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しおりを挟むわぁ、わぁ、と人の叫ぶ声。
刀と刀がぶつかり合う音。
人が人を斬り裂く音。
人が最期にあげる断末魔。
返り血の飛び散る音。
人が敵か味方かも分からぬ遺体を踏んで先を行く。
進んだ先で人と出会えば相手の顔を確認する事もなく刀を向け合う。
体の一部をなくした人が地に這いながらどこかを目指す。
汗と血と火薬の匂いが辺りに充満している。
まさに地獄絵図。
ここは戦場だ。
つい最近まで日本で戦争とは無縁に暮らしていた俺には、あまりに現実味がなかった。
ただただ、自分が悲しいのか悔しいのか、それすら分からないまま、声を殺してボロボロ泣いた。
俺がこの地獄絵図を増長させたのだと、知っていたから。
俺はごく普通の平凡な家に産まれた。
名前は如月遥陽(きさらぎ はるひ)。
父親と母親と弟と俺の四人家族。
少し変わったことと言ったら双子の弟の希遥(きはる)が天才と称されるほどに優秀だったことくらいだ。
たまには喧嘩もするけど仲のいい、一般的な家族だったと思う。
俺達が10歳の時に弟の希遥が交通事故で死ぬまでは。
希遥が死んでから、真っ先に異変が起きたのは母親だった。
母は普段から希遥を特に可愛がっていたから、相当ショックだったのだろう。
希遥が死んでから、どこかがおかしくなった。
最初は何となく違和感を感じる程度だったのが確信に変わったのは、容姿だけは希遥とそっくりな俺を希遥の名で呼び始めたのだ。
俺の否定の声は母には届かなくて、母の中で俺は希遥になった。
父は気まずそうに俺と母を見るだけで母を止めようとはしない。
ただ傍観するだけだった。
そうしていつの間にか遥陽の名で死亡届が提出され、俺は希遥として生きるしかなくなった。
初めのうちは遥陽が死んだからショックで普段と違うのだと周囲に伝えていたが、そう長く続くものでもなく。
そうなると母は俺に“希遥”を押し付けるようになってきた。
希遥はもっと活発な子だったよね。
希遥はもっと算数が得意だったよね。
希遥はもっとよく笑っていたよね。
希遥はもっと……
希遥は俺なんかよりずっと優秀だったし明るくて人気者だったから、希遥のふりをするのには苦労した。
希遥になるために服や食べる物、話し方も変えた。
希遥は友達と遊ぶのも好きだったから、放課後は遊びに行って、それから家に帰って希遥より劣っている理数科目の勉強を念入りにした。
全部、母の言う通りに行動した。
いつからか“遥陽”は本当に死んでしまったようだった。
希遥と呼ばれることにも慣れ、遥陽の仏壇にも手を合わせた。
そんな日々が五年は続いて高校に入学して半年ほど経った頃だった。
母が急死したのだ。
母が死んで、俺は今までほど希遥のふりをする必要はなくなった。
そうして、少しずつ“遥陽”を取り戻そうとして、俺は、“遥陽”を思い出せない事に気が付いた。
俺はいつからか母の求める行動をとり、母の求める選択をする事が当たり前になっていた。
それが当たり前すぎて、俺自身で何かを選択することが出来なくなっていた。
俺は正しく母の操り人形だった。
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