傭兵部隊の任務報告5~透明な悪魔

谷島修一

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透明な悪魔

魔術師

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 男性の問いかけに、ヴィクストレームは静かに答えた。
「そうです。あなたは、ビョルン・アルムフェルトですね」
「そうだ。君たちは“リムフロスト”か?」
「私はそうですが、彼は違います。彼は、旧ブラウグルン共和国の者です」
「なぜ、ブラウグルンの者が一緒に居るのかね?」
「今回の任務に協力してもらっています」
「任務か…。私を捕らえに来たということだな?」
「そうです。大人しく従ってもらえれば、手荒なまねはせずとも済みます」
「帰る気は無いな。国に帰っても、どうせ終身刑だろ」
「おそらくそうなるでしょう。しかし、それを決めるのは裁判所ですが。もし、拒否するようでしたら、力ずくでも連れて戻ります」
 アルムフェルトという男性は、ため息をついて、目の前に置いてある食事を取り続けた。
「私は逃げも隠れもせん。食事を取らせてくれ」
 そして、彼は壁際に並んでいる椅子を指さした。
「まあ、座りたまえ」
 食事を取っているだけの弱弱しい老人に警戒は必要ないだろうと思い、ローデンベルガーは一旦剣を鞘に納めた。
 そして、ヴィクストレームとローデンベルガーは椅子をそれぞれ一つずつ持って来て、アルムフェルトの正面にテーブルを挟んで座った。
 ヴィクストレームは再び口を開いた。
「そころで、聞きたいことがあるのですが」
 アルムフェルトは目線を食事のほうに落としたまま答える。
「何かね?」
「あの透明な怪物のことです」
「ああ、あれがどうしたのかね?」
「あれは、あなたが作ったものですか?」
「そうだ、不本意ながらね」
「やはり、例の魔術を使ったんですね」
「ああ」
「とすると、あれは副産物ですね?」
「そうだ」
「副産物があるので危険だと魔術書に書いてあるのは知っていたでしょう?」
「もちろん知っていたよ。しかし、副産物のことを考えなければ、とても便利な魔術だよ。食料も一人分ぐらいであれば無限に創出できる。だから、こんな山奥でも生活が出来るんだよ」
「その副産物が、何人も人を殺しているんですよ?!」
「私は人を殺そうと思っていたわけじゃない」
「結果的にそうなっています」
「君ら“リムフロスト”も人殺しをしているじゃないか」
「私たちは国家の安定を脅かすもののみを排除しているのです。怪物を作り上げて、無差別に殺したりはしない。それに、今回の怪物の件と、リムフロストのことは関係がない」
「関係あるさ。あんたらが、国を裏で牛耳って、国民を洗脳しているのが我慢ならないから私は国を脱出したんだ」
「洗脳などしていません」
「しているさ…。ふん、どうせ話は平行線なんだろうがな」
「その魔術書も引き取ります。そして、あなたには国に帰ってもらいます」

 アルムフェルトは食事を終える。
 すると、傍らに立っていた女性が後片付けを始めた。
 皿を持って、奥にある扉の向こうの部屋に行った。
 それを見送ると、アルムフェルトは顔を上げてヴィクストレームに向かって言った。
「私は、帰る気は無いね」
「では、力ずくでも連れて行きます」
 そう言ってヴィクストレームは立ち上がった。
 次の瞬間、ヴィクストレームとローデンベルガーは椅子ごと後ろに弾き飛ばされて、壁にたたきつけられた。そして、二人は床にうずくまる。
 アルムフェルトが念動魔術を使ったのだ。
「畜生」
 ローデンベルガーが苦しそうに言う。
 ヴィクストレームも左手で胸を押さえながら、右手をかざした。手のひらから火の玉が放たれる。
 アルムフェルトは手を上げて、それをはじき返すようにした。火の玉は空中ではじけ飛んで消滅した。
「無駄だよ」
 アルムフェルトはゆっくりと二人に近づいた。
「君たちにはここで死んでもらう」
 ヴィクストレームは自分の一瞬の遅れを悔いた。アルムフェルトは両腕を二人に向けた。
 しかし、次の瞬間、ローデンベルガーが加速魔術を使い、一瞬で剣をアルムフェルトのみぞおちに突き刺した。
 アルムフェルトは短くうめき声を上げる。
 ローデンベルガーが剣を抜くと、アルムフェルトはゆっくりと後ろに下がり、窓の方にもたれ掛かった、そして、窓が開きそのまま下に転落した。
 ローデンベルガーはゆっくり窓に近づき下を覗き込んだ。
 アルムフェルトの遺体が地面に叩き付けられているのが見える。その近くに見覚えのある制服を着た一群がいた。あれはクリーガーが率いる傭兵部隊だ。そのうちの数名が、アルムフェルトの遺体に近づき、その状態を確認しているようだった。
 それを見てローデンベルガーはいう。
「傭兵部隊が追いついたみたいだな」
 ヴィクストレームもふらふらと立ち上がって、窓の下を覗き込む。
「この高さでは、アルムフェルトは助からないでしょう」
「そのようだな。これからどうする?」
「アルムフェルトの件はうまく話を作ります。そして、彼らに怪物退治をさせるように話を持って行ければと思っています」
「え? 怪物は、あんたらの魔術のせいだろ?」
「ええ、でも、彼らはそのことを知りません」
「でも、奴らにあの怪物を倒せるとは思えないのだが」
「最終的には私が倒すことになるでしょう。でも、あのクリーガーという人物が、どれぐらいできるか見てみたいのです。それに、もし、彼らが怪物に幾らかのダメージを与えることができれば、止めを刺す時、私たちの労力が減ります」
「なるほどね。わかったよ、いいだろう」
 ローデンベルガーはそう言って微笑んで見せた。
「あと」、ローデンベルガーは、アルムフェルトが言った謎の単語について質問をした。「“リムフロスト”って何だい?」
「“リムフロスト”とは、ヴィット王国の治安維持組織です。アルムフェルトのような逃亡者を追ったりしています」
「アルムフェルトは国民を洗脳していると言っていたが?」
「それは彼の妄想ですよ。我々はそんなことをはしていません」
 ローデンベルガーはヴィクストレームの言葉に少々疑問を持ったが、彼女が嘘をついているかどうかの検証はできないので、諦めたようにつぶやいた。
「そうか…」

 次の瞬間、階段を駆け上ってくる足音がした。
 最初にクリーガーが、それに続いて数名の隊員が部屋に入ってきた。
 クリーガーは、ヴィクストレームとローデンベルガーの姿を見つけると、やや困惑気味に尋ねた。
「一体、どういうことだ?」
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