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軍法会議
謁見の間
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大陸歴1658年4月27日・帝国首都アリーグラード
ルツコイの元に皇帝からの命令が届いて、私は思った通り首都へ護送されることになった。私は厳重に縛られた上に、十人ほどの重装騎士団に囲まれ、四日かけて帝国首都アリーグラードに到着した。
私は到着と同時に城の中にある牢屋に入れられると思っていたが、衛兵に最初に連れてこられたのは、謁見の間であった。
そこには皇帝イリアとイワノフが待ち構えていた。ヴァーシャは今回もいない。
皇帝は私の手を拘束している縄を解くように衛兵に言った。
縄を解かれた私は、血の流れが悪くなって痺れていたので、少し手を振った。
「クリーガー、跪《ひざまず》きなさい」。
皇帝はいつもの様に玉座に腰かけ、ひじ掛けに置いた右ひじに体重をかけるような体勢で言う。不思議なことに、皇帝には、さほど驚いた様子も怒りの表情もない。
私は両方に立つ衛兵に肩を押さえつけられ跪いた。
「まさか、あなたが裏切りとは。あなたが反乱分子と関係しているという疑念は、イワノフから聞きました。昨年、イワノフに身分を偽って軍の内情について話を聞きに行ったようですね」。
私は無言のまま皇帝を見つめた。
イワノフが数歩前に進みだし、特徴のあるゆっくりとした話し方で私に言った。
「先日、謁見の間であなたを見たとき、まさかと思いました。私に話を聞きに来た軍史研究家が、“帝国の英雄”だったとは。しかし、昨年の段階で既に私はあなたが帝国の者ではないと疑っていました。言葉が、少し訛っていましたからね。ただ、あの時、私がした話は帝国軍内では、ほとんどの人が知っている内容で、特に目新しいものはなかった。だから実害はないと思っていました」。
皇帝が話を継ぐ。
「だから、試したのです。あなたに反乱分子がいるベルグブリッグに向かわせ、それらを討たせる。もし、反乱分子をせん滅できればそれはそれでいいでしょう。もし反乱分子に加わるなら軍を派遣して討伐しようと思っていました。しかし、ベルグブリッグではなく、モルデンに向かい、偽の命令書で騙すとは」。
皇帝は少し笑っているように見えた。
私は皇帝の話が終わると、すかさず口を開いた。
「イワノフさん。去年、私とあった時話した内容を覚えていますか?」
「全部覚えているよ」。
「その時、あなたは、『共和国の統治には負担がかかる。そもそも共和国を侵略した理由がわからない。単に領土的野心で侵略したとしたら愚策でしかない』、とおっしゃっていました」。
「確かにそうだね。よく覚えているね」。
「イワノフさんは帝国の窮状を良くお分かりです。今、帝国が苦しんでいるのは、急激な領土拡張が仇になっています。そもそも、これはアーランドソンの企みのせいで、こうなったのです。帝国の誰の意思でもありません」。
私は皇帝に向き直った。
「陛下、これを機会に共和国全土の解放をお願いしたい。これは帝国の為でもあります」。
皇帝は少し考えてから言った。
「そんなことを言うために、一人で降伏してきたのですか?帝国の現状がどうあれ、お前が国を裏切ったことには変わりはないのですよ」。
皇帝は続いて話した。
「しかし、短期間でモルデンを掌握するとは、なかなかやりますね。大した戦略家です」。
「偶然上手くいっただけです」。
「相変わらず謙虚ですね。しかし、偶然かどうかで罪は軽くなったりしません」。
皇帝は立ち上がって言った。
「今後のあなたの身柄ですが、後日、軍法会議が開かれます。それまで牢で待ちなさい」。
そう言うと、玉座から立ち上がり衛兵たちに手で合図した。
衛兵達は私の両脇を抱え、立ち上がらせた。
そして、謁見の間を出て、地下の牢屋まで連行された。
ルツコイの元に皇帝からの命令が届いて、私は思った通り首都へ護送されることになった。私は厳重に縛られた上に、十人ほどの重装騎士団に囲まれ、四日かけて帝国首都アリーグラードに到着した。
私は到着と同時に城の中にある牢屋に入れられると思っていたが、衛兵に最初に連れてこられたのは、謁見の間であった。
そこには皇帝イリアとイワノフが待ち構えていた。ヴァーシャは今回もいない。
皇帝は私の手を拘束している縄を解くように衛兵に言った。
縄を解かれた私は、血の流れが悪くなって痺れていたので、少し手を振った。
「クリーガー、跪《ひざまず》きなさい」。
皇帝はいつもの様に玉座に腰かけ、ひじ掛けに置いた右ひじに体重をかけるような体勢で言う。不思議なことに、皇帝には、さほど驚いた様子も怒りの表情もない。
私は両方に立つ衛兵に肩を押さえつけられ跪いた。
「まさか、あなたが裏切りとは。あなたが反乱分子と関係しているという疑念は、イワノフから聞きました。昨年、イワノフに身分を偽って軍の内情について話を聞きに行ったようですね」。
私は無言のまま皇帝を見つめた。
イワノフが数歩前に進みだし、特徴のあるゆっくりとした話し方で私に言った。
「先日、謁見の間であなたを見たとき、まさかと思いました。私に話を聞きに来た軍史研究家が、“帝国の英雄”だったとは。しかし、昨年の段階で既に私はあなたが帝国の者ではないと疑っていました。言葉が、少し訛っていましたからね。ただ、あの時、私がした話は帝国軍内では、ほとんどの人が知っている内容で、特に目新しいものはなかった。だから実害はないと思っていました」。
皇帝が話を継ぐ。
「だから、試したのです。あなたに反乱分子がいるベルグブリッグに向かわせ、それらを討たせる。もし、反乱分子をせん滅できればそれはそれでいいでしょう。もし反乱分子に加わるなら軍を派遣して討伐しようと思っていました。しかし、ベルグブリッグではなく、モルデンに向かい、偽の命令書で騙すとは」。
皇帝は少し笑っているように見えた。
私は皇帝の話が終わると、すかさず口を開いた。
「イワノフさん。去年、私とあった時話した内容を覚えていますか?」
「全部覚えているよ」。
「その時、あなたは、『共和国の統治には負担がかかる。そもそも共和国を侵略した理由がわからない。単に領土的野心で侵略したとしたら愚策でしかない』、とおっしゃっていました」。
「確かにそうだね。よく覚えているね」。
「イワノフさんは帝国の窮状を良くお分かりです。今、帝国が苦しんでいるのは、急激な領土拡張が仇になっています。そもそも、これはアーランドソンの企みのせいで、こうなったのです。帝国の誰の意思でもありません」。
私は皇帝に向き直った。
「陛下、これを機会に共和国全土の解放をお願いしたい。これは帝国の為でもあります」。
皇帝は少し考えてから言った。
「そんなことを言うために、一人で降伏してきたのですか?帝国の現状がどうあれ、お前が国を裏切ったことには変わりはないのですよ」。
皇帝は続いて話した。
「しかし、短期間でモルデンを掌握するとは、なかなかやりますね。大した戦略家です」。
「偶然上手くいっただけです」。
「相変わらず謙虚ですね。しかし、偶然かどうかで罪は軽くなったりしません」。
皇帝は立ち上がって言った。
「今後のあなたの身柄ですが、後日、軍法会議が開かれます。それまで牢で待ちなさい」。
そう言うと、玉座から立ち上がり衛兵たちに手で合図した。
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そして、謁見の間を出て、地下の牢屋まで連行された。
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