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しおりを挟む傀儡師の居なくなった後の人形は“希遥”にもなれなければ、完全に元の“遥陽”にも戻れなかった。
遥陽として生きた10年は“希遥”として矯正された五年で捻じ曲げられた。
どちらにもなれない俺は中身のない、“ナニカ”だった。
__いや、それよりずっと前。
俺が空っぽになったのは、希遥が死んで母親の操り人形になることに抵抗しなくなってからかもしれない。
それを母親の作る“希遥”という仮面で隠していただけ。
その仮面を少しずつ外して“遥陽”を取り戻そうとする俺に、“希遥”ではなくなって行く俺に、周りは気味の悪いものを見るような目を向け始めた。
やがてその視線すら向けられることすらなくなり、必要のなくなった仮面は粉々に砕けて無くなった。
そうして“希遥”も完全に死んだ。
“希遥”が死んで、俺の周りには誰も居ないことに気が付いた。
その時に思い知った。
“希遥”では居られなくなった俺に、居場所はないのだと。
その事実が恐ろしくて、どうにかして“希遥”を取り戻そうとしたのだが、“希遥”には似ても似つかない気味の悪い生き物が出来ただけだった。
どう足掻いてももうダメなのだと思った。
これ以上生き恥を晒す事にも耐えられなかった。
これ以上“希遥”の名を穢すことも嫌だった。
だから、終わらせようとした。
校舎の屋上から、飛び降りて。
なのに。
一瞬、気を失って目を覚ますと、知らない場所にいた。
学校でも病院らしき場所でもない。
照明は蝋燭の火だけで薄暗く、温めの水が踝の下辺りまで張られた部屋。
どこだ、ここは。
そう言いかけて、身体がどこも痛まない事にも気が付いた。
どうして、と疑問がさらに増えて混乱していると、俺の周りに置いてある蝋燭の向こう側から、黒いローブを着た集団が近寄ってきた。
「成功だ!神子様がいらしたぞ!」
「お待ちしておりました。ささ、こちらへ。そこにいては汚れてしまいます」
その集団は混乱する俺を置き去りに話を進め、俺を部屋の外へと促した。
促されるままに外へ出ると、やはり薄暗い廊下が続き、集団は俺の前後左右を固めるように歩いている。
先程、集団の一人が言った“神子様”という言葉と、明らかに歳下であろう俺に対して過剰なまでの丁寧な言葉遣い。
“希遥”の友人が好きだった異世界召喚というものだろうか。
そんな考えを裏付けるように、廊下から見える窓の下に広がるのは、現代の日本では到底見ないような中世ヨーロッパ風の街並みだった。
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