色彩の大陸2~隠された策謀

谷島修一

文字の大きさ
上 下
47 / 75
共和国再興

モルデン掌握1

しおりを挟む
 大陸歴1658年4月18日・モルデン

 今夜は、ヤチメゴロドの宿で仮眠する。早朝に出発すれば明日の内にモルデンに到着できるはずだ。
 私とオットーは同じ部屋に宿泊し、オットーには私のこれからの考えを伝えておいた。
 そして、私は偽の皇帝の命令書を作成する。命令書を書いているヴァーシャの筆跡、皇帝イリアの署名をまねた。本物と見間違う命令書ができた。おそらく、ばれることはないだろう。

 夜が明け、早朝にヤチメゴロドを出発した。結局ほとんど眠ることができなかったが、先を急がなければならない。急げば、夕方早い時間にはモルデンには到着できるだろう。

 夕刻、我々は、モルデンに到着した。
 街壁の門の衛兵には、皇帝からの命令で来たと言えば、何も疑問を持たれず通過できた。場合によっては偽の命令書を見せても良いが、結局はその必要はなかった。モルデンの軍内部でも私は“帝国の英雄”として有名になっている。こういう時、有名人であるのは悪くないと初めて思った。
 城への途中、とこかで煙が上がって、何かが燃えている焦げた匂いがする。さほど遠くないところで暴動が起こっているようだ。いまはそれを気にしている場合はない。さらに馬を急がせて城内に入った。城門も衛兵達に止められることなく移動できた。
 ここまでくれば、急ぐ必要はない。普通に命令を受けやって来たようにふるまえば良い。

 馬屋に馬をつないだ後、城内にいた衛兵に副旅団長のブルガコフの居場所を聞き、そちらに移動する。
 彼は作戦室で他の上級士官と、発生している暴動の対応策を話し合っているところだという。
 そこで、我々はブルガコフが出て来るまで待つことにした。衛兵に空いている別の作戦室に案内された。

 十五分ほど待っただろうか。ブルガコフが現れた。
「お待たせして申し訳ございません。クリーガー隊長。そちらはクラクス副隊長でしたね、ご無沙汰しております」。
 彼はそう言うと敬礼した。私とオットーも立ち上がり敬礼し返した。
「急ですが、皇帝からの命令書をお持ちしました」。
 私は偽の命令書を手渡した。
 ブルガコフは命令書を読んで、驚いているようだ。
「これは…」。
「命令書にあるように、これより、私は第四旅団の旅団長となりモルデンでの統治を行ないます」。
「わかりました。クリーガー新旅団長を歓迎します」。
 ブルガコフは笑顔で話した。
 命令書が偽と気付かれなかったようだ。私は安堵した。
「それで、イェブツシェンコ旅団長…、いえ、前旅団長は今どちらに?」
「首都におります。彼は第二旅団長に就任しました」。
 私は適当に嘘をついた。
「なるほど。わかりました。それにしても急ですね」。
「ソローキンとキーシンは命令違反で公国に侵入し、ソローキンは打ち取られ、キーシンは現在、捕虜となっています」。
 これは本当だ。私は続ける。
「戦闘は終わりましたが、彼らの穴を埋めるため急いで旅団長の異動を行う必要があったのです。詳細は後日、首都から報告があるでしょう」。

 私はこの話題を早く打ち切りたかったので、別の話を振った。
「それよりも、現在の起きている暴動についてですが」。
「先ほど、兵士を向かわせたところです」。
「彼らをすぐに城に戻してほしい」。
「えっ?」、ブルガコフは驚いて目を見開いた。「しかし」。
 彼が言葉をつづける前に私が発言してそれを遮る。
「私に任せてほしい」。
「わかりました」。
 ブルガコフは疑問があったようだが、とりあえず、この場は納得したようだ。
 私は隣にいるオットーに小声で耳打ちした。
「指導者のコフに、『モルデンはクリーガーが掌握したから暴動を止めろ』と伝えてくれ」。
「わかりました」。
 オットーはすぐに部屋を出て行った。
「彼に任せてください。暴動はすぐ治まります」。

