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透明な悪魔
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アグネッタ・ヴィクストレームとギュンター・ローゼンベルガーは、ユルゲン・クリーガーと彼の率いる部隊が野営している場所から早朝に去った。
ヴィクストレームが幻影魔術を使ったので、クリーガーや見張りの隊員にも気づかれることは無く出発することができた。
辺りは明るくなり始めていたので、明かりを灯さなくても足元は見ることができた。二人は徒歩で怪物の足跡の追跡を開始する。
途中、ヴィクストレームはローゼンベルガーに話しかける。
「本当にクリーガーと知り合いだったのですね」
「ああ、言っただろ、あいつが逃亡の手助けをしてくれたってね」
「あなたは、彼や彼の部下を斬ったのでしょう? よく手助けしてくれましたね」
「そうだな…。理由はわからない。何か事情があるのだろう」
「彼の気が変わって、あなたを捕らえると言ったら?」
その質問に、ローゼンベルガーは腕組みをして不敵に笑いながら言う。
「俺を捕らえることなんで出来ないよ。あいつも剣の腕は良いが、俺には勝てない。それにあいつも俺とやり合うほど馬鹿じゃないだろう。それに今は俺だけじゃなく、あんたの魔術がある。仮に軍隊が束になってやって来ても、全く手出しできないんじゃないか?」
「まあ、私たちも彼らも今は怪物退治が優先ですから、彼らと戦うことはないでしょうね」
「ま、そうだな」
時折、冷たい雨が降る中、二人は延々と続く登り坂を途中休みながら、怪物の足跡をたどる。
夕方ごろ、少し先で足跡が途切れ、新たに雪の上に足跡が付いていく。
ついに追いついた。あそこに透明な怪物がいるようだ。
ヴィクストレームとローゼンベルガーが一度立ち止った。
怪物は炎を吐くという話をクリーガーに聞いたのを思い出す。
他にも何か知られていないことがあるかもしれない。全く正体のわからない相手がどのような攻撃を仕掛けて来るのが不明なため、遠巻きに様子を見る。
怪物は二人に気が付いていない様だった。足跡は変わらずにゆっくりとボールック山脈方向へ向かっている。
「やるか?」
突然、ローゼンベルガーは、そう言って剣を抜いた。
様子を見ているだけでは物足りず、待ちきれなくなったようだ。
ヴィクストレームは少し考えたが、彼に任せてみることにした。
「良いでしょう…。炎に気を付けて」
「ああ、わかっているさ」
そう言うと、ローゼンベルガーは空間魔術を使い一瞬で透明な怪物に近づき、数秒間、怪物がいるであろうあたりを剣で切りつけた。
手ごたえがあったようだ。怪物は聞いたことの無いうめき声をあげて、炎をあたりに向けて放ち始めた。
ローゼンベルガーは再び空間魔術で、一瞬でヴィクストレームのところへと戻って来た。
二人のいるところまでは、かろうじて炎は届かない。
ローゼンベルガーは息を切らせながら言った。
「すごく硬い皮膚だ。剣が少ししか通らない。剣だけで倒すとしたら、何百回も突き付ける必要があるぞ」
「そうですか。では、私が魔術を使ってみます」
そう言って、ヴィクストレームは二、三歩ほど歩み出た。
そして、手のひらを掲げると、そこから轟音と共に何筋もの稲妻が走った。
稲妻は怪物の居るあたりで途切れた。直撃したようだ。
怪物は再び、うめき声を上げて無差別に炎を放つが、ほとんどダメージを受けていないようだ。
そして、どうやら怪物は二人に気が付いたようだ、足跡がこちらに近づいて来るのがわかった。
思わず、二人は後ずさりする。
「もう一度行くぜ」
ローゼンベルガーはそう言うと、再び空間魔術を使い、目にも止まらぬ速さで怪物に近づき何度も切りつける。怪物はうめき声を上げ、再び炎を放つ。
ローゼンベルガーはヴィクストレームのところに戻って来た。やはり、さほどダメージを与えられていなようだ。
ヴィクストレームは次は火炎魔術を使い、火の玉をいくつも手のひらから放った。
火の玉は怪物の居るあたりで弾けた。怪物はうめき声を上げるが、大きなダメージを与えた様子はない。
「魔術による攻撃もほとんど効果が無いようです」
「なんてやつだ!」
ローゼンベルガーは狼狽した。
「一旦引いて、対策を考えましょう。怪物は動きは遅いので私たちに追い付けないでしょう」
「あ、ああ…、わかった」
二人は一旦その場から離れて緩やかな坂を下っていた。
二人は怪物と遭遇した場所から三十分ほど離れたところで、怪物が追って来ないのを確認してから、小さな岩の上に座り込んだ。
「魔術も効かないのか。じゃあ、やっぱり、俺が何百回も斬りつけるしかないのか」
「そうかもしれません」
その答えを聞いて、ローゼンベルガーはため息をついた。
ヴィクストレームは話を続ける。
「ただ、怪物は炎を吐くしか攻撃方法はないようですね」
「そのようだな」
「物理的な攻撃のみが有効なのであれば、念動魔術で岩をぶつけるという方法もあります。わずかですが、ダメージを与えられるでしょう。今日はこれ以上追跡するのは危険なので、ここで夜を明かすことにしましょう」
辺りは暗くなり始めていた。
「わかった」
二人は、それぞれ自分のカバンから干し肉を取り出してそれを食べ始めた。
そして、水筒で水を摂取する。
