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序章
委任状
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翌日の夕方、シュミットはヴィクストレームに会うために約束の時間にいつもの安レストランの“ムーヴェ”の前に立っていた。あたりは薄暗く、人通りもほとんどなくなっていた。
しばらく待っていると、どこからともなくヴィクストレームが姿を現した。今日も昨日と同じヴィット王国特有のデザインの刺繍の入った服を着ている。
シュミットは彼女の姿を見つけると右手を上げて挨拶をした。
「やあ」
ヴィクストレームは静かにうなずいて答えた。
「委任状は?」
「ああ、書いてきたよ」
シュミットは胸のポケットから一枚の紙を取り出して彼女に手渡した。
彼女は注意深く紙に書かれた文字を注意深く読んで確認をする。そして、紙から目を上げてシュミットに向き直った。
「名前が違うけど」
ヴィクストレームは、少々、怪訝そうに質問をする。
「ああ、それか。事情があって、以前は、そこにあるようにギュンター・ローデンベルガーと名乗っていたんだよ。銀行の貸金庫はその名義で借りている」
シュミットは苦笑いをしながら答えた。
「どうして名前を変えているのかしら?」
ヴィクストレームは当然持つであろう疑問を口にした。
「実は…、警察に追われているんだ」
「そうなの…」
ヴィクストレームは再び紙に目を落として文章を読んだ。
「あなたが警察に追われているとしたら、この委任状を持って銀行を訪問したら面倒なことになりそうね」
「そう…、だよな」
シュミットは歯切れ悪く答える。ヴィクストレームは、無表情で顔から感情を読み取ることができないので、シュミットには彼女が何を考えているのか推測ができなかった。
しかし、彼女はさほど不安を持っていないようだ。
「とりあえず、早速、明日ズーデハーフェンシュタットに向けて出発するわ。銀行の貸金庫から上手く魔術書を取り出して来られるかどうかはわからないけれど。トラブルが無ければ行って戻って来るのに五日程度で済むでしょうが、そうはいきそうにないわね」
ヴィクストレームは少しうつむき、顎に手を当て考える仕草をした。しばらくして再び口を開いた。
「二週間後の同じ時間にまたここで会いましょう。それで、その後、念動魔術をどう教えていくか相談しましょう」
「ああ、わかったよ」
「ところで、あなた何の罪で警察に追われているの?」
「強盗、殺人、誘拐だ」
「極悪人ね」
そう言いながら、ヴィクストレームはシュミットを恐れる様子は全くなかった。昨日、見たような魔術を持っているから並大抵の相手では彼女の危害を食わえることはできないのであろう。彼女自身がそのことを理解しているので、この落ち着いていて冷静な態度を取ることができるのだ。
「詳しく聞かせてくれるかしら?」
「ああ。そもそも、俺は共和国が帝国に占領されて、奴らに恨みがあったんだ、知り合いも何人か戦死したからね。それで、何か奴らに復讐をしてやろうと思っていてね。それで、たまたま、現金輸送馬車について知ったので、“加速魔術”を使って三回馬車を襲った。最初の2回はうまく行ったが、3回目はクリーガーという男に邪魔されて、うまくいかなった。その後、警察による捜査が厳しくなったんで街で潜伏していたんだが、偶然、セフィード王国の王女が船で遭難して孤児院で保護されているのを知り、逃亡するためにその王女を人質にしたんだ。そして、潜伏中にクリーガーと王女を解放する代わりに逃亡させろと裏取引をして、ここまで逃げて来た」
「なるほどね」
ヴィクストレームは少し考えてから話を続ける。
「話に出てきたクリーガーという男は何者?」
「傭兵部隊の隊長だ。元共和国軍の精鋭騎士の一人だったらしい」
「共和国軍の精鋭と言うと、“深蒼の騎士”?」
「そうだ」
「なるほどね」
ヴィクストレームは納得したように言う。また、うつむいて考えてからシュミットに向き直る。
「ともかく、あなたが犯罪者で警察に追われているということになると、いろいろ厄介だわ」
それに対してシュミットは答える。
「ただ、裏取引をした後、ギュンター・ローデンベルガーとしては死んだことになっていて、指名手配も取り消されている。だから警察はもう捜査はしていないはずだ」
「とはいえ、死んだはずの人間の委任状を持っているとしたら、疑われるのは間違いないわね」
ヴィクストレームは軽くため息をついてから話を続けた。
「まあ、何とかなるわ」
彼女はクルリと振り返り、「じゃあ二週間後」と行ってその場を立ち去った。
彼女の後姿が闇に消えるのを見送った後、シュミットは安レストラン“ムーヴェ”の中に入り、いつもの席に座った。
そして、食事を注文した後、ヴィクストレームの事を考えた。思わず自分の事をいろいろ話してしまったが、自分を警察に売ったりしないだろうか? そんな不安が頭をよぎる。
