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ひるなかの彼
07 お聞きしたいのは
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(ああもう、落ち着いて。これは仕事、仕事)
咳払いのあと、ええと、と気を取り直していってみる。おもったよりもしっかりとした声が出たのを確かめて、続けた。
「四日前から、とおっしゃいましたよね。その違和感はずっとあるんですか?」
保科はうなずいて、記憶をたどるように目をさまよわせた。
「ただ、そう感じるのは朝だけです。仕事を終えて帰宅したときは、特に気になることはありません。といってもほんとうに、取るに足らないことばかりで……。たとえば最初の朝はカーテンが中途半端に開いてフックがはずれていました。次の朝にはローテーブルがなにかにぶつかられたように斜めになっていて、三日目は本棚の本が床に落ちていたんです。まあ、おかしいなとおもいつつも深くは考えていませんでした。そもそもあまり霊のたぐいを信じるほうではないんです。サロンでみた人影や、コピーさんのウワサのこともすっかり忘れていましたし、仮に霊のようなものが起こしている現象だとしても、被害はささいなものですしね」
あっけらかんとした話しぶりに、椿は少なからず安堵した。あくまで冷静そのものであり、二年前の彼女のように、恐怖心に囚われて生活に支障をきたしているなんてことはなさそうだ。
「そして三日目の夜……昨夜ですが、やはり明日も物が動いているのだろうか、それはどんな光景なんだろう、その瞬間をみてみたい、とおもいたって、ずっと起きていることにしました。電気を消して、ふとんもかぶった状態で、寝たふりをしつつこっそりと。……結局、なにも起こりませんでしたけど」
「そうですか……。って、ずっと、起きて……?」
ということは、いま彼は徹夜明けの状態でここにいるということだ。ふだんならありえないミスの原因がわかったような気がした。
「ああ、それで今日はいつもとようすが違っていたんですね」
納得する椿に、保科は意外そうな顔をした。
「表には出さないようにしていたつもりなのに、気づかれてましたか。さすが社員のことをよくみていらっしゃいますね」
「……ええ、まあ」
(いいえ、ぜんぶ奥村さんからの受け売りで、わたしはまったく気づいていませんでしたっ)
きまり悪く感じながらも、真相はそっと胸の奥にしまっておくことにする。
「さっきサロンでの会話を耳にしてようやく、もしかしたら自分がみたのはあのコピーさんだったのかもしれないとおもいいたりました。でも井ノ瀬さんが祓った、といっていましたよね。それは初耳で……お聞きしたいのはそこなんです」
咳払いのあと、ええと、と気を取り直していってみる。おもったよりもしっかりとした声が出たのを確かめて、続けた。
「四日前から、とおっしゃいましたよね。その違和感はずっとあるんですか?」
保科はうなずいて、記憶をたどるように目をさまよわせた。
「ただ、そう感じるのは朝だけです。仕事を終えて帰宅したときは、特に気になることはありません。といってもほんとうに、取るに足らないことばかりで……。たとえば最初の朝はカーテンが中途半端に開いてフックがはずれていました。次の朝にはローテーブルがなにかにぶつかられたように斜めになっていて、三日目は本棚の本が床に落ちていたんです。まあ、おかしいなとおもいつつも深くは考えていませんでした。そもそもあまり霊のたぐいを信じるほうではないんです。サロンでみた人影や、コピーさんのウワサのこともすっかり忘れていましたし、仮に霊のようなものが起こしている現象だとしても、被害はささいなものですしね」
あっけらかんとした話しぶりに、椿は少なからず安堵した。あくまで冷静そのものであり、二年前の彼女のように、恐怖心に囚われて生活に支障をきたしているなんてことはなさそうだ。
「そして三日目の夜……昨夜ですが、やはり明日も物が動いているのだろうか、それはどんな光景なんだろう、その瞬間をみてみたい、とおもいたって、ずっと起きていることにしました。電気を消して、ふとんもかぶった状態で、寝たふりをしつつこっそりと。……結局、なにも起こりませんでしたけど」
「そうですか……。って、ずっと、起きて……?」
ということは、いま彼は徹夜明けの状態でここにいるということだ。ふだんならありえないミスの原因がわかったような気がした。
「ああ、それで今日はいつもとようすが違っていたんですね」
納得する椿に、保科は意外そうな顔をした。
「表には出さないようにしていたつもりなのに、気づかれてましたか。さすが社員のことをよくみていらっしゃいますね」
「……ええ、まあ」
(いいえ、ぜんぶ奥村さんからの受け売りで、わたしはまったく気づいていませんでしたっ)
きまり悪く感じながらも、真相はそっと胸の奥にしまっておくことにする。
「さっきサロンでの会話を耳にしてようやく、もしかしたら自分がみたのはあのコピーさんだったのかもしれないとおもいいたりました。でも井ノ瀬さんが祓った、といっていましたよね。それは初耳で……お聞きしたいのはそこなんです」
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