ローゼンベルガーは辺りから枯れ枝や草を拾い集め、ヴィクストレームはそれに魔術で火を灯し、二人はそれで暖を取りつつ眠りに就いた。
ヴィクストレームが幻影魔術を使ったので、クリーガーや見張りの隊員にも気づかれることは無く出発することができた。
辺りは明るくなり始めていたので、明かりを灯さなくても足元は見ることができた。二人は徒歩で怪物の足跡の追跡を開始する。
途中、ヴィクストレームはローゼンベルガーに話しかける。
「本当にクリーガーと知り合いだったのですね」
「ああ、言っただろ、あいつが逃亡の手助けをしてくれたってね」
「あなたは、彼や彼の部下を斬ったのでしょう? よく手助けしてくれましたね」
「そうだな…。理由はわからない。何か事情があるのだろう」
「彼の気が変わって、あなたを捕らえると言ったら?」
その質問に、ローゼンベルガーは腕組みをして不敵に笑いながら言う。
「俺を捕らえることなんで出来ないよ。あいつも剣の腕は良いが、俺には勝てない。それにあいつも俺とやり合うほど馬鹿じゃないだろう。それに今は俺だけじゃなく、あんたの魔術がある。仮に軍隊が束になってやって来ても、全く手出しできないんじゃないか?」
「まあ、私たちも彼らも今は怪物退治が優先ですから、彼らと戦うことはないでしょうね」
「ま、そうだな」
時折、冷たい雨が降る中、二人は延々と続く登り坂を途中休みながら、怪物の足跡をたどる。
夕方ごろ、少し先で足跡が途切れ、新たに雪の上に足跡が付いていく。
ついに追いついた。あそこに透明な怪物がいるようだ。
ヴィクストレームとローゼンベルガーが一度立ち止った。
怪物は炎を吐くという話をクリーガーに聞いたのを思い出す。
他にも何か知られていないことがあるかもしれない。全く正体のわからない相手がどのような攻撃を仕掛けて来るのが不明なため、遠巻きに様子を見る。
怪物は二人に気が付いていない様だった。足跡は変わらずにゆっくりとボールック山脈方向へ向かっている。
「やるか?」
突然、ローゼンベルガーは、そう言って剣を抜いた。
様子を見ているだけでは物足りず、待ちきれなくなったようだ。
ヴィクストレームは少し考えたが、彼に任せてみることにした。
「良いでしょう…。炎に気を付けて」
「ああ、わかっているさ」
そう言うと、ローゼンベルガーは空間魔術を使い一瞬で透明な怪物に近づき、数秒間、怪物がいるであろうあたりを剣で切りつけた。
手ごたえがあったようだ。怪物は聞いたことの無いうめき声をあげて、炎をあたりに向けて放ち始めた。
ローゼンベルガーは再び空間魔術で、一瞬でヴィクストレームのところへと戻って来た。
二人のいるところまでは、かろうじて炎は届かない。
ローゼンベルガーは息を切らせながら言った。
「すごく硬い皮膚だ。剣が少ししか通らない。剣だけで倒すとしたら、何百回も突き付ける必要があるぞ」
「そうですか。では、私が魔術を使ってみます」
そう言って、ヴィクストレームは二、三歩ほど歩み出た。
そして、手のひらを掲げると、そこから轟音と共に何筋もの稲妻が走った。
稲妻は怪物の居るあたりで途切れた。直撃したようだ。
怪物は再び、うめき声を上げて無差別に炎を放つが、ほとんどダメージを受けていないようだ。
そして、どうやら怪物は二人に気が付いたようだ、足跡がこちらに近づいて来るのがわかった。
思わず、二人は後ずさりする。
「もう一度行くぜ」
ローゼンベルガーはそう言うと、再び空間魔術を使い、目にも止まらぬ速さで怪物に近づき何度も切りつける。怪物はうめき声を上げ、再び炎を放つ。
ローゼンベルガーはヴィクストレームのところに戻って来た。やはり、さほどダメージを与えられていなようだ。
ヴィクストレームは次は火炎魔術を使い、火の玉をいくつも手のひらから放った。
火の玉は怪物の居るあたりで弾けた。怪物はうめき声を上げるが、大きなダメージを与えた様子はない。
「魔術による攻撃もほとんど効果が無いようです」
「なんてやつだ!」
ローゼンベルガーは狼狽した。
「一旦引いて、対策を考えましょう。怪物は動きは遅いので私たちに追い付けないでしょう」
「あ、ああ…、わかった」
二人は一旦その場から離れて緩やかな坂を下っていた。
二人は怪物と遭遇した場所から三十分ほど離れたところで、怪物が追って来ないのを確認してから、小さな岩の上に座り込んだ。
「魔術も効かないのか。じゃあ、やっぱり、俺が何百回も斬りつけるしかないのか」
「そうかもしれません」
その答えを聞いて、ローゼンベルガーはため息をついた。
ヴィクストレームは話を続ける。
「ただ、怪物は炎を吐くしか攻撃方法はないようですね」
「そのようだな」
「物理的な攻撃のみが有効なのであれば、念動魔術で岩をぶつけるという方法もあります。わずかですが、ダメージを与えられるでしょう。今日はこれ以上追跡するのは危険なので、ここで夜を明かすことにしましょう」
辺りは暗くなり始めていた。
「わかった」
二人は、それぞれ自分のカバンから干し肉を取り出してそれを食べ始めた。
そして、水筒で水を摂取する。
ローゼンベルガーは辺りから枯れ枝や草を拾い集め、ヴィクストレームはそれに魔術で火を灯し、二人はそれで暖を取りつつ眠りに就いた。
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