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しおりを挟む俺__ジルベール・カリナンは人生を何度も繰り返している。
名前と家族構成は毎回変わることなくこの国の第二王子として生まれる。
そしてもう一つ変わらないことは、生みの親が俺を産んだ直後に亡くなるということ。
産みの親、即ち王妃様は誰からも愛されるような優しく美しい人で、そんな人の命を奪った俺がその王妃様と同じ銀の髪と赤い瞳を持って産まれたのが余計に嫌だったのだろう。
俺は生まれてすぐに王妃を殺した罪だとかで、王宮の中でも誰も寄り付かない森の中にある離宮に幽閉された。
幽閉と言っても離宮の一部に人一人通れるくらいの穴があいていたから、出入りは自由だった。
間が抜けてるというかなんというか。
というより閉じ込める気はあまり無かったのだろう。
俺を王宮から追い出して、それでいてあまり遠くない場所に居させられればそれだけで後は俺の事など気にかけることもなかったから大きな穴にも気づかない。
だから最初の人生でその穴に気づいてからは、毎日のように抜け出しては森の中を駆け回った。
家族どころか使用人も誰もいない離宮はその当時の俺にとっては雨風が酷い時にだけ戻る巣、といったような認識で、日中はずっと離宮のある森に住み着いている動物達と一緒に日々を過ごした。
人間よりもずっと動物達と共に過ごしていた影響で、自分が人間だという自覚すらなかった。
動物達と一緒に追いかけっこもしたし、食べ物を探して木の上に上ったりもしたし、泉で水浴びもした。
そんな生活を続けているうち、一度だけ本殿の方に迷い込んだことがあった。
そこで、まだ足取りの危うい小さな金髪の子供を見つけて、酷く驚いたのを覚えている。
自分と同じような姿をした生き物を、つまり自分以外の人間を、初めて見たからだ。
俺は早速その子に話しかけようとして、なんて話しかければいいのか分からないことに気がついた。
言葉も挨拶の仕方もなにも教えてもらったことがなかったのだ。
意味をなさない声が口から漏れて狼狽えているとその子供がこちらを振り向いた。
その子供は一瞬驚いた表情を浮かべると、俺を見ながら大きな声で泣き始めてしまった。
どうして泣いているのか皆目見当もつかなくて、でも泣き止んで欲しくて落ち着かせるために、その子に手を伸ばして近付くと、より一層に泣き声が強まって咄嗟に手を引っ込めた。
そして泣き声に気づいて駆けつけてきたのか、子供と同じ金髪の大人がやって来ると、俺を見るなり物凄い形相をしてその鍛えられた腕で払いのけ、その子供を抱き締めながら、俺に向かってなにかを怒鳴っていた。
その怒鳴った内容も言葉を知らない俺には分からなかったが。
それからすぐに剣を腰に差した大人が四人ほど集まり、一人が俺の方へ来るとそのまま離宮へと戻されてしまった。
どうして泣かれたのか、どうして怒られたのか、どうして払い除けられたのか、その時の俺には何も分からなくて、ただ離宮のいつも自分が寝ている場所で泣き続けた。
もしかしたら俺にも誰かが駆けつけて抱き締めてくれるかもしれない、そう思って。
結局というか当然と言うべきか、そんな人は現れる事などなかった。
あとから知ったのだが、その時泣かせてしまった金髪の子が俺の異母弟で、俺を払いのけた金髪の大人は俺の実父だったらしい。
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