色彩の大陸2~隠された策謀

谷島修一

文字の大きさ
上 下
72 / 75
終章

伯父と姪

しおりを挟む
 私は用意された部屋でヴァーシャと一緒に私の恩赦を喜んでいた。
 すると何度か扉をノックする音がした。

 ノックに気が付いた私は扉を開ける。扉の前にはムラブイェフをが立っていた。私は驚いて声を上げた。
「ムラブイェフさん、どうしてここへ?」。
 私は握手をするため手を伸ばした。ムラブイェフも手を伸ばしてきたので、握手をした。
「クリーガーさん。あなたが恩赦になったと聞いたので、お祝いを述べようと思って」。
 ムラブイェフは力強く握手しながら言う。
「はい。それにしても、耳が早いですね」。
「たまたま別の軍法会議の件で城に来る用事がありましてね。それで、あなたが恩赦になったことを教えてもらいました」。
 ムラブイェフが部屋の中を覗く、目線の先にはヴァーシャが立っている。
 ヴァーシャはムラブイェフ見ると声を上げた。
「伯父様」。
「伯父様?」
 私は、そのやり取りを不思議そうに繰り返す。
 私の様子を見たムラブイェフはすぐに答えた。
「ヴァシリーサは私の姪です」。
「そうだったのですか!?」。
 私はそれを聞いて、とても驚いた。
 ヴァーシャはムラブイェフに近づいて話しかけた。
「伯父様、今回はありがとうございました」。
「実は、ヴァーシャにお願いされて、君の弁護を引き受けたんだよ」。
「そうだったのですね。ヴァーシャ、そして、ムラブイェフさん、今回は大変お世話になりました。感謝しています」。
「何にせよ、恩赦になってよかった。姪っ子の悲しむ顔を見たくはなかったですから」。
「陛下には条件を出されました」。
「それも聞きましたよ。今後は帝国に留まるとか」。
「ええ。おそらくは陛下のお傍で働くことになると思います。これまでも陛下直属の部隊にいましたから、実質はさほど変わらないでしょう」。
「そうですか。ともかく、処刑にならずに本当に良かったですね」。
 そして、ムラブイェフはヴァーシャをチラリと見てから言った。
「では、これ以上お邪魔しては悪いから、私はこれで失礼します」。
 ムラブイェフは部屋を出ていこうとしたが、立ち止まった
「そうだ、牢番から手紙を預かっていたのですが、これはあなたが処刑された後のことを想定して書いたものでしょう? そうはならなかったわけですから、お返ししておきますよ」。
 そういって、懐から手紙を四通取り出して私に手渡した。
 私はそれを受け取った。ヴァーシャは横からそれを覗き込んで、自分宛の手紙があることを見つけた。
「私宛?」
 そういうと、スッと私の手から手紙を抜き取って、ニヤリと笑った。
「あなたが最後に書く手紙、興味あるわ」。
 そういうと彼女は手紙を自分の胸のポケットに入れた。
「その手紙は、恥ずかしいので私のいないところで読んで」。
 私はあわてて言った。
「わかったわ」。
 ヴァーシャは少しいたずらっぽく笑ったように見えた。
「では、お邪魔かもしれないからこの辺で失礼するよ」。
 そう言うと、ムラブイェフは部屋をそそくさと去っていった。
 私は彼の背中にもう一度礼を言った。

 残された私とヴァーシャは部屋にある豪華なソファに腰かけた。
「帝国に残ってくれることになって、本当に嬉しいです」。
 ヴァーシャは私に体を向けて言った。
「陛下には共和国を解放してくれた上に、恩赦を頂き、感謝しかありません」。
 私もヴァーシャに向き直って言った。
「陛下はアーランドソンに国を乗っ取られた前の状態に戻しただけです」。
「それでも、これは英断だと思います」。
「ところで、ユーリ。故郷に帰りたくないのですか?海はもういいのですか?」
 この質問は、去年、私が故郷のズーデハーフェンシュタットに帰るとき、私は首都に残らない理由として、ヴァーシャには「海が好きだから」と言ったのを思い出した。彼女もその時の私の言葉から、そういう風に聞いてきたのだろう。
「海より好きなものができましたからね」。
 私はヴァーシャの瞳をじっと見つめる。ヴァーシャも私の瞳を見つめる。そして、私達はキスをした。

「そろそろ、仕事に戻らないと」。そう言うとヴァーシャは立ち上がった。「あなたは指示があるまで休んでいてください。おそらく数日は何も無いと思いますが」。
 私も立ち上がり、もう一度私は彼女を抱擁した。
「ここ一か月半、牢の固いベッドだったから、柔らかいベッドで横になるとします」。
 それを聞いてヴァーシャは少し微笑んだ。
「ゆっくり休んで。では、また後で」。
 そう言うと、彼女は手を振って部屋を出て行った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第七部開始】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

変人奇人喜んで!!貴族転生〜面倒な貴族にはなりたくない!〜

赤井水
ファンタジー
 クロス伯爵家に生まれたケビン・クロス。  神に会った記憶も無く、前世で何故死んだのかもよく分からないが転生した事はわかっていた。  洗礼式で初めて神と話よく分からないが転生させて貰ったのは理解することに。  彼は喜んだ。  この世界で魔法を扱える事に。  同い歳の腹違いの兄を持ち、必死に嫡男から逃れ貴族にならない為なら努力を惜しまない。  理由は簡単だ、魔法が研究出来ないから。  その為には彼は変人と言われようが奇人と言われようが構わない。  ケビンは優秀というレッテルや女性という地雷を踏まぬ様に必死に生活して行くのであった。  ダンス?腹芸?んなもん勉強する位なら魔法を勉強するわ!!と。 「絶対に貴族にはならない!うぉぉぉぉ」  今日も魔法を使います。 ※作者嬉し泣きの情報 3/21 11:00 ファンタジー・SFでランキング5位(24hptランキング) 有名作品のすぐ下に自分の作品の名前があるのは不思議な感覚です。 3/21 HOT男性向けランキングで2位に入れました。 TOP10入り!! 4/7 お気に入り登録者様の人数が3000人行きました。 応援ありがとうございます。 皆様のおかげです。 これからも上がる様に頑張ります。 ※お気に入り登録者数減り続けてる……がむばるOrz 〜第15回ファンタジー大賞〜 67位でした!! 皆様のおかげですこう言った結果になりました。 5万Ptも貰えたことに感謝します! 改稿中……( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )☁︎︎⋆。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...