貴族家であられるキュール家の次男様ですね」

「あぁ、やっぱり。私、一回求婚されなかったっけ?」

私が次期お姫様候補というのが広まった途端、いろんな貴族からお見合いの話があった。
その何人かには印象がよくない人もいた。ジャキーもその一人だ。

「たしかにされていましたね。お嬢様のお断りするまでの最速ランキング2位の方ですね」

「変なランキングつけないでよ…それで、そのジャキーが?」

「はい、それがライラがミスをするたびに八つ当たりのように暴力を繰り返していたのです」

「え!?」

「たしかに、ミスはミスなのですが、頼まれていた洋服と間違えて用意してしまったとか、お食事の用意が少し遅れたとか。ライラは昔から我慢強い子ですから、なにも言い返したりはしませんでした」

「なにそれ…そんなの食事だって服だって、全部ライラだけ悪いわけじゃないでしょ」

「はい…私も一度、ライラだけが悪いわけじゃなかったと言ったのですが…その意味もなく…。『頑丈なだけが取り柄のくせに』といつも言っていました」

「……リーシャちょっと、今すぐそいつ狙撃してくれない?」

「気持ちはわかりますが…一応貴族なので…」

「次会ったら何かしてやるわ」

私はふんすと鼻を鳴らして、また紅茶を飲んだ。

「あまりに見兼ねた他の使用人達がライラをやめさせるようにジャギー様に申し出たのです」

「へぇ…使用人はいい人ばかりだったのね」

「はい。しかし、この国の取り決めで、使用人が辞めるには雇い主の許可が必要ですから。当然、ジャギーはライラをやめさせようとしませんでした」

「……ほんとにそいつ狙撃してきたら?」

「まぁ、貴族でなくなったら即座に。そこでジャギーは条件を出したのです。1週間で魔獣を10匹倒せばやめさせてやると。」

「はぁ!?」

私はこの世界にきて魔獣というものをまだちゃんと見たことがない。
しかし、周りの人の話によれば、一番ランクの低い魔獣1匹で国の騎士さん10人ほどだとか。

それを10匹なんて…。

「その1週間はライラは屋敷を離れていい、もしできればやめると同時になんでも望みを叶えてやる、と鼻で笑いながら言われたのです。屋敷のものは1週間そわそわしっぱなしでした」

「そりゃそうよね…」

「しかし、1週間経って、ライラはボロボロのメイド服で魔獣の耳を10個、血みどろの手でジャギーに叩きつけたのです」

「お、おぉ…なかなかライラも爆発寸前だね…」

「あの時のライラは魔獣も怯える表情で、それを見たジャギーの怯えようは見ものでした」

「リーシャもなかなか言うのね」

「私もあの見た目から生理的に厳しいです。そして、ライラは『約束通りやめさせていただきます…望みを一つ叶えると言いましたね…私と一緒にリーシャもやめさせてもらいます…』と言って、ライラは倒れたのです。この時、まさか私の名前が出るとは思いませんでした」

「今があるってことは、二人とも無事だったのよね。それでそれで?」

「はい。その前に、紅茶のお代わりをいれますね」

「ありがとう」

リーシャは空いているカップに紅茶を注いだ。
私は一言お礼を言って、紅茶を飲んでから、絵本を読んでもらう子供のように、話の続きをねだるのだった。
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