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第9話・王女メリナ
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午後、私はメリナを孤児院へ連れて行ったとの報告のためにルツコイの執務室を訪れた。
しかし、私が自分の用件を言う前に、先にルツコイが話題を振ってきた。聞くと帝国軍の者がアレナ王国まで行き、ダクシニーの情報を入手してきたという。
ルツコイは腕組みをしながら険しい表情で話をする。
「どうやら、最近、シンドゥ王国が海を越えて、セフィード王国を侵攻したらしい。数か月の戦いの後、セフィード王国は降伏したようが、シンドゥ王国はセフィード王国を完全に占領はせずに属国として従わせることにして、奴隷や人質を要求したらしい。セフィード王国は従うしかなく、数万人の住民を奴隷として供出したようだ。また、王族から人質をとして王女を出して、シンドゥ王国へ向かわせた。そこで、シンドゥ王国へ向かう船何隻かが、大きな嵐で遭難したとのことだ。そのうちの一隻は君たちが見つけた漂着船だったようだ」
「ひょっとして、その人質の王女はメリナということですか?」
「どうやら、そうのようだ。一人だけ船内の別の部屋にいたところからその可能性が高いと思う。至急、本人に確認しなければならんがね」
私はその話を聞いて驚いた。ルツコイが引き続き話した内容によると、王族の子供には家庭教師がついていて、こちらの言葉を教えているらしい、メリナもこちらの言葉がわかっていたことや、一人だけ別の部屋に監禁されていたところから、その可能性は高いようだった。
メリナは何故、自分が王女と言わなかったのだろうか?
ルツコイが不安げに話を続ける。
「ひょっとしたら、シンドゥ王国か、セフィード王国からメリナを返せという依頼がくるかもしれない」
「その時は、どうするのですか?」
「そうなれば、返すほかないだろう」
「私は反対です。彼女は人質として、どういう扱いを受けるか分からないのですよ?」
「もし、彼女がシンドゥ王国に行かなければ、セフィード王国は別の人質を出すように言うだろう。場合によっては、再度セフィード王国が攻撃を受けるかもしれんのだぞ。それに、もし、シンドゥ王国がここに王女がいるということを知って、こちらを武力で脅して来たらどうする? 情報によるとシンドゥ王国の軍事力は、かなり強大と聞く。我々、帝国軍は知っての通り、旧共和国の統治の為に人員が割かれていて、到底対応できないだろう」
確かに、人質のメリナが居ないとなると、シンドゥ王国は“約束が違う”とセフィード王国に再度攻撃を掛けるかもしれない。
私はルツコイの話に返答できず黙っていた。我々が、これに直接関与するには大陸ダクシニーは距離がありすぎる。
ルツコイは話を続ける。
「今のところ、シンドゥ王国から何も言ってきていない。動きがあるまでは、メリナは孤児院に預かってもらうということでいいだろう」
「わかりました」
ルツコイは私の返事を聞いて満足したように頷いた。私はそれを見て本来、執務室を訪れて伝えたかった話題に変えた。
「ところで、現金輸送馬車襲撃の件です」
「うむ」
「今日の午前、メリナを連れて孤児院に行き、そこの院長先生と話をしたのですが、指名手配の犯人が先日、寄付をしに来たと言っていました」
「何?」
ルツコイは驚いて目を見開いた。私は話を続ける。
「銀貨の入った袋を持ってきたということで、おそらくは現金輸送馬車から奪ったものかと思われます。孤児院の帰りにアーレンス警部にお会いして、この件は話してあります。警部が調べると言っていました」
「そうか、それは犯人逮捕の足掛かりになるかもしれんな。しかし、それが本当なら、奪った金を孤児院に寄付した犯人は“義賊”というか。ひょっとしたら他にも奪った銀貨をどこかに寄付しているかもしれん」
「アーレンス警部も同様な事を言っておりました」
「幸い、あれ以降、現金輸送馬車は襲撃されていない。引き続き軍も捜索を続ける。君ら傭兵部隊も捜索を続けてくれ」
「はい」
私は立ち上がり敬礼して執務室を後にした。
翌日すぐに、ルツコイが直接、孤児院まで出かけ、メリナがセフィード王国の王女であることを本人に確認した。なぜ、そのことを黙っていたかを聞くと『我々に迷惑が掛かるかもしれないから』という事らしい。シンドゥ王国が奪還に来た時、自分の身元が分からなければ、帝国は何も知らない、ということになり何も騒動が起こらずに済むだろうと思ったようだ。
しかし、我々は彼女が王女であると知ってしまった。何かあっても今後、何らかの対応に迫られる可能性が出てしまった。
