色彩の大陸2~隠された策謀

谷島修一

文字の大きさ
上 下
53 / 75
共和国派の内紛

ベルグブリック1

しおりを挟む
 大陸歴1658年4月22日・ベルグブリック

 マリア・リヒターは、遊撃部隊の隊長であるユルゲン・クリーガーの命令で、モルデンから北西にある街ベルグブリックに向かっていた。
 クリーガーが、偽の命令書を使い、モルデンの副司令官を騙し、街の支配権を掌握したということをベルグブリックに集結しているはずの共和国派の部隊に伝えるためだ。

 ベルグブリックにいる共和国派には、ヴァイテステン収容所に捕らわれていた精鋭であった“深蒼の騎士”の数多くが解放され、仲間として参加していると聞いている。そんな彼らがモルデンの共和国派に合流すれば大きな戦力の拡充になるだろう。

 マリアは、十日ほど前の重装騎士団との戦いで受けた右腕の怪我の具合を確認する。クリーガーには『もう大丈夫』といったが、本当は大丈夫ではなかった。傷口はふさがったが、うまく指を動かすことができない状態であった。これでは剣を持つことも覚束ない。

 マリアは馬を急がせる。途中、野宿を一度し、二日かけてベルグブリックに到着した。到着した時間は夕刻、陽も落ちてきて辺りは暗くなりつつあった。街の方に松明の光がいくつか見えた。
 ベルグブリックという街はさほど大きくない。外壁や砦もないが、街の入り口付近で警戒している者達が数人いた。
 彼らは、マリアの姿を見ると警戒して剣を抜いた。
「何者だ」
 一人が叫んだ。
 マリアは馬上から大声で答えた
「私は、マリア・リヒター。ユルゲン・クリーガーの命でやって来た。ここを指揮している者に会いに来た」
「なんだと? ユルゲン・クリーガー?」
 彼らは二、三言何か話し合うとマリアに言った。
「少し待て」
 彼らの内の一人が街の中の方に向かって行った。
 マリアはしばらく待たされた。そして、街の中に向かった男が戻ってきて言った。
「着いて来い」

 マリアは馬を降り、手綱を引いて男の後に続く。
 少し歩いて、ある建物の前に着く。どうやら宿屋のようだ。
 男に中に案内される。マリアは馬を外の柱に繋げると、その後に続いて宿屋の中に入った。
 中はロビーで、テーブルと椅子が多数あり、そこで数名の男が話し合いをしていた。
 その中に共和国派の首領ダニエル・ホルツの姿を見つけることが出来た。

 ホルツもマリアの姿に気が付いて立ち上がり、大声で呼びかけて来た。
「おお!リヒターさん」
「お久しぶりです」
 ここを指揮しているのが、以前に一度会ったこのとあるダニエル・ホルツで、マリアは少々安心した。クリーガーからはここの指揮をしている者が誰かわからないと聞いていたからだ。

 ホルツはマリアに握手を求めて来た。そして、ホルツは隣にいる人物を紹介した。
「こちらは“深蒼の騎士” の騎士団長だったカール・ブロンベルクだ」
 ブロンベルクの名前はよく知っている、共和国が帝国に占領される前、首都防衛隊の隊長だった人物だ。マリア自身も首都防衛隊に所属していたので、遠目に彼の事を見たことがあった。
「よろしく」
 ブロンベルクは軽く頭を下げた。
 マリアも会釈し言った。
「ブロンベルクさん。私も首都防衛隊に所属していました」
「そうでしたか、では私の元部下という事ですね」
 ブロンベルクはそういって微笑んだ。

 ホルツが改めてマリアに質問をぶつけた。
「しかし、どうしてここまで?」
「クリーガー隊長が、モルデンを掌握しました」
「なんだって?!」
 そこにいた全員が驚きの声を上げた
「一体どうやって?!」
「クリーガー隊長が、モルデンを統治している旅団の司令官に就任したという偽の命令書を使いました。今、モルデンは完全に共和国派の支配下です」
「間違いないのだな?」
「もちろんです」
「おお!それは素晴らしい」
 皆が歓喜の声を上げた。

「明日の朝、モルデンに向けて出発しよう!」
 ホルツ達は気勢を上げた。
「全員に出発の準備をしておくように伝えろ」
 ホルツは近くの仲間にそう言う。仲間たちは宿屋から出て、他の場所で待機しているのであろう残りの仲間に伝えに言ったようだ。

 ホルツ達がモルデンの共和国派と合流すれば戦力の拡充となるだろう。とは言え、帝国軍数に比べると、まだまだ圧倒的に少ない。クリーガーの帝国軍の説得がうまくいくかどうかが我々の命運を決める。彼を信じるしかない。

 マリアは宿屋の部屋を一つ案内され、明日の朝までそこで過ごすことにした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

婚約破棄上等!私を愛さないあなたなんて要りません

音無砂月
ファンタジー
*幸せは婚約破棄の後にやってくるからタイトル変更 *ジャンルを変更しました。 公爵家長女エマ。15歳の時に母を亡くした。貴族は一年喪に服さないといけない。喪が明けた日、父が愛人と娘を連れてやって来た。新しい母親は平民。一緒に連れて来た子供は一歳違いの妹。名前はマリアナ。 マリアナは可愛く、素直でいい子。すぐに邸に溶け込み、誰もに愛されていた。エマの婚約者であるカールすらも。 誰からも愛され、素直ないい子であるマリアナがエマは気に入らなかった。 家族さえもマリアナを優先する。 マリアナの悪意のない言動がエマの心を深く抉る

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...