色彩の大陸2~隠された策謀

谷島修一

文字の大きさ
上 下
30 / 75
ソローキン反乱

公国首都・ソントルヴィレ

しおりを挟む
 大陸歴1658年3月26日 テレ・ダ・ズール公国・首都ソントルヴィレ

 帝国軍が国境を越えたことが伝わると、ソントルヴィレの首都の城の大公の間では大騒ぎとなっていた。
 最高指導者である大公パトリック二世の前に、国防大臣はじめ各大臣が集まっていた。首相が落ち着きなく国防大臣に話しかける。
「今回の作戦は帝国が越境してくるということは聞いていなかった。一体どういうことだ」。
 一方の国防大臣は落ち着いた風で答えた。
「なにか手違いがあったのでしょう」。
 首相は言う。
「カタパルトが多数、破壊されたという。我々は罠にはめられたのではないか? まんまと帝国軍の侵略の機会を与えてしまったのではないのか?」
「私はそうは思いません」。
「何故だ?」
「何故ならば、今回はヴィット王国の魔術師三人も来ております。もし、帝国の目的が我が国への侵攻であれば、自分達に不利になる様なことはしなかったでしょう。今回は何かの行き違いだと思います」。
「帝国をそこまで信用していいのか?ヴィット王国の魔術師もグルだったら?」
 首相は声を荒らげた。

 首相と国防大臣の言い争いを見かねて、パトリック二世が言葉を挟んだ。
「とりあえず、帝国軍はもうしばらく様子を見よう」。
 パトリック二世は傍にいた衛兵に声を掛ける。
「念のため、ヴィット王国の魔術師達には監視を付けておけ」。

 衛兵が部屋を出て行くのを見て、パトリック二世は国防大臣に質問する。
「今後のわが軍はどうする?」
「司令官のトム・フルニエの作戦によると、軍は戦わず、一気に首都まで退却します」。
 国防大臣はそう言うと、再び首相が声を荒らげた。
「なんですと!そのまま首都を攻撃されたらどうするんだ」。
「帝国軍がここまで来たとしたら、補給線が伸びます。途中にある村には今の季節、あまり食料の備蓄は多くはありません。我が国の領内で新たに食料の調達はほとんど無理です。ですので、時間をかけて首都を攻め続けることはできません。もし帝国軍が首都まで来ずに、退却すればそれはそれで構わないでしょう。そうなれば、機会を見て追撃します。私は司令官フルニエを信用しています。彼に任せれば大丈夫です」。
 それを聞いてパトリック二世は言った。
「わかった国防長官と司令官を信用しよう。このまま、行く末を見守ることにする」。
 首相は少々不満そうにしているが、パトリック二世の言葉を聞いて、それ以上は反論をすることしなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

【完結済】ラーレの初恋

こゆき
恋愛
元気なアラサーだった私は、大好きな中世ヨーロッパ風乙女ゲームの世界に転生していた! 死因のせいで顔に大きな火傷跡のような痣があるけど、推しが愛してくれるから問題なし! けれど、待ちに待った誕生日のその日、なんだかみんなの様子がおかしくて──? 転生した少女、ラーレの初恋をめぐるストーリー。 他サイトにも掲載しております。

回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

名無し
ファンタジー
回復術師ピッケルは、20歳の誕生日、パーティーリーダーの部屋に呼び出されると追放を言い渡された。みぐるみを剥がされ、泣く泣く部屋をあとにするピッケル。しかし、この時点では仲間はもちろん本人さえも知らなかった。ピッケルの回復術師としての能力は、想像を遥かに超えるものだと。

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

元聖女だった少女は我が道を往く

春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。 彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。 「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。 その言葉は取り返しのつかない事態を招く。 でも、もうわたしには関係ない。 だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。 わたしが聖女となることもない。 ─── それは誓約だったから ☆これは聖女物ではありません ☆他社でも公開はじめました

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

私が産まれる前に消えた父親が、隣国の皇帝陛下だなんて聞いてない

丙 あかり
ファンタジー
 ハミルトン侯爵家のアリスはレノワール王国でも有数の優秀な魔法士で、王立学園卒業後には婚約者である王太子との結婚が決まっていた。  しかし、王立学園の卒業記念パーティーの日、アリスは王太子から婚約破棄を言い渡される。  王太子が寵愛する伯爵令嬢にアリスが嫌がらせをし、さらに魔法士としては禁忌である『魔法を使用した通貨偽造』という理由で。    身に覚えがないと言うアリスの言葉に王太子は耳を貸さず、国外追放を言い渡す。    翌日、アリスは実父を頼って隣国・グランディエ帝国へ出発。  パーティーでアリスを助けてくれた帝国の貴族・エリックも何故か同行することに。  祖父のハミルトン侯爵は爵位を返上して王都から姿を消した。  アリスを追い出せたと喜ぶ王太子だが、激怒した国王に吹っ飛ばされた。  「この馬鹿息子が!お前は帝国を敵にまわすつもりか!!」    一方、帝国で仰々しく迎えられて困惑するアリスは告げられるのだった。   「さあ、貴女のお父君ーー皇帝陛下のもとへお連れ致しますよ、お姫様」と。 ****** 不定期更新になります。  

処理中です...