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軍法会議
証人 ミハイル・イワノフ
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次の証人をクレスチンスキーは呼んだ。
「ミハイル・イワノフ顧問」。
証人席にはゆっくり歩み寄るのは、初老の人物イワノフ。
彼とは昨年、彼の家で会った。私は共和国派のため帝国軍の内部情報を収集をしており、たまたま彼のことを知った私は、自分の身分を偽って彼から話を聞いたのだ。
イワノフは証人席に座った。そして、書記官はイワノフの肩書を読み上げた。
「証人、ミハイル・イワノフ。帝国軍司令部戦略部顧問。賞罰、ブラミア名誉勲章、アレクサンドル特別勲章、武勇勲章二回、緋鉄勲章二回、紅竜勲章、エルマンスキー戦略章」。
戦略部顧問か。どうやら、イワノフは現役復帰したようだ。
肩書の読み上げが終わると、検事のクラコフは立ち上がり、証人席に近づきイワノフに質問した。
「イワノフ顧問。あなたがクリーガー隊長と初めて会ったのはいつのことですか?」
「昨年のことです。彼が自宅にやってきました」。
「彼は何をしに、あなたの自宅までやって来たのでしょうか」。
「“イグナユグ戦争”について知りたいとことでした」。
「なぜ、“イグナユグ戦争”について知りたいと言っていましたか?」
「彼は軍史研究家で、その戦争の事を調査していると言いました」。
「彼は軍史研究家と身分を偽っていたのですね。名前はどうでしたか?」。
「名前も別の物を名乗っていたと思います」
「なんという名前でしたか?」
「それは覚えていません」。
「なぜ身分や名前を偽ったのだと思いますか?」
「おそらくは、反乱分子ということを隠したかったのでは」。
「ありがとうございます、質問は以上です」。
検事は自分の席に戻ったのを確認した後。裁判官は弁護人に言う。
「弁護人から質問はありますか?」
「あります」。
弁護人は手を上げて立ち上がった。
「イワノフ顧問」。
弁護人はイワノフに歩み寄る。咳を一つしてから話しかける。
「昨年、クリーガー隊長がご自宅まで会いに来たとおっしゃいましたね。その時の話の内容をかいつまんで教えていただきますか」。
「“イグナユグ戦争”のことです。開戦から最後のグロースアーテッヒ川の戦いのまで話をしました」。
「その内容は帝国軍の軍事機密に触れるような内容に言及されましたか」。
「いえ、そんなことはしません。退役後も機密を話すのは禁止されています」。
「では、誰でも知っているような内容を話しただけですね」。
「そうです」。
「では、その話した内容が反乱分子に利するようなことがあると思いますか?」
「あまりないでしょう」。
「なるほど」。弁護人は再び咳払いを一つして続ける。「ではもう一点、クリーガー隊長が身分を偽ったことに対して、それに気付いたのはいつのことですか?」
「謁見の間で、彼を見た時です」。
「彼がご自宅に来た時は気が付きませんでしたか?」
「いえ。その時は、出身を偽っているなとは思いましたが、さほど気にしませんでした」
「なぜ、出身を偽っていると思いましたか?」
「彼には訛りがあったからです。私は旧共和国のオストハーフェンシュタットに旅団長として駐留したことがあったので、共和国の訛りならわかります。ですので、彼は共和国の出身だと思いました」。
「旧共和国出身の者は、国内の移動が制限されているのはご存知ですか?」
「もちろん知っています」。
「移動が制限されている旧共和国の者が首都にいる。それだけでちょっと疑わしいですよね?なぜ、当局に通報しなかったのですか?」
「彼が、そのような人物に見えなかったからです」。
「“そのような人物”とは?」
「反乱分子の仲間ということです」。
弁護人は少し微笑んだ。
「先ほどの証言と矛盾がありますね。先ほどは、クリーガー隊長が『反乱分子ということを隠したかったのでは』と証言されましたが、今は『反乱分子に見えなかった』とおっしゃりました。イワノフ顧問、どちらですか?」
イワノフは若干の沈黙の後、答えた。
「その時は、反乱分子には見えませんでした」。
