色彩の大陸2~隠された策謀

谷島修一

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共和国派の内紛

義勇兵達

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 大陸歴1658年4月20日・モルデン

 オットー・クラクス、フリードリヒ・プロブスト、ソフィア・タウゼントシュタイン、オレガ・ジベリゴワ達、遊撃部隊の全員が隊長のユルゲン・クリーガーが、遠く何とか肉眼で見える距離にいる帝国軍の陣の中にって行くまで見送っていた。

 そして、しばらくしてオットーとプロブストは部隊を撤収しモルデンに引き返す準備をした。これは隊長クリーガーの命令だ。
『帝国軍とは正面で戦わず、モルデンで籠城戦に持ち込むように』
 数の上でも圧倒的に帝国軍が多く、正面にいるルツコイの旅団だけでも三千。その後ろにはイェプツシェンコ率いる旅団が三千。対する遊撃部隊はわずか二百。勝算は全くない。

 しかし、籠城戦に持ち込んだとしても、モルデンにいる共和国派はほとんどが義勇兵で戦いは素人だ。帝国軍に攻め込まれたら、どこまで持ちこたえることができるか分からない。
 クリーガーが帝国軍の攻撃を止めさせるための説得が成功するかどうかに、モルデンと共和国派の命運がかかっていると言っても良かった。

 遊撃部隊がモルデンの城に戻った後、オットーとプロブストはコフに呼び出された。作戦室で話し合いが行われる。

 クリーガーが帝国軍の説得のために投降したことが説明された。
 コフは最初そのことに納得しなかった。
「彼が居なくなることは、こちらの側の大きな戦力の損害だ。なぜそのような決断を?」
 プロブストは説明する。
「隊長が居たとしても、帝国軍と正面衝突したら、遊撃部隊はもちろん共和国派に勝ち目はなかったでしょう。隊長が命を懸けた勝負に出たのです、我々は隊長を信じています。彼なら必ず帝国軍を足止めしてくれるでしょう」

 コフは少し考えるように数分黙り込んでから、再び話を切り出した。
「わかりました。しかし、万が一、クリーガー隊長が帝国軍の説得に失敗した場合のことも想定しておかなければいけない。我々はご覧の通り、元共和国軍兵士はわずかです。ただ、住民が義勇兵のとして参加してくれて、その数は一万にもなります。しかし、ほとんどの者が戦いは素人で、それに部隊としての統率も取れていません。そこで、義勇兵たちの指揮をあなたがた遊撃部隊のメンバーにお願いしたいと思っています。いかがでしょうか?」
 プロブストが答える。
「かまいません。しかし、我々も小さな部隊なので大軍を率いることには、さほど慣れていません。そこで提案です。義勇兵を二百から三百ずつの部隊に細分化し、それぞれに遊撃部隊から数名部隊長として指揮を取らせます。遊撃部隊は二百人いますから義勇兵全体を指揮できることになります」
「なるほど、いいでしょう」コフは満足そうに頷き、話を続けた「義勇兵全体の指揮官はプロブストさんにお願いしたいが、いかがでしょう」
「わかりました、微力ながら拝命したいと思います」
「よし」
 コフは再び満足そうに頷いて微笑んんだ。
「早速明日から、義勇兵を取りまとめてください」
「わかりました」
 プロブストとオットーは立ち上がり敬礼をした。
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