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第3話 航海
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翌朝、ダーガリンダ王国へ向けて出発の日、王国へ向かう命令を受けた帝国軍兵士と傭兵部隊の全員が中庭に集合した。
帝国軍の兵士は五十名ほどとアリョーナ・ザービンコワ始め軍医と看護師が数名が出動。そして、傭兵部隊は全員の二百名が出動する。
今回の任務は、救助活動なので、武器は最小限。救助活動に使われる道具や食料などは、先方のダーガリンダ王国で用意されているということで、その他の装備も軽装備となっている。
一同は中庭で整列している。ソフィアをはじめとする傭兵部隊の女性隊員五名も部隊の後ろの方に整列して出動前の訓示を聞いている。
まずは帝国軍司令官のルツコイが話し、次に傭兵部隊の隊長クリーガーが話をする。
クリーガーは大勢の前で話すのはあまり慣れていないのようなので、少々たどたどしい。
そんな訓示も終わり、まずは港の端にある海軍の桟橋まで行軍することとなる。一行は海軍の船を使う。港を出発した船の目的地は、ダーガリンダ王国北部にある首都で港町のジェーハールセリエ。そこまでは四日間の航海だ。
ジェーハールセリエで上陸した後は、さらに、ボールック山脈に向かって丸一日ほどかかる距離を移動すると落盤事故があった坑道があるという。
ソフィア、“深蒼の騎士”であったクリーガー、さらに元賞金稼ぎだった隊員以外で元共和国の兵士だった者の多くは、これまでに落盤事故の救援の任務に就いたことがあるようだ。
帝国軍と傭兵部隊の一行は三隻の船に分乗した。
ソフィアの乗る船は、フリゲート艦の “ウンビジーバー号” と言う船名だった。
航海の間は気候も良く、穏やかな海だった。それでも航海の途中、船酔いをするものが数名いたが、それ以外は何事もなかった。
途中、ソフィアが甲板で海を眺めていると、声を掛けて来た人物がいた。帝国軍の軍医のザービンコワだ。
「いい天気ね」
「ブランブルン共和国は天気の日が多いんです」
ソフィアは顔をザービンコワに向けて微笑んだ。
「そのようね。私の生まれ故郷でもある首都アリーグラードは曇りの日が多いのよ。冬は雪がたくさん降るし」
「一度、首都にも行ってみたいですね」
「そう? でも、あなたたちは何か任務がないと難しいでしょうね」
都市間の移動は旧共和国の人間は許可されていない。それは傭兵部隊と言えども同様だった。
ソフィアは話題を変えた。
「こちらの生活はどうですか?」
「おかげさまで、もう、だいぶ慣れて来たわ」
「よく、師と出かけているようですけど?」
ソフィアはちょっといたずらっぽく尋ねてみた。師のクリーガーとザービンコワが休暇を合わせてよく出かけているのは傭兵部隊の中でも有名になっていた。
ザービンコワは表情を変えずに答えた。
「師? ああ、クリーガー隊長の事? そうね、彼が案内してくれるから、おかげで、街に詳しくなったわ」
そう言うとザービンコワは、振り返って船内に戻って言った。
さすがに『付き合っているのか?』とまでは聞けなかった。ソフィアは苦笑した。しかし、普段の状況から見て、二人が付き合っているのは間違いないようだった。
別の日。
ソフィアがこの日の朝も甲板に上がると、オットー・クラクスが居るのを見つけた。
ソフィアと同じく最初から傭兵部隊に参加しているオットー・クラクスは、長身で金髪碧眼の男性で二十二歳になる。ズーデハーフェンシュタットの北にある都市モルデンの出身だ。
彼とは師であるユルゲン・クリーガーの下、一緒に剣の修練をする間柄だ。
とは言え、傭兵部隊以外の普段の生活では、ほとんど交流は無い。
任務でも同じものが当たることはほとんどなかったが、唯一、一緒の任務を担当したのは、少し前のヴェールテ家連続殺人事件だ。
ソフィアはオットーに声を掛けた
「おはよう」
オットーは海を見つめていたが、振り返って挨拶を返す。
「ああ、ソフィアか、おはよう」。そして、彼は再び海を見つめて言う。「海は良いね。実は船で海に出るのは初めてなんだよ。これまでは、グロースアーテッヒ川の渡し舟に乗ったぐらいだったからね」
「そうなんだ」。ソフィアは話題を変えた。「この前の任務のことだけど」
「ヴェールテ家連続殺人のことかい?」
「ええ」
「思ったより大変な任務だったね」
「でも、やりがいはあったわ。それに、楽しかった」
「そうだね」
オットーはそう言うと、少し笑ったように見えた。
