色彩の大陸2~隠された策謀

谷島修一

文字の大きさ
上 下
62 / 75
軍法会議

謁見の間

しおりを挟む
 大陸歴1658年4月27日・帝国首都アリーグラード

 ルツコイの元に皇帝からの命令が届いて、私は思った通り首都へ護送されることになった。私は厳重に縛られた上に、十人ほどの重装騎士団に囲まれ、四日かけて帝国首都アリーグラードに到着した。

 私は到着と同時に城の中にある牢屋に入れられると思っていたが、衛兵に最初に連れてこられたのは、謁見の間であった。
 そこには皇帝イリアとイワノフが待ち構えていた。ヴァーシャは今回もいない。
 皇帝は私の手を拘束している縄を解くように衛兵に言った。
 縄を解かれた私は、血の流れが悪くなって痺れていたので、少し手を振った。
「クリーガー、跪《ひざまず》きなさい」。
 皇帝はいつもの様に玉座に腰かけ、ひじ掛けに置いた右ひじに体重をかけるような体勢で言う。不思議なことに、皇帝には、さほど驚いた様子も怒りの表情もない。
 私は両方に立つ衛兵に肩を押さえつけられ跪いた。
「まさか、あなたが裏切りとは。あなたが反乱分子と関係しているという疑念は、イワノフから聞きました。昨年、イワノフに身分を偽って軍の内情について話を聞きに行ったようですね」。
 私は無言のまま皇帝を見つめた。
 イワノフが数歩前に進みだし、特徴のあるゆっくりとした話し方で私に言った。
「先日、謁見の間であなたを見たとき、まさかと思いました。私に話を聞きに来た軍史研究家が、“帝国の英雄”だったとは。しかし、昨年の段階で既に私はあなたが帝国の者ではないと疑っていました。言葉が、少し訛っていましたからね。ただ、あの時、私がした話は帝国軍内では、ほとんどの人が知っている内容で、特に目新しいものはなかった。だから実害はないと思っていました」。

 皇帝が話を継ぐ。
「だから、試したのです。あなたに反乱分子がいるベルグブリッグに向かわせ、それらを討たせる。もし、反乱分子をせん滅できればそれはそれでいいでしょう。もし反乱分子に加わるなら軍を派遣して討伐しようと思っていました。しかし、ベルグブリッグではなく、モルデンに向かい、偽の命令書で騙すとは」。
 皇帝は少し笑っているように見えた。

 私は皇帝の話が終わると、すかさず口を開いた。
「イワノフさん。去年、私とあった時話した内容を覚えていますか?」
「全部覚えているよ」。
「その時、あなたは、『共和国の統治には負担がかかる。そもそも共和国を侵略した理由がわからない。単に領土的野心で侵略したとしたら愚策でしかない』、とおっしゃっていました」。
「確かにそうだね。よく覚えているね」。
「イワノフさんは帝国の窮状を良くお分かりです。今、帝国が苦しんでいるのは、急激な領土拡張が仇になっています。そもそも、これはアーランドソンの企みのせいで、こうなったのです。帝国の誰の意思でもありません」。
 私は皇帝に向き直った。
「陛下、これを機会に共和国全土の解放をお願いしたい。これは帝国の為でもあります」。
 皇帝は少し考えてから言った。
「そんなことを言うために、一人で降伏してきたのですか?帝国の現状がどうあれ、お前が国を裏切ったことには変わりはないのですよ」。
 皇帝は続いて話した。
「しかし、短期間でモルデンを掌握するとは、なかなかやりますね。大した戦略家です」。
「偶然上手くいっただけです」。
「相変わらず謙虚ですね。しかし、偶然かどうかで罪は軽くなったりしません」。
 皇帝は立ち上がって言った。
「今後のあなたの身柄ですが、後日、軍法会議が開かれます。それまで牢で待ちなさい」。
 そう言うと、玉座から立ち上がり衛兵たちに手で合図した。
 衛兵達は私の両脇を抱え、立ち上がらせた。
 そして、謁見の間を出て、地下の牢屋まで連行された。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

嫌われ賢者の一番弟子 ~師匠から教わった武術と魔術、世間では非常識らしいですよ!?~

草乃葉オウル
ファンタジー
かつて武術と魔術の双方において最強と呼ばれた賢者がいた。 しかし、賢者はその圧倒的な才能と野心家な性格をうとまれ歴史の表舞台から姿を消す。 それから時は流れ、賢者の名が忘れ去られた時代。 辺境の地から一人の少女が自由騎士学園に入学するために旅立った。 彼女の名はデシル。最強賢者が『私にできたことは全てできて当然よ』と言い聞かせ、そのほとんどの技術を習得した自慢の一番弟子だ。 だが、他人とあまり触れあうことなく育てられたデシルは『自分にできることなんてみんなできて当然』だと勘違いをしていた! 解き放たれた最強一番弟子の常識外れな学園生活が始まる!

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

元聖女だった少女は我が道を往く

春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。 彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。 「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。 その言葉は取り返しのつかない事態を招く。 でも、もうわたしには関係ない。 だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。 わたしが聖女となることもない。 ─── それは誓約だったから ☆これは聖女物ではありません ☆他社でも公開はじめました

絞首刑まっしぐらの『醜い悪役令嬢』が『美しい聖女』と呼ばれるようになるまでの24時間

夕景あき
ファンタジー
ガリガリに痩せて肌も髪もボロボロの『醜い悪役令嬢』と呼ばれたオリビアは、ある日婚約者であるトムス王子と義妹のアイラの会話を聞いてしまう。義妹はオリビアが放火犯だとトムス王子に訴え、トムス王子はそれを信じオリビアを明日の卒業パーティーで断罪して婚約破棄するという。 卒業パーティーまで、残り時間は24時間!! 果たしてオリビアは放火犯の冤罪で断罪され絞首刑となる運命から、逃れることが出来るのか!?

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...