色彩の大陸2~隠された策謀

谷島修一

文字の大きさ
上 下
35 / 75
ソローキン反乱

ソントルヴィレの戦い2

しおりを挟む

 上空に人影が見える。

 一、二、三。

 三人いる。彼らの手から、凄まじい稲妻が次々と放たれている。魔術師か。
 公国軍に、このような強力な魔術師が居るとは聞いたことがなかったが、さきほど霧を発生させたのもこの魔術師達だろう。
 陣の中に入った重装騎士団は次々に稲妻に撃たれていく。これまでに居た公国軍の魔術師の放つ稲妻とは威力が違った。このままではまずい。再びソローキンは退却を指示した。一旦、後退し体勢を立て直し、あの魔術師達に反撃を加えたい。
 帝国の上級士官が徒歩で退却中のソローキンを見つけて、自分の馬を渡した。

 帝国軍の魔術師も、空に向け稲妻や炎放ち、攻撃を行っていたが、宙を自由に飛び回る敵の魔術師には全く当たらない。
 空を飛ぶ魔術-念動魔術と言うのを聞いたことがあるが、帝国でそれを扱えるものはいない。
 ソローキンは以前あった出来事を思い出す。そういえば、一年前、傭兵部隊に所属していた魔術師が念動魔法で空を飛び、翼竜を倒したという報告書を目にしたことがある。
 そして、首都アリーグラードの城内で皇帝親衛隊達とチューリンが戦っていた時、途中から加勢してきたヴィット王国の魔術師が念動魔術を使っていたのを見たことがあった。
 まさか、公国にもこんな魔術師が居るとは。

 帝国軍の弓兵も空に向け矢を放つが、魔術師はそれが届かない上空を飛行していた。ソローキンは稲妻を避けようと、盾を上に構え後退を続けた。
 帝国軍が後退を始め、公国軍の陣地から離れると、再びカタパルトと矢による攻撃が開始された。
 しかし、今回は公国軍の兵士による追撃はなかった。

 帝国軍は離れた丘の上まで後退した。
 魔術の稲妻による攻撃では死者は出ないようだが、撃たれたものはその場で気絶するか、動けなくなって公国の捕虜になってしまっただろう。
 一度目の攻撃の際、追撃されことにより多くの犠牲者が出ていた。これまでの全ての戦いでの犠牲者は四千人程度に上っていた。先頭で戦った重装騎士団の割合が高い。
 さらには、負傷者の数も多くなってきた。ソローキンは、重傷者は、先に帝国に撤退させるように命令した。

 ソローキンは、あのような強力な魔術師との戦いを経験したことがない。あの三人の魔術師をなんとかしないと、戦いにすらならない。
 共和国出身の遊撃部隊の中に、あのように空を飛んで戦う剣士がいる。その者なら魔術師達を牽制できたかもしれない。
 もし遊撃部隊をここまで呼ぶとしても、まずは皇帝陛下にお願いし、派遣までは早くまで最低二週間は掛かるだろう。ここに遊撃部隊がいないのは悔しいが、今、いくら悔やんでもなんともしようがない。

 食料は残り少なく、あと三日分しかない。
 ペシェハノフからの補給も到着していない。一体、どうしたことか。
 ペシェハノフに送った伝令も戻ってこない、ということは伝令自体がペシェハノフの元に到達できていないということも考えられた。
 やはり途中、公国軍が潜んでいて伝令や補給を妨害しているのだろうか。
 補給が受けられないとわかっていれば、敵の領土の奥深くまで進軍することはなかったのだが。
 しかし、もう、このことを気にかけても仕方がない、今は現状をどうするかだ。
 撤退するのであれば、兵士への配給を少なくすれば何とか国境線まで持たせることができるだろう。
 今日中に敵の本体を壊滅させるか、撤退をするか決断をしなければならない。

 ソローキンは、キーシンと上級士官を集めて、今後について話し合った。
 ソローキンは、苛立ちを隠さない。
「私は、“イグナユグ戦争”でも無敗だった。それが、たった三人の魔術師のせいで、二万の軍が手も足も出ないとは」。
 しかし、あのような強力な魔術師には、こちらの魔術師達が束になっても太刀打ちできない。
 彼らが飛行している状況では、矢も命中させることが難しい。今のところ、こちらに打つ手はない。

 ソローキン、キーシン、上級士官達は、こちらの魔術師達に対策のための話を聞く。彼らによると魔術を使うために集中力が必要で、継続的に魔術を使えるのはせいぜい二時間程度だという。
 二時間、あの魔術師と公国軍の攻撃に耐え抜くことができれば、後は公国軍のみだ。そうなれば形勢を逆転できるだろう。

 キーシンはあらゆる状況を分析し、作戦を提案した。
 まずは、敵の陣に合わせて軍を大きく横に展開すれば、カタパルトの攻撃も分散されて、被害の拡大を防げる。同様に、あの三人の魔術師の攻撃も分散する。
 おそらく敵陣の前は幅広く落とし穴を作っているはずだ。敵が作った落とし穴を逆に塹壕として利用する。
 重装騎士団は少し後ろに控え、公国軍が陣地から出撃した際には、それを叩く。

 今日、三度目の攻撃だ。
 ソローキンの号令で全軍が進み始めた。
 兵士達は盾を構え、横に大きく広がり、全速力で公国軍の陣の前へ向かう。
 陣の前に設置されているはずの落とし穴を目指す。

 公国軍の陣地から矢の雨が降り注いで来た。
 街壁内からカタパルトの攻撃も始まった。巨大な岩が落下してくる。
 帝国軍の兵士が多数撃たれつつも、落とし穴まで到達した。
 公国軍の陣地の前は、予想通りほとんどの場所で落とし穴が設置されていた。木の枝を支えに土を被せ、わかりにくくしてある。最初の攻撃では、手痛い損害を受けたが、今度は、こちら側の塹壕として利用させてもらう。
 兵士たちは落とし穴に入り身を隠す。帝国の側も矢を射て攻撃を開始する。

 例の魔術師達はまだ現れない。
 かなり長い間、矢の攻撃をかわしていた。塹壕代わりの落とし穴の中で、さらに盾で遮っているので帝国の被害は、ほとんどなかった。
 その後、矢の攻撃が止み、先ほどと同じように陣の中央にある柵が開き公国軍が出撃してきた。公国軍は、柵の出口に近いところで身を隠している帝国軍に攻撃を始めた。
 その出撃を見て、後方に控えていた重装騎士団が動き出した。
 公国軍の騎兵も重装騎士団に対し進撃を始めた。
 三度目、両軍が衝突した。ソローキン、キーシン達の猛勇ぶりは目を見張る。次々に公国軍の騎兵を倒していく。
 公国軍の騎兵が押され始めたころ、例の魔術師が空から現れた。ただし一人だけだ。
 重装騎士団に対し稲妻を撃ち始めた。
 それによって帝国軍と公国軍は拮抗した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

うどん五段
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。 皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。 この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。 召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。 確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!? 「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」 気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。 ★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします! ★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 だが夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...