色彩の大陸2~隠された策謀

谷島修一

文字の大きさ
上 下
66 / 75
軍法会議

証人 ボリス・ルツコイ

しおりを挟む
 次の証人をクレスチンスキーは呼んだ。
「ボリス・ルツコイ旅団長」。
 証人席に進み出て座ったのは、ズーデハーフェンシュタット駐留帝国軍の司令官で第五旅団長のルツコイだ。三年前、彼は遊撃部隊の前身である傭兵部隊の設立をした人物。私はその傭兵部隊で設立以来、部隊長をやっていた。その関係上、彼は私のことを公私とも良く知っている。

 ルツコイが証人席に座ったのを確認して、書記官はルツコイの経歴を読み上げた。
「証人、ボリス・ルツコイ。帝国軍第五旅団、旅団長および重装騎士団団長。ズーデハーフェンシュタット駐留軍司令官。賞罰、ブラミア名誉勲章、武勇勲章、緋鉄勲章、エルマンスキー戦略章」。

 経歴の読み上げが終わったのを確認すると検事のクラコフは立ち上がり、証人席に近づきルツコイに質問した。
「ルツコイ旅団長。あなたはクリーガー隊長とは、どれぐらいの付き合いですか?」
「傭兵部隊の設立以降ですから、ほぼ三年です」。
「その三年の間、彼の働きぶりは如何でしたか?」
「隊長として素晴らしい働きぶりでした。剣術にも秀でていて、そのほかのあらゆる部分でも優秀で部隊をよくまとめていました」。
「なるほど。彼が、反乱分子との繋がりがあるとわかっていましたか」。
「私がそれを初めて知ったのは、彼がモルデンで投降してきたときです」。
「それはいつですが?」
「四月二十日です」。
「彼が投降してきたときどう思いましたか?」
「非常に失望しました」。
「彼がなぜ反乱分子に加わったと思いますか?」
「彼は元々共和国の解放を考えていたと言っていました」。
「そもそも、帝国への忠誠は表面的なものだったとは思いませんか?」
「今となっては、おそらく、そうだったのだと思います」。
「クリーガー被告は、共和国の再興を夢見て、機会を待っていたと考えられますね?」。
「はい」。
 検事は裁判官の方に向き直り言った。
「私の質問は以上です」。
 検事は再びルツコイに向き直った。
「ルツコイ旅団長、ありがとうございました」。

 裁判官は弁護人に声を掛けた。
「弁護人から質問はありますか?」
「あります」。
 弁護人のムラブイェフは手を上げて立ち上がった。
「ルツコイ旅団長」。
 弁護人はルツコイに歩み寄る。
「クリーガー隊長の“チューリン事件”での働きを知っていますか?」
「異議あり、“チューリン事件”は今回の一件と関係ありません」。
 検事は立ち上がり叫んだ。弁護人はすかさず言う。
「“チューリン事件”は今回の件に重要な関わりがあります」。
「続けて」
 裁判官は静かに言った。
「ありがとうございます。では、改めて、クリーガー隊長の“チューリン事件”での働きを知っていますか?」。
「もちろんです」。
「落命する可能性が高い困難な任務を遂行しました」。
「その結果、帝国にどういう変化がありましたか?」
「違法に実権を握り、国を支配していたチューリンを排除することによって、実権が皇帝に戻りました」。
「その通りです。帝国の実権を握っていたチューリンは後先考えずに共和国に侵攻し、多くの兵や住民を死なせました。結果的には共和国を占領できましたが、その後の占領統治は帝国の大きな負担となっておりました。もし、クリーガー隊長が共和国の再興を考えているとしたら、チューリンの排除をせずに置けば、帝国の国力はさらに衰えていたでしょう。そのうえで反乱を起こした方がより容易だったでしょう」。
 弁護人は、裁判官の席に近づき大声で言う。
「それなのにです!クリーガー隊長は帝国のために命を懸けてチューリンを排除しました。彼は任務を放棄して逃亡することもできたでしょう。忠誠心のない者がここまでやるでしょうか?」
 弁護人はルツコイに向き直った。
「ルツコイ旅団長、これについてどう思われますか?」
「意義あり!弁護人は意図的に証言を誘導しようとしております。」
 再び検事が声を上げる。
「意義を認めます」。
 弁護人は肩をすくめた後言った。
「質問は以上です」。
 ルツコイは証人席から立ち上がり、後ろに下がった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界日帰りごはん【料理で王国の胃袋を掴みます!】

ちっき
ファンタジー
【書籍化決定しました!】 異世界に行った所で政治改革やら出来るわけでもなくチートも俺TUEEEE!も無く異世界での日常を全力で楽しむ女子高生の物語。 暇な時に異世界ぷらぷら遊びに行く日常にちょっとだけ楽しみが増える程度のスパイスを振りかけて。そんな気分でおでかけしてるのに王国でドタパタと、スパイスってそれ何万スコヴィルですか!

