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ソローキン反乱
ソントルヴィレの戦い2
しおりを挟む上空に人影が見える。
一、二、三。
三人いる。彼らの手から、凄まじい稲妻が次々と放たれている。魔術師か。
公国軍に、このような強力な魔術師が居るとは聞いたことがなかったが、さきほど霧を発生させたのもこの魔術師達だろう。
陣の中に入った重装騎士団は次々に稲妻に撃たれていく。これまでに居た公国軍の魔術師の放つ稲妻とは威力が違った。このままではまずい。再びソローキンは退却を指示した。一旦、後退し体勢を立て直し、あの魔術師達に反撃を加えたい。
帝国の上級士官が徒歩で退却中のソローキンを見つけて、自分の馬を渡した。
帝国軍の魔術師も、空に向け稲妻や炎放ち、攻撃を行っていたが、宙を自由に飛び回る敵の魔術師には全く当たらない。
空を飛ぶ魔術-念動魔術と言うのを聞いたことがあるが、帝国でそれを扱えるものはいない。
ソローキンは以前あった出来事を思い出す。そういえば、一年前、傭兵部隊に所属していた魔術師が念動魔法で空を飛び、翼竜を倒したという報告書を目にしたことがある。
そして、首都アリーグラードの城内で皇帝親衛隊達とチューリンが戦っていた時、途中から加勢してきたヴィット王国の魔術師が念動魔術を使っていたのを見たことがあった。
まさか、公国にもこんな魔術師が居るとは。
帝国軍の弓兵も空に向け矢を放つが、魔術師はそれが届かない上空を飛行していた。ソローキンは稲妻を避けようと、盾を上に構え後退を続けた。
帝国軍が後退を始め、公国軍の陣地から離れると、再びカタパルトと矢による攻撃が開始された。
しかし、今回は公国軍の兵士による追撃はなかった。
帝国軍は離れた丘の上まで後退した。
魔術の稲妻による攻撃では死者は出ないようだが、撃たれたものはその場で気絶するか、動けなくなって公国の捕虜になってしまっただろう。
一度目の攻撃の際、追撃されことにより多くの犠牲者が出ていた。これまでの全ての戦いでの犠牲者は四千人程度に上っていた。先頭で戦った重装騎士団の割合が高い。
さらには、負傷者の数も多くなってきた。ソローキンは、重傷者は、先に帝国に撤退させるように命令した。
ソローキンは、あのような強力な魔術師との戦いを経験したことがない。あの三人の魔術師をなんとかしないと、戦いにすらならない。
共和国出身の遊撃部隊の中に、あのように空を飛んで戦う剣士がいる。その者なら魔術師達を牽制できたかもしれない。
もし遊撃部隊をここまで呼ぶとしても、まずは皇帝陛下にお願いし、派遣までは早くまで最低二週間は掛かるだろう。ここに遊撃部隊がいないのは悔しいが、今、いくら悔やんでもなんともしようがない。
食料は残り少なく、あと三日分しかない。
ペシェハノフからの補給も到着していない。一体、どうしたことか。
ペシェハノフに送った伝令も戻ってこない、ということは伝令自体がペシェハノフの元に到達できていないということも考えられた。
やはり途中、公国軍が潜んでいて伝令や補給を妨害しているのだろうか。
補給が受けられないとわかっていれば、敵の領土の奥深くまで進軍することはなかったのだが。
しかし、もう、このことを気にかけても仕方がない、今は現状をどうするかだ。
撤退するのであれば、兵士への配給を少なくすれば何とか国境線まで持たせることができるだろう。
今日中に敵の本体を壊滅させるか、撤退をするか決断をしなければならない。
ソローキンは、キーシンと上級士官を集めて、今後について話し合った。
ソローキンは、苛立ちを隠さない。
「私は、“イグナユグ戦争”でも無敗だった。それが、たった三人の魔術師のせいで、二万の軍が手も足も出ないとは」。
しかし、あのような強力な魔術師には、こちらの魔術師達が束になっても太刀打ちできない。
彼らが飛行している状況では、矢も命中させることが難しい。今のところ、こちらに打つ手はない。
ソローキン、キーシン、上級士官達は、こちらの魔術師達に対策のための話を聞く。彼らによると魔術を使うために集中力が必要で、継続的に魔術を使えるのはせいぜい二時間程度だという。
二時間、あの魔術師と公国軍の攻撃に耐え抜くことができれば、後は公国軍のみだ。そうなれば形勢を逆転できるだろう。
キーシンはあらゆる状況を分析し、作戦を提案した。
まずは、敵の陣に合わせて軍を大きく横に展開すれば、カタパルトの攻撃も分散されて、被害の拡大を防げる。同様に、あの三人の魔術師の攻撃も分散する。
おそらく敵陣の前は幅広く落とし穴を作っているはずだ。敵が作った落とし穴を逆に塹壕として利用する。
重装騎士団は少し後ろに控え、公国軍が陣地から出撃した際には、それを叩く。
今日、三度目の攻撃だ。
ソローキンの号令で全軍が進み始めた。
兵士達は盾を構え、横に大きく広がり、全速力で公国軍の陣の前へ向かう。
陣の前に設置されているはずの落とし穴を目指す。
公国軍の陣地から矢の雨が降り注いで来た。
街壁内からカタパルトの攻撃も始まった。巨大な岩が落下してくる。
帝国軍の兵士が多数撃たれつつも、落とし穴まで到達した。
公国軍の陣地の前は、予想通りほとんどの場所で落とし穴が設置されていた。木の枝を支えに土を被せ、わかりにくくしてある。最初の攻撃では、手痛い損害を受けたが、今度は、こちら側の塹壕として利用させてもらう。
兵士たちは落とし穴に入り身を隠す。帝国の側も矢を射て攻撃を開始する。
例の魔術師達はまだ現れない。
かなり長い間、矢の攻撃をかわしていた。塹壕代わりの落とし穴の中で、さらに盾で遮っているので帝国の被害は、ほとんどなかった。
その後、矢の攻撃が止み、先ほどと同じように陣の中央にある柵が開き公国軍が出撃してきた。公国軍は、柵の出口に近いところで身を隠している帝国軍に攻撃を始めた。
その出撃を見て、後方に控えていた重装騎士団が動き出した。
公国軍の騎兵も重装騎士団に対し進撃を始めた。
三度目、両軍が衝突した。ソローキン、キーシン達の猛勇ぶりは目を見張る。次々に公国軍の騎兵を倒していく。
公国軍の騎兵が押され始めたころ、例の魔術師が空から現れた。ただし一人だけだ。
重装騎士団に対し稲妻を撃ち始めた。
それによって帝国軍と公国軍は拮抗した。
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