彼は、任務で人質として囚われていた女性を救出し、その後、その女性と付き合っていると聞いた。
ソフィアは『誰も彼も色気付きやがって』、と心の中でつぶやいた。
四日後、船は予定通り何事もなくジェーハールセリエに到着する。
帝国軍の兵士は五十名ほどとアリョーナ・ザービンコワ始め軍医と看護師が数名が出動。そして、傭兵部隊は全員の二百名が出動する。
今回の任務は、救助活動なので、武器は最小限。救助活動に使われる道具や食料などは、先方のダーガリンダ王国で用意されているということで、その他の装備も軽装備となっている。
一同は中庭で整列している。ソフィアをはじめとする傭兵部隊の女性隊員五名も部隊の後ろの方に整列して出動前の訓示を聞いている。
まずは帝国軍司令官のルツコイが話し、次に傭兵部隊の隊長クリーガーが話をする。
クリーガーは大勢の前で話すのはあまり慣れていないのようなので、少々たどたどしい。
そんな訓示も終わり、まずは港の端にある海軍の桟橋まで行軍することとなる。一行は海軍の船を使う。港を出発した船の目的地は、ダーガリンダ王国北部にある首都で港町のジェーハールセリエ。そこまでは四日間の航海だ。
ジェーハールセリエで上陸した後は、さらに、ボールック山脈に向かって丸一日ほどかかる距離を移動すると落盤事故があった坑道があるという。
ソフィア、“深蒼の騎士”であったクリーガー、さらに元賞金稼ぎだった隊員以外で元共和国の兵士だった者の多くは、これまでに落盤事故の救援の任務に就いたことがあるようだ。
帝国軍と傭兵部隊の一行は三隻の船に分乗した。
ソフィアの乗る船は、フリゲート艦の “ウンビジーバー号” と言う船名だった。
航海の間は気候も良く、穏やかな海だった。それでも航海の途中、船酔いをするものが数名いたが、それ以外は何事もなかった。
途中、ソフィアが甲板で海を眺めていると、声を掛けて来た人物がいた。帝国軍の軍医のザービンコワだ。
「いい天気ね」
「ブランブルン共和国は天気の日が多いんです」
ソフィアは顔をザービンコワに向けて微笑んだ。
「そのようね。私の生まれ故郷でもある首都アリーグラードは曇りの日が多いのよ。冬は雪がたくさん降るし」
「一度、首都にも行ってみたいですね」
「そう? でも、あなたたちは何か任務がないと難しいでしょうね」
都市間の移動は旧共和国の人間は許可されていない。それは傭兵部隊と言えども同様だった。
ソフィアは話題を変えた。
「こちらの生活はどうですか?」
「おかげさまで、もう、だいぶ慣れて来たわ」
「よく、師と出かけているようですけど?」
ソフィアはちょっといたずらっぽく尋ねてみた。師のクリーガーとザービンコワが休暇を合わせてよく出かけているのは傭兵部隊の中でも有名になっていた。
ザービンコワは表情を変えずに答えた。
「師? ああ、クリーガー隊長の事? そうね、彼が案内してくれるから、おかげで、街に詳しくなったわ」
そう言うとザービンコワは、振り返って船内に戻って言った。
さすがに『付き合っているのか?』とまでは聞けなかった。ソフィアは苦笑した。しかし、普段の状況から見て、二人が付き合っているのは間違いないようだった。
別の日。
ソフィアがこの日の朝も甲板に上がると、オットー・クラクスが居るのを見つけた。
ソフィアと同じく最初から傭兵部隊に参加しているオットー・クラクスは、長身で金髪碧眼の男性で二十二歳になる。ズーデハーフェンシュタットの北にある都市モルデンの出身だ。
彼とは師であるユルゲン・クリーガーの下、一緒に剣の修練をする間柄だ。
とは言え、傭兵部隊以外の普段の生活では、ほとんど交流は無い。
任務でも同じものが当たることはほとんどなかったが、唯一、一緒の任務を担当したのは、少し前のヴェールテ家連続殺人事件だ。
ソフィアはオットーに声を掛けた
「おはよう」
オットーは海を見つめていたが、振り返って挨拶を返す。
「ああ、ソフィアか、おはよう」。そして、彼は再び海を見つめて言う。「海は良いね。実は船で海に出るのは初めてなんだよ。これまでは、グロースアーテッヒ川の渡し舟に乗ったぐらいだったからね」
「そうなんだ」。ソフィアは話題を変えた。「この前の任務のことだけど」
「ヴェールテ家連続殺人のことかい?」
「ええ」
「思ったより大変な任務だったね」
「でも、やりがいはあったわ。それに、楽しかった」
「そうだね」
オットーはそう言うと、少し笑ったように見えた。
彼は、任務で人質として囚われていた女性を救出し、その後、その女性と付き合っていると聞いた。
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