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

異世界に転生したけどトラブル体質なので心配です

小鳥遊 ソラ(著者名:小鳥遊渉)
ファンタジー
 元々、トラブルに遭いやすい体質だった男の異世界転生記。  トラブルに巻き込まれたり、自分から飛び込んだり、たまに自分で作ったり、魔物と魔法や剣のある異世界での転生物語。余り期待せずに読んで頂ければありがたいです。    戦闘は少な目です。アルフレッドが強すぎて一方的な戦いが多くなっています。  身内には優しく頼れる存在ですが、家族の幸せの為なら、魔物と悪人限定で無慈悲で引くくらい冷酷になれます。  転生した村は辺境過ぎて、お店もありません。(隣町にはあります)魔法の練習をしたり、魔狼に襲われ討伐したり、日照り解消のために用水路を整備したり、井戸の改良をしたり、猪被害から村に柵を作ったり、盗賊・熊・ゴブリンに襲われたり、水車に風車に手押しポンプ、色々と前世の記憶で作ったりして、段々と発展させて行きます。一部の人達からは神の使いと思われ始めています。………etc そんな日々、アルフレッドの忙しい日常をお楽しみいただければ!  知識チート、魔法チート、剣術チート、アルは無自覚ですが、強制的に出世?させられ、婚約申込者も増えていきます。6歳である事や身分の違いなどもある為、なかなか正式に婚約者が決まりません。女難あり。(メダリオン王国は一夫一妻制)  戦闘は短めを心掛けていますが、時にシリアスパートがあります。ご都合主義です。  基本は、登場人物達のズレた思考により、このお話は成り立っております。コメディーの域にはまったく届いていませんが、偶に、クスッと笑ってもらえる作品になればと考えております。コメディー要素多めを目指しております。女神と神獣も出てきます。 ※舞台のイメージは中世ヨーロッパを少し過去に遡った感じにしています。魔法がある為に、産業、医療などは発展が遅れている感じだと思っていただければ。  中世ヨーロッパの史実に出来るだけ近い状態にしたいと考えていますが、婚姻、出産、平均寿命などは現代と余りにも違い過ぎて適用は困難と判断しました。ご理解くださいますようお願いします。    俺はアラサーのシステムエンジニアだったはずだが、取引先のシステムがウイルスに感染、復旧作業した後に睡魔に襲われ、自前のシュラフで仮眠したところまで覚えているが、どうも過労死して、辺境騎士の3男のアルフレッド6歳児に転生? 前世では早くに両親を亡くし、最愛の妹を残して過労死した社畜ブラックどっぷりの幸薄な人生だった男が、今度こそ家族と幸せに暮らしたいと願い、日々、努力する日常。 ※最後になりますが、作者のスキル不足により、不快な思いをなされる方がおられましたら、申し訳なく思っております。何卒、お許しくださいますようお願い申し上げます。   この作品は、空想の産物であり、現実世界とは一切無関係です。

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

憧れの異世界転移が現実になったのでやりたいことリストを消化したいと思います~異世界でやってみたい50のこと

Debby
ファンタジー
【完結まで投稿済みです】 山下星良(せいら)はファンタジー系の小説を読むのが大好きなお姉さん。 好きが高じて真剣に考えて作ったのが『異世界でやってみたい50のこと』のリスト。 やっぱり人生はじめからやり直す転生より、転移。 転移先の条件としては『★剣と魔法の世界に転移してみたい』は絶対に外せない。 そして今の身体じゃ体力的に異世界攻略は難しいのでちょっと若返りもお願いしたい。 更にもうひとつの条件が『★出来れば日本の乙女ゲームか物語の世界に転移してみたい(モブで)』だ。 これにはちゃんとした理由がある。必要なのは乙女ゲームの世界観のみで攻略対象とかヒロインは必要ない。 もちろんゲームに巻き込まれると面倒くさいので、ちゃんと「(モブで)」と注釈を入れることも忘れていない。 ──そして本当に転移してしまった星良は、頼もしい仲間(レアアイテムとモフモフと細マッチョ?)と共に、自身の作ったやりたいことリストを消化していくことになる。 いい年の大人が本気で考え、万全を期したハズの『異世界でやりたいことリスト』。 理想通りだったり思っていたのとちょっと違ったりするけれど、折角の異世界を楽しみたいと思います。 あなたが異世界転移するなら、リストに何を書きますか? ---------- 覗いて下さり、ありがとうございます! 10時19時投稿、全話予約投稿済みです。 5話くらいから話が動き出します。 ✳(お読み下されば何のマークかはすぐに分かると思いますが)5話から出てくる話のタイトルの★は気にしないでください

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

処理中です...