傭兵部隊の任務報告5~透明な悪魔

谷島修一

文字の大きさ
上 下
28 / 34
透明な悪魔

傀儡魔術

しおりを挟む
 翌朝、ヴィクストレームとローデンベルガーは目覚めた。
 気温はまだまだ低く、吐く息は白く濁る。
 魔術で点けた焚火が、一晩中ついていたので、かろうじて寒さを凌ぐことができている。
 二人は起き上がると早速、怪物の追跡を開始する。
 足元の悪い山道を数時間歩くと、正面に切り立った崖が見えてきた。その崖に近づくにつれ、見慣れない建造物のような物があることに気が付いた。
 それは上手く崖の一部を利用して、石で組み上げられているようだった。
「あれはなんだ?」
 ローデンベルガーはその建造物を指さした。
 ヴィクストレームにもそれが何かはわからない。しかし、建造物の上部には窓のような物が幾つか並んでいた。
「住居かもしれません」
「だれか居るってことか」
「もう、無人かもしれませんね」
 建造物の麓には、入り口のような木の扉がある。
 とりあえず、二人はそこを目指しすことにした。
 扉まで到着すると、ヴィクストレームは扉の取っ手を引く。鍵がかかっていのか、扉を開けることは出来なかった。
「ぶち壊すか?」
 ローデンベルガーは剣を抜いた。
「鍵がかかっているということは、誰かいるかもしれない。用心して」
 ヴィクストレームが言うと、ローデンベルガーは剣を振り下ろし、取っ手のあたりを何度もたたきつけた。
 五、六度、剣を叩き付けると扉はゆっくりと開いた。
 ローデンベルガーは用心深く中に入る。
 中は、壁に松明が灯してあったので比較的明るく、すぐ正面に上に続く石造りの階段があるのが見えた。
 二人は注意深く、階段を登っていく。
 途中、二階で人の気配がした。ローデンベルガーが耳を澄ませると数人の足音がした。
 二人が階段を登りきると、みすぼらしいかっこうをした若い男が二人、木箱や大きな麻袋のような物を移動させたりしていた。
「よう」
 ローデンベルガーは声を掛けた。
 男二人は振り返る。彼らは突然の訪問者に驚く様子もなく、無言のままだ。
 顔を見ると、同じ顔をしている。双子なのだろうか。
「あんたら、ここの住人かい?」
 ローデンベルガーはさらに声を掛けるが、男たちは無言のまま、置いてあった手斧を取り上げてゆっくりと迫って来た。
「おいおい、待てよ」
 ローデンベルガーは言うも、男の一人がさらに近づいて手斧を振り上げた。
「仕方ない」
 ローデンベルガーは、小さく言うと、加速魔術を使い一瞬で二人を切り倒した。
 男二人は、あっけなく床に倒れ込んだ。
 後ろから続くヴィクストレームは、一部始終を見てあきれる様に言う。
「なにも殺すことはないでしょう」
「仕方ないだろ、先に襲ってきたのは、こいつらだ」
 二人は床で横たわる男二人を見下ろした。
 すると、男たちの遺体は崩れるように土の塊になった。
「なんだ、これは?!」
 ローデンベルガーは驚いて声を上げた。
 一方、ヴィクストレームは落ち着いた様子で静かに言う。
「これは傀儡魔術によって作られた偽の人間です」
「傀儡魔術?」
「そうです、土などに魔術を掛けて、人間やそのほかの動物を作り出すことができます。これは、今では、ヴィット王国の魔術師ぐらいしか使っていません」
 ヴィクストレームはさっきまで男だった土の塊をまさぐり、その中から魔石を見つけ出した。
「この魔石に魔術を掛けて、この傀儡を動かすのです」
「なるほどね」
「ここに、私が探している魔術師が、きっと居るのでしょう」
 ヴィクストレームとローデンベルガーは部屋の中を見回す。
 男たちが整理していた大きな木箱が多数、床に置いてある。中身は何なのであろうか。
 その他に反対側の壁にさらに上に続く階段があった。
「その魔術師が上に居るのかもな」
 ローデンベルガーがそう言う。
「登ってみましょう」
 と、ヴィクストレームが答えた。ローデンベルガーは先に階段を上っていた。
 三階に昇ると、二階と同じように大きな木箱が並んでいる。そこには誰もいなかった。
 さらに、上に続く階段がある。
 二人は階段を注意深く登って行く。
 四階の階段を登り切ったところに扉がある。中から人の気配がする。
 ローデンベルガーは、ヴィクストレームと目配せした後、勢いよく扉を蹴り中になだれ込んだ。

 中には、椅子に座って食事をしている様子の初老の男性と、傍らに立つ若い女性が居るのが二人の目に入った。
 男性は少し驚いた様子で、ふたりを見つめると尋ねた。
「ヴィット王国の者か?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

レベル0の俺がレベル100のあいつに勝つ方法

はやしかわともえ
ファンタジー
閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m まったり書いていきます。

処理中です...