異世界召喚された傀儡少年が敵国の騎士団長に溺愛される話

あめ

文字の大きさ
上 下
2 / 2

0.5

しおりを挟む

 傀儡師母親の居なくなった後の人形は“希遥”にもなれなければ、完全に元の“遥陽”にも戻れなかった。
 遥陽として生きた10年は“希遥”として矯正された五年で捻じ曲げられた。
 どちらにもなれない俺は中身のない、“ナニカ”だった。
 __いや、それよりずっと前。
 俺が空っぽになったのは、希遥が死んで母親の操り人形になることに抵抗しなくなってからかもしれない。
 それを母親の作る“希遥”という仮面で隠していただけ。
 その仮面を少しずつ外して“遥陽”を取り戻そうとする俺に、“希遥”ではなくなって行く俺に、周りは気味の悪いものを見るような目を向け始めた。
 やがてその視線すら向けられることすらなくなり、必要のなくなった仮面は粉々に砕けて無くなった。
 そうして“希遥”も完全に死んだ。
 “希遥”が死んで、俺の周りには誰も居ないことに気が付いた。

 その時に思い知った。
 “希遥”では居られなくなった俺に、居場所はないのだと。
 その事実が恐ろしくて、どうにかして“希遥”を取り戻そうとしたのだが、“希遥”には似ても似つかない気味の悪い生き物が出来ただけだった。
 どう足掻いてももうダメなのだと思った。
 これ以上生き恥を晒す事にも耐えられなかった。
 これ以上“希遥”の名を穢すことも嫌だった。

 だから、終わらせようとした。
 校舎の屋上から、飛び降りて。

 なのに。
 一瞬、気を失って目を覚ますと、知らない場所にいた。
 学校でも病院らしき場所でもない。
 照明は蝋燭の火だけで薄暗く、温めの水が踝の下辺りまで張られた部屋。
 どこだ、ここは。
 そう言いかけて、身体がどこも痛まない事にも気が付いた。
 どうして、と疑問がさらに増えて混乱していると、俺の周りに置いてある蝋燭の向こう側から、黒いローブを着た集団が近寄ってきた。

「成功だ!神子様がいらしたぞ!」
「お待ちしておりました。ささ、こちらへ。そこにいては汚れてしまいます」

 その集団は混乱する俺を置き去りに話を進め、俺を部屋の外へと促した。
 促されるままに外へ出ると、やはり薄暗い廊下が続き、集団は俺の前後左右を固めるように歩いている。
 先程、集団の一人が言った“神子様”という言葉と、明らかに歳下であろう俺に対して過剰なまでの丁寧な言葉遣い。
 “希遥”の友人が好きだった異世界召喚というものだろうか。
 そんな考えを裏付けるように、廊下から見える窓の下に広がるのは、現代の日本では到底見ないような中世ヨーロッパ風の街並みだった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話

あめ
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話 基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想 からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定

最弱伝説俺

京香
BL
 元柔道家の父と元モデルの母から生まれた葵は、四兄弟の一番下。三人の兄からは「最弱」だと物理的愛のムチでしごかれる日々。その上、高校は寮に住めと一人放り込まれてしまった!  有名柔道道場の実家で鍛えられ、その辺のやんちゃな連中なんぞ片手で潰せる強さなのに、最弱だと思い込んでいる葵。兄作成のマニュアルにより高校で不良認定されるは不良のトップには求婚されるはで、はたして無事高校を卒業出来るのか!?

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い ・作者が話の進行悩み過ぎてる

過食症の僕なんかが異世界に行ったって……

おがとま
BL
過食症の受け「春」は自身の醜さに苦しんでいた。そこに強い光が差し込み異世界に…?! ではなく、神様の私欲の巻き添えをくらい、雑に異世界に飛ばされてしまった。まあそこでなんやかんやあって攻め「ギル」に出会う。ギルは街1番の鍛冶屋、真面目で筋肉ムキムキ。 凸凹な2人がお互いを意識し、尊敬し、愛し合う物語。

スキルも魔力もないけど異世界転移しました

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
なんとかなれ!!!!!!!!! 入社四日目の新卒である菅原悠斗は通勤途中、車に轢かれそうになる。 死を覚悟したその次の瞬間、目の前には草原が広がっていた。これが俗に言う異世界転移なのだ——そう悟った悠斗は絶望を感じながらも、これから待ち受けるチートやハーレムを期待に掲げ、近くの村へと辿り着く。 そこで知らされたのは、彼には魔力はおろかスキルも全く無い──物語の主人公には程遠い存在ということだった。 「異世界転生……いや、転移って言うんですっけ。よくあるチーレムってやつにはならなかったけど、良い友だちが沢山できたからほんっと恵まれてるんですよ、俺!」 「友人のわりに全員お前に向けてる目おかしくないか?」 チートは無いけどなんやかんや人柄とかで、知り合った異世界人からいい感じに重めの友情とか愛を向けられる主人公の話が書けたらと思っています。冒険よりは、心を繋いでいく話が書きたいです。 「何って……友だちになりたいだけだが?」な受けが好きです。 6/30 一度完結しました。続きが書け次第、番外編として更新していけたらと思います。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

蔑まれ王子と愛され王子

あぎ
BL
蔑まれ王子と愛され王子 蔑まれ王子 顔が醜いからと城の別邸に幽閉されている。 基本的なことは1人でできる。 父と母にここ何年もあっていない 愛され王子 顔が美しく、次の国大使。 全属性を使える。光魔法も抜かりなく使える 兄として弟のために頑張らないと!と頑張っていたが弟がいなくなっていて病んだ 父と母はこの世界でいちばん大嫌い ※pixiv掲載小説※ 自身の掲載小説のため、オリジナルです

処理中です...