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軍法会議
証人 ボリス・ルツコイ
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次の証人をクレスチンスキーは呼んだ。
「ボリス・ルツコイ旅団長」。
証人席に進み出て座ったのは、ズーデハーフェンシュタット駐留帝国軍の司令官で第五旅団長のルツコイだ。三年前、彼は遊撃部隊の前身である傭兵部隊の設立をした人物。私はその傭兵部隊で設立以来、部隊長をやっていた。その関係上、彼は私のことを公私とも良く知っている。
ルツコイが証人席に座ったのを確認して、書記官はルツコイの経歴を読み上げた。
「証人、ボリス・ルツコイ。帝国軍第五旅団、旅団長および重装騎士団団長。ズーデハーフェンシュタット駐留軍司令官。賞罰、ブラミア名誉勲章、武勇勲章、緋鉄勲章、エルマンスキー戦略章」。
経歴の読み上げが終わったのを確認すると検事のクラコフは立ち上がり、証人席に近づきルツコイに質問した。
「ルツコイ旅団長。あなたはクリーガー隊長とは、どれぐらいの付き合いですか?」
「傭兵部隊の設立以降ですから、ほぼ三年です」。
「その三年の間、彼の働きぶりは如何でしたか?」
「隊長として素晴らしい働きぶりでした。剣術にも秀でていて、そのほかのあらゆる部分でも優秀で部隊をよくまとめていました」。
「なるほど。彼が、反乱分子との繋がりがあるとわかっていましたか」。
「私がそれを初めて知ったのは、彼がモルデンで投降してきたときです」。
「それはいつですが?」
「四月二十日です」。
「彼が投降してきたときどう思いましたか?」
「非常に失望しました」。
「彼がなぜ反乱分子に加わったと思いますか?」
「彼は元々共和国の解放を考えていたと言っていました」。
「そもそも、帝国への忠誠は表面的なものだったとは思いませんか?」
「今となっては、おそらく、そうだったのだと思います」。
「クリーガー被告は、共和国の再興を夢見て、機会を待っていたと考えられますね?」。
「はい」。
検事は裁判官の方に向き直り言った。
「私の質問は以上です」。
検事は再びルツコイに向き直った。
「ルツコイ旅団長、ありがとうございました」。
裁判官は弁護人に声を掛けた。
「弁護人から質問はありますか?」
「あります」。
弁護人のムラブイェフは手を上げて立ち上がった。
「ルツコイ旅団長」。
弁護人はルツコイに歩み寄る。
「クリーガー隊長の“チューリン事件”での働きを知っていますか?」
「異議あり、“チューリン事件”は今回の一件と関係ありません」。
検事は立ち上がり叫んだ。弁護人はすかさず言う。
「“チューリン事件”は今回の件に重要な関わりがあります」。
「続けて」
裁判官は静かに言った。
「ありがとうございます。では、改めて、クリーガー隊長の“チューリン事件”での働きを知っていますか?」。
「もちろんです」。
「落命する可能性が高い困難な任務を遂行しました」。
「その結果、帝国にどういう変化がありましたか?」
「違法に実権を握り、国を支配していたチューリンを排除することによって、実権が皇帝に戻りました」。
「その通りです。帝国の実権を握っていたチューリンは後先考えずに共和国に侵攻し、多くの兵や住民を死なせました。結果的には共和国を占領できましたが、その後の占領統治は帝国の大きな負担となっておりました。もし、クリーガー隊長が共和国の再興を考えているとしたら、チューリンの排除をせずに置けば、帝国の国力はさらに衰えていたでしょう。そのうえで反乱を起こした方がより容易だったでしょう」。
弁護人は、裁判官の席に近づき大声で言う。
「それなのにです!クリーガー隊長は帝国のために命を懸けてチューリンを排除しました。彼は任務を放棄して逃亡することもできたでしょう。忠誠心のない者がここまでやるでしょうか?」
弁護人はルツコイに向き直った。
「ルツコイ旅団長、これについてどう思われますか?」
「意義あり!弁護人は意図的に証言を誘導しようとしております。」
再び検事が声を上げる。
「意義を認めます」。