「質問は以上です、ありがとうございました」。
証人と弁護人は立ち上がり、後ろに下がった。
「ミハイル・イワノフ顧問」。
証人席にはゆっくり歩み寄るのは、初老の人物イワノフ。
彼とは昨年、彼の家で会った。私は共和国派のため帝国軍の内部情報を収集をしており、たまたま彼のことを知った私は、自分の身分を偽って彼から話を聞いたのだ。
イワノフは証人席に座った。そして、書記官はイワノフの肩書を読み上げた。
「証人、ミハイル・イワノフ。帝国軍司令部戦略部顧問。賞罰、ブラミア名誉勲章、アレクサンドル特別勲章、武勇勲章二回、緋鉄勲章二回、紅竜勲章、エルマンスキー戦略章」。
戦略部顧問か。どうやら、イワノフは現役復帰したようだ。
肩書の読み上げが終わると、検事のクラコフは立ち上がり、証人席に近づきイワノフに質問した。
「イワノフ顧問。あなたがクリーガー隊長と初めて会ったのはいつのことですか?」
「昨年のことです。彼が自宅にやってきました」。
「彼は何をしに、あなたの自宅までやって来たのでしょうか」。
「“イグナユグ戦争”について知りたいとことでした」。
「なぜ、“イグナユグ戦争”について知りたいと言っていましたか?」
「彼は軍史研究家で、その戦争の事を調査していると言いました」。
「彼は軍史研究家と身分を偽っていたのですね。名前はどうでしたか?」。
「名前も別の物を名乗っていたと思います」
「なんという名前でしたか?」
「それは覚えていません」。
「なぜ身分や名前を偽ったのだと思いますか?」
「おそらくは、反乱分子ということを隠したかったのでは」。
「ありがとうございます、質問は以上です」。
検事は自分の席に戻ったのを確認した後。裁判官は弁護人に言う。
「弁護人から質問はありますか?」
「あります」。
弁護人は手を上げて立ち上がった。
「イワノフ顧問」。
弁護人はイワノフに歩み寄る。咳を一つしてから話しかける。
「昨年、クリーガー隊長がご自宅まで会いに来たとおっしゃいましたね。その時の話の内容をかいつまんで教えていただきますか」。
「“イグナユグ戦争”のことです。開戦から最後のグロースアーテッヒ川の戦いのまで話をしました」。
「その内容は帝国軍の軍事機密に触れるような内容に言及されましたか」。
「いえ、そんなことはしません。退役後も機密を話すのは禁止されています」。
「では、誰でも知っているような内容を話しただけですね」。
「そうです」。
「では、その話した内容が反乱分子に利するようなことがあると思いますか?」
「あまりないでしょう」。
「なるほど」。弁護人は再び咳払いを一つして続ける。「ではもう一点、クリーガー隊長が身分を偽ったことに対して、それに気付いたのはいつのことですか?」
「謁見の間で、彼を見た時です」。
「彼がご自宅に来た時は気が付きませんでしたか?」
「いえ。その時は、出身を偽っているなとは思いましたが、さほど気にしませんでした」
「なぜ、出身を偽っていると思いましたか?」
「彼には訛りがあったからです。私は旧共和国のオストハーフェンシュタットに旅団長として駐留したことがあったので、共和国の訛りならわかります。ですので、彼は共和国の出身だと思いました」。
「旧共和国出身の者は、国内の移動が制限されているのはご存知ですか?」
「もちろん知っています」。
「移動が制限されている旧共和国の者が首都にいる。それだけでちょっと疑わしいですよね?なぜ、当局に通報しなかったのですか?」
「彼が、そのような人物に見えなかったからです」。
「“そのような人物”とは?」
「反乱分子の仲間ということです」。
弁護人は少し微笑んだ。
「先ほどの証言と矛盾がありますね。先ほどは、クリーガー隊長が『反乱分子ということを隠したかったのでは』と証言されましたが、今は『反乱分子に見えなかった』とおっしゃりました。イワノフ顧問、どちらですか?」
イワノフは若干の沈黙の後、答えた。
「その時は、反乱分子には見えませんでした」。
「質問は以上です、ありがとうございました」。
証人と弁護人は立ち上がり、後ろに下がった。
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