 オットーは部屋を出て、急いで馬屋に向かう。そして、馬にまたがり、コフ達がいる隠れ家に目指す。
 オットーは城を出て街中を進み、酒場“パーレンバーレン”の前に馬をつなぎ、店の裏の狭い路地を進んだ。
 そして、コフ達のいる建物に入って、地下室へ向かった。

 ランプの明かりしかない薄暗い部屋にはコフが1人でいた。
 コフが剣を構えていたが、オットーを見て剣を置いた。
「誰かと思ったら、オットーじゃないか。驚いたぞ」。
「驚かせてすみません、急な話があってきました」。
 オットーは呼吸を整えてから話す。
「このモルデンは師、クリーガー隊長が掌握しました。まずは暴動を止めてください」。
「何だと?」
 コフは、しばらく何も話さなかった。オットーの話の内容を頭の中で繰り返した後、ようやく口を開いた。
「本当か?」
 コフは驚いた表情で訊き返した。
「でも、どうやったんだ?」
「偽の命令書で副司令官を騙しました」。
「わかった一旦暴動は止めさせるが、クリーガーに会わせてくれ、この目で見るまでちょっと信じられん」。
「わかりました。師は城にいますので、ご案内します」。
 オットーとコフは地下室から上がった。オットーは建物を出て、酒場“パーレンバーレン”の前につないである馬にまたがった。コフは建物の表につないでいた馬を乗って、酒場でオットーと合流した。

 二人は暴動が起こっている方へ向かう。そこは煙が立っていて、何かが燃えるにおいがする。通りの真ん中で瓦礫に火を起こして、その周りに数百人の人々が集まっていた。
 その中にルイーザ・ハートマンとリアム・クーラの姿があった。コフは彼らに近づき、火を消すように伝えた。
 ほどなくして火が消える。クリーガーがモルデンを掌握したと聞いて、その場にいた人々が、次々に歓喜の声を上げ始めた。

 オットー、コフ、ハートマン、クーラの四人はその場を離れ、城に向かう。

 四人は城に着き、私の待つ部屋に向かう。
 部屋では私一人で待っていた。四人が入室すると、私が立ち上がった。
 コフは握手のため手を指し出してあいさつした。
「私は共和国派、モルデンでの指導者の一人、エリアス・コフ。こちらは、仲間のルイーザ・ハートマンとリアム・クーラ」。
 私も手を差し出して握手しつつ言った。
「初めまして、オットーから聞いています。ユルゲン・クリーガーです」。
「本当にやったのですね。オットーから少し話を聞きました。偽の命令書を使ったとか」。
「ええ、上手くいきました」。
 オットーは口を挟んだ。
「師は“帝国の英雄”だから、帝国軍の者は彼の言うことは信じて疑いません」。
「なるほど、あなたが長いこと帝国軍に所属していると聞いていたので、実は少々疑っていたのです。共和国派の事を探っているのではないかとね」。
 私は肩をすくめて言った。
「まあ、仕方ありません。これで信じてもらえましたか?」
「もちろんです」。
 私は皆に腰かける様に促し、着席したのを見て、切り出した。
「ところで、次にやってほしいことがあります」。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました

青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。 それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

【完結済】ラーレの初恋

こゆき
恋愛
元気なアラサーだった私は、大好きな中世ヨーロッパ風乙女ゲームの世界に転生していた! 死因のせいで顔に大きな火傷跡のような痣があるけど、推しが愛してくれるから問題なし! けれど、待ちに待った誕生日のその日、なんだかみんなの様子がおかしくて──? 転生した少女、ラーレの初恋をめぐるストーリー。 他サイトにも掲載しております。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

処理中です...