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第2話・現金輸送馬車襲撃事件
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翌日の午前。
私は司令官ルツコイに呼び出された。
彼の執務室に到着すると、扉をノックし開け、敬礼をして中に入った。
ルツコイは顔を上げて私を確認した。
「ご苦労。座ってくれ」
私は言われたままに、執務机の前の椅子に座る。
「昨日はご苦労だった」
「いえ」
「漂着船は海軍に頼んで、数日中に曳航することになった。海軍の桟橋に着けて、どこの船がどういう経緯で漂着したか調べさせる予定だ。まあ、時間はかかるだろうが」
「わかりました」
「今日、呼んだのは、昨日のこととは別件だ」。ルツコイは体を前かがみにして話し始めた。「実は、最近、二回、現金輸送馬車が襲われた」
「現金輸送馬車ですか?」
「そうだ。知っての通り、ここが帝国の占領後も共和国の通貨が使われていたが、徐々に帝国の通貨に置き換えていくのは知っていると思う。現在は両方の通貨が流通している」。
「はい、もちろん知っています」
「共和国の通貨クラムから帝国の通貨イェブイルへ変えるため大量のイェブイル銀貨を幾度となく首都から輸送している。逆にクラム銀貨を首都へと送っている。クラム銀貨は回収され、溶かし、改めてイェブイル銀貨へと生まれ変わる。これまでの約半年は、とくに事故もなく輸送できていたが、三週間前と四日前の二回、輸送馬車が襲われた」
「それは初耳です」
「そうだろう、現金輸送のことは極秘だからな。輸送馬車が襲撃されない様、軍の内部でも時間やルートは常に秘密にされている。知っているのはごく一部の人間のみだ」
「しかし、襲撃されてしまったということですか?」
「その通り」
ルツコイは軽くため息をついて話を続ける。
「関係者が情報を漏らしている可能性も鑑みて、“エヌ・ベー“ も調査に動いている」
エヌ・ベーとは、 “第零旅団“ と呼ばれる帝国の秘密警察の通称だ。
「襲撃された場所は、ズーデハーフェンシュタットを出て半日もしない距離の所だ。二回とも襲撃された時の護衛は兵士が四名、馭者一人。彼らは全員殺害された。馬車は襲撃された場所にそのままにされ、積んでいた銀貨の一部は持ち去られていたが、多くが残っていた」
「残っていたんですか?」
「そうだ。どうやら全部持って行くことができなかった様だ」
「馬車ごと持って行かなかった理由でもあるのでしょうか?」
「わからんな」
ルツコイは腕組みをして話を続ける。
「それで、警察のアーレンス警部は知っているな?」
「ヴェールテ家の連続殺人事件の時、お会いしています」
「そうか。彼にも意見を求めた所、襲撃犯は単独か少人数。おそらく銀貨の量が多くて全て持ち去ることが不可能だったのだろうと」
「それで、多くの銀貨を残していったと」
「そういうことらしい」
「間が抜けていますね」
「犯人は、そんなに大金を必要としていないか、目的は金ではなく、帝国に対する恨みからの犯行ではないか、というのがアーレンスの目立てだ」
「なるほど」
「それで、傭兵部隊に次の現金輸送馬車の護衛の任務を与える。さっき言った様に、日時とルートは当日のその時まで教えることは出来ないが、出発は数日中の予定だ」
「わかりました」
「以上だ」
私は立ち上がって敬礼した。
ルツコイも立ち上がって制服の乱れを整えながら話を続ける。
「今から、漂流船の生き残りの少女に話を聞きに行こうと思っているが、君も立ち会え」
「はい」
私とルツコイは執務室を後にし、少女がいる城の医務室に向かった。
私は司令官ルツコイに呼び出された。
彼の執務室に到着すると、扉をノックし開け、敬礼をして中に入った。
ルツコイは顔を上げて私を確認した。
「ご苦労。座ってくれ」
私は言われたままに、執務机の前の椅子に座る。
「昨日はご苦労だった」
「いえ」
「漂着船は海軍に頼んで、数日中に曳航することになった。海軍の桟橋に着けて、どこの船がどういう経緯で漂着したか調べさせる予定だ。まあ、時間はかかるだろうが」
「わかりました」
「今日、呼んだのは、昨日のこととは別件だ」。ルツコイは体を前かがみにして話し始めた。「実は、最近、二回、現金輸送馬車が襲われた」
「現金輸送馬車ですか?」
「そうだ。知っての通り、ここが帝国の占領後も共和国の通貨が使われていたが、徐々に帝国の通貨に置き換えていくのは知っていると思う。現在は両方の通貨が流通している」。
「はい、もちろん知っています」
「共和国の通貨クラムから帝国の通貨イェブイルへ変えるため大量のイェブイル銀貨を幾度となく首都から輸送している。逆にクラム銀貨を首都へと送っている。クラム銀貨は回収され、溶かし、改めてイェブイル銀貨へと生まれ変わる。これまでの約半年は、とくに事故もなく輸送できていたが、三週間前と四日前の二回、輸送馬車が襲われた」
「それは初耳です」
「そうだろう、現金輸送のことは極秘だからな。輸送馬車が襲撃されない様、軍の内部でも時間やルートは常に秘密にされている。知っているのはごく一部の人間のみだ」
「しかし、襲撃されてしまったということですか?」
「その通り」
ルツコイは軽くため息をついて話を続ける。
「関係者が情報を漏らしている可能性も鑑みて、“エヌ・ベー“ も調査に動いている」
エヌ・ベーとは、 “第零旅団“ と呼ばれる帝国の秘密警察の通称だ。
「襲撃された場所は、ズーデハーフェンシュタットを出て半日もしない距離の所だ。二回とも襲撃された時の護衛は兵士が四名、馭者一人。彼らは全員殺害された。馬車は襲撃された場所にそのままにされ、積んでいた銀貨の一部は持ち去られていたが、多くが残っていた」
「残っていたんですか?」
「そうだ。どうやら全部持って行くことができなかった様だ」
「馬車ごと持って行かなかった理由でもあるのでしょうか?」
「わからんな」
ルツコイは腕組みをして話を続ける。
「それで、警察のアーレンス警部は知っているな?」
「ヴェールテ家の連続殺人事件の時、お会いしています」
「そうか。彼にも意見を求めた所、襲撃犯は単独か少人数。おそらく銀貨の量が多くて全て持ち去ることが不可能だったのだろうと」
「それで、多くの銀貨を残していったと」
「そういうことらしい」
「間が抜けていますね」
「犯人は、そんなに大金を必要としていないか、目的は金ではなく、帝国に対する恨みからの犯行ではないか、というのがアーレンスの目立てだ」
「なるほど」
「それで、傭兵部隊に次の現金輸送馬車の護衛の任務を与える。さっき言った様に、日時とルートは当日のその時まで教えることは出来ないが、出発は数日中の予定だ」
「わかりました」
「以上だ」
私は立ち上がって敬礼した。
ルツコイも立ち上がって制服の乱れを整えながら話を続ける。
「今から、漂流船の生き残りの少女に話を聞きに行こうと思っているが、君も立ち会え」
「はい」
私とルツコイは執務室を後にし、少女がいる城の医務室に向かった。
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