一方、現金輸送馬車の襲撃の犯人について、指名手配書が出回り始めて約一カ月と少しの間、警察を始め軍や傭兵部隊の一部も捜索を協力するも犯人を見つけ出すことはできなかった。
しかし、私が自分の用件を言う前に、先にルツコイが話題を振ってきた。聞くと帝国軍の者がアレナ王国まで行き、ダクシニーの情報を入手してきたという。
ルツコイは腕組みをしながら険しい表情で話をする。
「どうやら、最近、シンドゥ王国が海を越えて、セフィード王国を侵攻したらしい。数か月の戦いの後、セフィード王国は降伏したようが、シンドゥ王国はセフィード王国を完全に占領はせずに属国として従わせることにして、奴隷や人質を要求したらしい。セフィード王国は従うしかなく、数万人の住民を奴隷として供出したようだ。また、王族から人質をとして王女を出して、シンドゥ王国へ向かわせた。そこで、シンドゥ王国へ向かう船何隻かが、大きな嵐で遭難したとのことだ。そのうちの一隻は君たちが見つけた漂着船だったようだ」
「ひょっとして、その人質の王女はメリナということですか?」
「どうやら、そうのようだ。一人だけ船内の別の部屋にいたところからその可能性が高いと思う。至急、本人に確認しなければならんがね」
私はその話を聞いて驚いた。ルツコイが引き続き話した内容によると、王族の子供には家庭教師がついていて、こちらの言葉を教えているらしい、メリナもこちらの言葉がわかっていたことや、一人だけ別の部屋に監禁されていたところから、その可能性は高いようだった。
メリナは何故、自分が王女と言わなかったのだろうか?
ルツコイが不安げに話を続ける。
「ひょっとしたら、シンドゥ王国か、セフィード王国からメリナを返せという依頼がくるかもしれない」
「その時は、どうするのですか?」
「そうなれば、返すほかないだろう」
「私は反対です。彼女は人質として、どういう扱いを受けるか分からないのですよ?」
「もし、彼女がシンドゥ王国に行かなければ、セフィード王国は別の人質を出すように言うだろう。場合によっては、再度セフィード王国が攻撃を受けるかもしれんのだぞ。それに、もし、シンドゥ王国がここに王女がいるということを知って、こちらを武力で脅して来たらどうする? 情報によるとシンドゥ王国の軍事力は、かなり強大と聞く。我々、帝国軍は知っての通り、旧共和国の統治の為に人員が割かれていて、到底対応できないだろう」
確かに、人質のメリナが居ないとなると、シンドゥ王国は“約束が違う”とセフィード王国に再度攻撃を掛けるかもしれない。
私はルツコイの話に返答できず黙っていた。我々が、これに直接関与するには大陸ダクシニーは距離がありすぎる。
ルツコイは話を続ける。
「今のところ、シンドゥ王国から何も言ってきていない。動きがあるまでは、メリナは孤児院に預かってもらうということでいいだろう」
「わかりました」
ルツコイは私の返事を聞いて満足したように頷いた。私はそれを見て本来、執務室を訪れて伝えたかった話題に変えた。
「ところで、現金輸送馬車襲撃の件です」
「うむ」
「今日の午前、メリナを連れて孤児院に行き、そこの院長先生と話をしたのですが、指名手配の犯人が先日、寄付をしに来たと言っていました」
「何?」
ルツコイは驚いて目を見開いた。私は話を続ける。
「銀貨の入った袋を持ってきたということで、おそらくは現金輸送馬車から奪ったものかと思われます。孤児院の帰りにアーレンス警部にお会いして、この件は話してあります。警部が調べると言っていました」
「そうか、それは犯人逮捕の足掛かりになるかもしれんな。しかし、それが本当なら、奪った金を孤児院に寄付した犯人は“義賊”というか。ひょっとしたら他にも奪った銀貨をどこかに寄付しているかもしれん」
「アーレンス警部も同様な事を言っておりました」
「幸い、あれ以降、現金輸送馬車は襲撃されていない。引き続き軍も捜索を続ける。君ら傭兵部隊も捜索を続けてくれ」
「はい」
私は立ち上がり敬礼して執務室を後にした。
翌日すぐに、ルツコイが直接、孤児院まで出かけ、メリナがセフィード王国の王女であることを本人に確認した。なぜ、そのことを黙っていたかを聞くと『我々に迷惑が掛かるかもしれないから』という事らしい。シンドゥ王国が奪還に来た時、自分の身元が分からなければ、帝国は何も知らない、ということになり何も騒動が起こらずに済むだろうと思ったようだ。
しかし、我々は彼女が王女であると知ってしまった。何かあっても今後、何らかの対応に迫られる可能性が出てしまった。
一方、現金輸送馬車の襲撃の犯人について、指名手配書が出回り始めて約一カ月と少しの間、警察を始め軍や傭兵部隊の一部も捜索を協力するも犯人を見つけ出すことはできなかった。
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