まあ、警察に追われたら、加速魔術がある。それで逃げおおせることができるだろうが、別の街に移動して名前もまた変えないといけないな。
とりあえずは、これまで通り港で働き続け、状況を見て判断することにした。
しばらく待っていると、どこからともなくヴィクストレームが姿を現した。今日も昨日と同じヴィット王国特有のデザインの刺繍の入った服を着ている。
シュミットは彼女の姿を見つけると右手を上げて挨拶をした。
「やあ」
ヴィクストレームは静かにうなずいて答えた。
「委任状は?」
「ああ、書いてきたよ」
シュミットは胸のポケットから一枚の紙を取り出して彼女に手渡した。
彼女は注意深く紙に書かれた文字を注意深く読んで確認をする。そして、紙から目を上げてシュミットに向き直った。
「名前が違うけど」
ヴィクストレームは、少々、怪訝そうに質問をする。
「ああ、それか。事情があって、以前は、そこにあるようにギュンター・ローデンベルガーと名乗っていたんだよ。銀行の貸金庫はその名義で借りている」
シュミットは苦笑いをしながら答えた。
「どうして名前を変えているのかしら?」
ヴィクストレームは当然持つであろう疑問を口にした。
「実は…、警察に追われているんだ」
「そうなの…」
ヴィクストレームは再び紙に目を落として文章を読んだ。
「あなたが警察に追われているとしたら、この委任状を持って銀行を訪問したら面倒なことになりそうね」
「そう…、だよな」
シュミットは歯切れ悪く答える。ヴィクストレームは、無表情で顔から感情を読み取ることができないので、シュミットには彼女が何を考えているのか推測ができなかった。
しかし、彼女はさほど不安を持っていないようだ。
「とりあえず、早速、明日ズーデハーフェンシュタットに向けて出発するわ。銀行の貸金庫から上手く魔術書を取り出して来られるかどうかはわからないけれど。トラブルが無ければ行って戻って来るのに五日程度で済むでしょうが、そうはいきそうにないわね」
ヴィクストレームは少しうつむき、顎に手を当て考える仕草をした。しばらくして再び口を開いた。
「二週間後の同じ時間にまたここで会いましょう。それで、その後、念動魔術をどう教えていくか相談しましょう」
「ああ、わかったよ」
「ところで、あなた何の罪で警察に追われているの?」
「強盗、殺人、誘拐だ」
「極悪人ね」
そう言いながら、ヴィクストレームはシュミットを恐れる様子は全くなかった。昨日、見たような魔術を持っているから並大抵の相手では彼女の危害を食わえることはできないのであろう。彼女自身がそのことを理解しているので、この落ち着いていて冷静な態度を取ることができるのだ。
「詳しく聞かせてくれるかしら?」
「ああ。そもそも、俺は共和国が帝国に占領されて、奴らに恨みがあったんだ、知り合いも何人か戦死したからね。それで、何か奴らに復讐をしてやろうと思っていてね。それで、たまたま、現金輸送馬車について知ったので、“加速魔術”を使って三回馬車を襲った。最初の2回はうまく行ったが、3回目はクリーガーという男に邪魔されて、うまくいかなった。その後、警察による捜査が厳しくなったんで街で潜伏していたんだが、偶然、セフィード王国の王女が船で遭難して孤児院で保護されているのを知り、逃亡するためにその王女を人質にしたんだ。そして、潜伏中にクリーガーと王女を解放する代わりに逃亡させろと裏取引をして、ここまで逃げて来た」
「なるほどね」
ヴィクストレームは少し考えてから話を続ける。
「話に出てきたクリーガーという男は何者?」
「傭兵部隊の隊長だ。元共和国軍の精鋭騎士の一人だったらしい」
「共和国軍の精鋭と言うと、“深蒼の騎士”?」
「そうだ」
「なるほどね」
ヴィクストレームは納得したように言う。また、うつむいて考えてからシュミットに向き直る。
「ともかく、あなたが犯罪者で警察に追われているということになると、いろいろ厄介だわ」
それに対してシュミットは答える。
「ただ、裏取引をした後、ギュンター・ローデンベルガーとしては死んだことになっていて、指名手配も取り消されている。だから警察はもう捜査はしていないはずだ」
「とはいえ、死んだはずの人間の委任状を持っているとしたら、疑われるのは間違いないわね」
ヴィクストレームは軽くため息をついてから話を続けた。
「まあ、何とかなるわ」
彼女はクルリと振り返り、「じゃあ二週間後」と行ってその場を立ち去った。
彼女の後姿が闇に消えるのを見送った後、シュミットは安レストラン“ムーヴェ”の中に入り、いつもの席に座った。
そして、食事を注文した後、ヴィクストレームの事を考えた。思わず自分の事をいろいろ話してしまったが、自分を警察に売ったりしないだろうか? そんな不安が頭をよぎる。
まあ、警察に追われたら、加速魔術がある。それで逃げおおせることができるだろうが、別の街に移動して名前もまた変えないといけないな。
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