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ユルゲン・クリーガー

出動

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 今回の任務で全体の指揮を執る帝国軍第五旅団の副旅団長レオニード・コバルスキーが、ルツコイ司令官に執務室で怪物捜索の命令を受けた翌朝、城の中庭に帝国軍百名とユルゲン・クリーガー以下傭兵部隊の全員の二百名、合計三百名が集まった。皆、整然と並んでいる。
 出発前にコバルスキーが短く訓示をして移動開始となった。移動には一行は海軍の船を使う。まず、船で港を出発し丸一日かけてオストハーフェンシュタットは向かう。その後は徒歩でナザッド・ボールック高原に向けて数日進軍し、オストハーフェンシュタット所属の第三旅団の部隊と合流する予定だ。
 一行は港の端にある海軍の桟橋まで街中を行軍する。帝国軍と傭兵部隊の一行は三隻の船に分乗する。桟橋に見えるのはいずれもフリゲート艦の “ウンビジーバー号”、“エンデクン号”、“ヘアラウスフォーダンド号”の三隻。一行はあらかじめ決められた船に整然と乗り込んで行く。
 一行がすべて乗り込んだ後、船はゆっくりと出航した。

 クリーガーは“エンデクン号”に乗船していた。オストハーフェンシュタットまでは隊員達には自由にさせていたので、多くの者が甲板の上で談笑していた。
 クリーガーは一人海を眺めていた。そこへ声を掛けた来たのは、傭兵部隊の隊員の一人であるレオン・ホフマンだ。
 彼は、大型の剣と盾を駆使する体格のしっかりした大柄で豪快な性格の男だ。後ろで束ねている長めの黒髪が特徴だ。彼は共和国軍の出身ではなく、帝国による占領の前は賞金稼ぎとして盗賊狩りなどをしていた。占領後は帝国によって賞金稼ぎの活動は禁止されたが、傭兵部隊が設立され公募が始まると、盗賊討伐も任務内容に含まれていたということで傭兵部隊に参加してきたクチだ。以前は、盗賊狩りなどで数々の修羅場をくぐってきた男だ。そのせいか、顔や体に複数傷跡がある。実戦の経験は、私よりも遥かに多い。彼の仲間だった者の数人も傭兵部隊に参加している。
「隊長、今回の任務は楽しみです。怪物退治なんて腕が鳴るよ」
「怪物の詳細は分かっていないが、村が全滅させられたりして、かなり凶暴な怪物らしい」
「それは楽しみだ。いままでの過激派の取り締まりだけじゃあ、腕が鈍ってしまう」
「張り切りすぎないようにな」
「わかってるさ」
 ホフマンはそう言うと笑いながら立ち去って行った。
 確かに、彼や彼と同じように賞金稼ぎだった者は、これまでの任務では物足りないと感じているようだった。そのせいもあって、これまに数名が傭兵部隊を去って行っている。
 クリーガーは、今回の任務は彼らの様に何度も危険な任務に就いていた者達が活躍できるかもしれないと思った。

 その後、正午からは船内であてがわれた個室で昼食をとる。傭兵部隊の副隊長で魔術師のエーベル・マイヤーが、一緒に食事を取ろうを言って部屋にやって来た。彼は背が低いが魔術師にしてはがっしりした体格をしている。クリーガーとは共和国軍時代からの友人で、五年以上の付き合いだ。
 クリーガーとマイヤーは食事を取りながらナザッド・ボールック高原での作戦について話をする。
「帝国軍のコバルスキーからは、状況について詳しく話を聞いた。まず、傭兵部隊を各部隊百名の二つに分けろと言われている。オストハーフェンシュタットの帝国軍もそれぞれ百名ずつに分けて捜索しているそうだ。なので、帝国軍の捜索隊が四つ、傭兵部隊の捜索隊が二つ、合計六つの捜索隊で別れて高原の怪物探しをすることになる」
「なるほど」
「そこで、君には傭兵部隊の一つの指揮をお願いする」
「わかったよ、隊長殿」
「ところで、怪物についての詳細は?」
「それが良く分かっていないらしい。これまでの犠牲者の周りには見たことのない巨大な足跡が残っていたそうだ。ルツコイ司令官によると熊などの十倍以上の大きさがあったそうだ」
「地竜の類だろうか?」
「可能性はある。最近、村が襲撃されて村人がほとんど犠牲になったらしい。しかし、昼間に怪物の襲撃があったのだが、生存者の中で怪物の姿を見た者がいないという」
 マイヤーは顔をしかめて話を続ける。
「しかし、怪物は相当な大きさなんだろ? 昼間に村が襲撃されたのに、姿が分からないというのは、一体どういうことなんだろうか?」
「わからんな。突然襲撃されたから生存者は逃げるので必死で、怪物を見る余裕がなかったとか」
「もしくは……、姿の見えない怪物か?」
「そんな怪物聞いたことがない」
「だよな……」
 マイヤーは何かを考えこむようにうつむいた。
 クリーガーも少し考えてから口を開いた。
「村は火で焼かれて全滅したという。私は新種の地竜の類だと思っている」
「そうだろうか?」
 マイヤーはその案には不満がありそうだった。クリーガーは話を続ける。
「いずれにせよ、かなり危険な相手だ、これまでのような過激派や盗賊退治のようにはいかないと思う」
「わかった、覚えておこう」
 マイヤーはいつになく真面目な顔で返事をした。
 クリーガー達は重苦しい空気の中、食事を続けた。
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