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終章

最後の七日間

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 大陸歴1658年5月22日・帝国首都アリーグラード

 死刑判決から一週間、まだ刑は執行されずにいた。

 私は弟子たちのことが気になっていた。
 オットー・クラクス、ソフィア・タウゼントシュタイン、オレガ・ジベリゴワ。
 もう一か月半、彼らの消息がわからずにいる。もちろん彼らも私がどういう状況かわからないでいるだろう。牢にいると外の情報は何も入ってこない。
 私の弁護を引き受けてくれたムラブイェフが一度様子を見に来てくれた。彼も状況を知らないのか、現在の共和国の状況は全く知らないと言っていた。帝国が情報統制を引いているのだろう。

 軍法会議で聞いた証言では、モルデンでは帝国軍と共和国派の戦闘にはならなかったようだ。この点については安心できることだった。もし、共和国派が帝国軍と戦って勝つ可能性はあまり高くなかったからだ。仮に戦闘になっていたとしたら帝国軍を指揮したのはルツコイだろう。彼は狡猾な戦略家だ、共和国派に勝ち目かっただろう。ひょっとしたら、ルツコイは無理な攻城戦には持ち込まず、街を包囲して兵糧攻めにしたかもしれない。もし、そうであったなら、街は食糧不足で過酷な状況下で降伏することになっただろう。
 そうならなかったのは、良かったことだ。

 私は最後に三人の弟子たちと、恋人のヴァシリーサ・アクーニナに向けて手紙を書くことにした。
 私は牢番にお願いして、書くものと紙ともらった。本来は認められないが、牢番は私が処刑されると知っているので、同情してこれぐらいのお願いは聞いてくれた。
 そして、書いた手紙を書いて牢番に託そうと思っていた。しかし、この城にいるヴァーシャはともかく、弟子たちへの手紙は本人たちに届けることができるかどうかわからない。そもそも、弟子たちはモルデンを離れているかもしれないし、そうなれば、もうどこにいるかもわからない。牢番に手紙を託しても、それをどうするか彼も困るだろう。それでも、私は手紙を書きたいという衝動に駆られた。
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