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アグネッタ・ヴィクストレーム

オストハーフェンシュタット

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 ヴィクストレームとヤゾフは駅馬車を乗り継ぎ、二日かけてオストハーフェンシュタットへ到着した。
 時刻は既に夕暮れとなっており、あたりは薄暗くなりかけていた。
 停車場で下車した二人は、近くの安宿に向かう。今日のところは、とりあえずそこに泊って、明日の朝一で地元の警察署に向かい、ローゼンベルガーの捜査の協力について話し合いをすることになった。

 ヴィクストレームとヤゾフは別れ、それぞれの宿の自室に入った。
 ヴィクストレームは二日間の旅の疲れから体を休めたいと思い、荷物を床に置くと体をベッドに投げ出した。そして、考える。
 ローゼンベルガーをどうするか? ヴィット王国の魔術を不法に取得している彼は始末しなければならない。すぐに、そうすることも頭をよぎったが、やはり彼にはまだ利用価値がある。現在、ナザッド・ボールック高原の怪物の全貌が全くわからないので協力者が必要だ。ヴィクストレームは加速魔術を扱える彼を怪物討伐のために協力させようと考えていた。

 ヴィクストレームは横になったまま、しばらく考え続ける。
 ヤゾフにも、いつまでも付きまとわれるのは非常に邪魔だ。どうすればいいのか。
 警察やヤゾフたち秘密警察がヴィクストレームに付きまとうのは止めさせるには、ローゼンベルガーには、また死んだことに偽装するしかないだろう。
 それしかない。しかし、それをどうやって実行するか。
 警察関係者かヤゾフの目の前でローゼンベルガーに偽装死をしてもらう必要がある。以前、ローゼンベルガーは死んだと偽装して、身を潜めていたと聞いた。どういう方法でそれを行ったのかは詳しくは聞いていない。場合によっては同じような方法を採ることができるかもしれない。
 いずれにせよ、それを実行するためには、一度ローゼンベルガーにも会って、そうすることを伝えなければいけない。それも誰にも気付かれずにだ。
 ローゼンベルガーと会う約束をした日程はちょうど明日の夕方だ。安レストランの“ムーヴェ”の前で会うことになっている。
 幻影魔術を使い、姿を消せばこの宿屋を出るのは簡単だろう。そうすれば、ローゼンベルガーとの約束の場所に向かうことができる。

 ヴィクストレームは考えるの止めて、身を起こした。少し空腹であったが、もう外出禁止の時間だ。街中の市場などに食料を買いに行くことは出来ないので、宿屋に併設されている食堂に向かう。
 起き上がってロビーまで降り、つながっている食堂へ続く扉を開ける。
 食堂の中はさほど混んでいなかったが、他の客はほとんどが港で働く人夫たちのようだ。ヴィクストレームが入出すると一斉に男たちの視線が集まる。男たちは何やらヒソヒソとヴィクストレームについて話しているようだ。
 先日、“ムーヴェ”で絡んできた男を念動魔術で吹き飛ばしたことが噂で広まっているのだろう。ヴィット王国の独特の刺繍の入った民族衣装を着ている女と言えばヴィクストレームだけだ。
 もう、絡んでくる男はいなさそうだ。

 ヴィクストレームは軽く溜息をつくと食堂の中に入り、空いている席に座るとウエイトレスに注文を言う。そして、食事が出て来るのを待つ。
 そして、ヴィクストレームは帝国軍と傭兵部隊について考える。彼らがズーデハーフェンシュタットを出発するのを見て一週間以上経っている。謎の怪物の方はどうなったのであろうか。
 帝国軍が怪物に全滅させられてしまっている可能性もある。
 可能性は少ないが、逆に怪物が帝国軍に簡単に退治されてしまっているとしたら、怪物を作り出した魔術師の手掛かりは絶たれるだろう。
 いずれにせよ、ヴィクストレームにとって良くない事態だ。広大なナザッド・ボールック高原を全て一人で捜索するのはほぼ不可能だ。
 最良なのは、帝国軍が怪物と魔術師の両方を退治してくれることだが、その可能性はほぼゼロだ。怪物はわからないが、ヴィット王国の魔術師は強力な魔術を使う。数百人の兵士でとても太刀打ちできるとは思えない。

 そう考えながらしばらくすると、注文した食事をウエイトレスが持って来た。
 ヴィクストレームそれをゆっくり食べながら、考えを続けた。
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