弁護人は肩をすくめた後言った。
「質問は以上です」。
ルツコイは証人席から立ち上がり、後ろに下がった。
「ボリス・ルツコイ旅団長」。
証人席に進み出て座ったのは、ズーデハーフェンシュタット駐留帝国軍の司令官で第五旅団長のルツコイだ。三年前、彼は遊撃部隊の前身である傭兵部隊の設立をした人物。私はその傭兵部隊で設立以来、部隊長をやっていた。その関係上、彼は私のことを公私とも良く知っている。
ルツコイが証人席に座ったのを確認して、書記官はルツコイの経歴を読み上げた。
「証人、ボリス・ルツコイ。帝国軍第五旅団、旅団長および重装騎士団団長。ズーデハーフェンシュタット駐留軍司令官。賞罰、ブラミア名誉勲章、武勇勲章、緋鉄勲章、エルマンスキー戦略章」。
経歴の読み上げが終わったのを確認すると検事のクラコフは立ち上がり、証人席に近づきルツコイに質問した。
「ルツコイ旅団長。あなたはクリーガー隊長とは、どれぐらいの付き合いですか?」
「傭兵部隊の設立以降ですから、ほぼ三年です」。
「その三年の間、彼の働きぶりは如何でしたか?」
「隊長として素晴らしい働きぶりでした。剣術にも秀でていて、そのほかのあらゆる部分でも優秀で部隊をよくまとめていました」。
「なるほど。彼が、反乱分子との繋がりがあるとわかっていましたか」。
「私がそれを初めて知ったのは、彼がモルデンで投降してきたときです」。
「それはいつですが?」
「四月二十日です」。
「彼が投降してきたときどう思いましたか?」
「非常に失望しました」。
「彼がなぜ反乱分子に加わったと思いますか?」
「彼は元々共和国の解放を考えていたと言っていました」。
「そもそも、帝国への忠誠は表面的なものだったとは思いませんか?」
「今となっては、おそらく、そうだったのだと思います」。
「クリーガー被告は、共和国の再興を夢見て、機会を待っていたと考えられますね?」。
「はい」。
検事は裁判官の方に向き直り言った。
「私の質問は以上です」。
検事は再びルツコイに向き直った。
「ルツコイ旅団長、ありがとうございました」。
裁判官は弁護人に声を掛けた。
「弁護人から質問はありますか?」
「あります」。
弁護人のムラブイェフは手を上げて立ち上がった。
「ルツコイ旅団長」。
弁護人はルツコイに歩み寄る。
「クリーガー隊長の“チューリン事件”での働きを知っていますか?」
「異議あり、“チューリン事件”は今回の一件と関係ありません」。
検事は立ち上がり叫んだ。弁護人はすかさず言う。
「“チューリン事件”は今回の件に重要な関わりがあります」。
「続けて」
裁判官は静かに言った。
「ありがとうございます。では、改めて、クリーガー隊長の“チューリン事件”での働きを知っていますか?」。
「もちろんです」。
「落命する可能性が高い困難な任務を遂行しました」。
「その結果、帝国にどういう変化がありましたか?」
「違法に実権を握り、国を支配していたチューリンを排除することによって、実権が皇帝に戻りました」。
「その通りです。帝国の実権を握っていたチューリンは後先考えずに共和国に侵攻し、多くの兵や住民を死なせました。結果的には共和国を占領できましたが、その後の占領統治は帝国の大きな負担となっておりました。もし、クリーガー隊長が共和国の再興を考えているとしたら、チューリンの排除をせずに置けば、帝国の国力はさらに衰えていたでしょう。そのうえで反乱を起こした方がより容易だったでしょう」。
弁護人は、裁判官の席に近づき大声で言う。
「それなのにです!クリーガー隊長は帝国のために命を懸けてチューリンを排除しました。彼は任務を放棄して逃亡することもできたでしょう。忠誠心のない者がここまでやるでしょうか?」
弁護人はルツコイに向き直った。
「ルツコイ旅団長、これについてどう思われますか?」
「意義あり!弁護人は意図的に証言を誘導しようとしております。」
再び検事が声を上げる。
「意義を認めます」。
弁護人は肩をすくめた後言った。
「質問は以上です」。
ルツコイは証人席から立ち上がり、後ろに下がった。
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