25 / 75
謎めいた指令
レストラン “ストラナ・ザームカ”
しおりを挟む 大陸歴1658年3月21日・帝国首都アリーグラード城内
翌日。この日も遊撃部隊は城内での訓練を行っていた。
それも終わり、夕刻、今回は私がヴァーシャを夕食に誘った。
私が昨年首都を訪問した時、二度ほど入ったお気に入りのレストラン“ストラナ・ザームカ”だ。いまさらだが、城の中でヴァーシャと何度も会っていると人目に付くので、今回はこの店での待ち合わせとした。さらに店の奥の個室を予約したので、店内でも人の目を気にすることはない。
私は一足早く店に到着し、ヴァーシャの到着を待った。
しばらくすると、ヴァーシャがウエイトレスに連れられて部屋に入ってきた。
ヴァーシャはウエイトレスに礼を言うと、私に向き直った。
「こんばんは。今日は誘っていただいて嬉しいわ」。
「私の方も招きに応じていただいて嬉しいです。ありがとうございます」。
「ところで、どうしてこの店にしたの?」
「昨年、首都を訪問した時に二度ばかり入ったことがあって、料理も雰囲気も良くて気に入ってしまいました」。
「そうですか。私も以前何度か入ったことがあります。良いお店ですね」。
私は椅子を引いてヴァーシャを座らせた。そして、私も席に着いた。
タイミングよくウエイターがワインクーラーをワゴンに運んで入ってきた。私はウエイターに合図をすると、ワインクーラーからワインの瓶を取り出しコルクを開けた。
そして、卓上に置いてあるグラスに丁寧に注ぐ。
私とヴァーシャはグラスで乾杯をした後、運ばれてくる料理を談笑しながら食べた。
「両親にあなたのことを話したら、会ってみたいと言っていたよ」。
それを聞いて少々驚いて答えた。
「お会いするのは構いません、しかし、帝国軍の上級士官は皆、貴族出身と聞きました」。
「そうですね、ほとんどがそうね。私のアクーニン家も一応貴族で、一族は軍人が多い。軍人以外もいます。それがどうかしました?」。
「私は共和国の平民の出身です。さらに子供の頃、両親を亡くして孤児院育ちです。いまさらですが、身分の違いは大丈夫なのでしょうか」。
「そんなこと」。そう言って、ヴァーシャは笑って見せた。「五十年前ならともかく、今はそんなことを気にする人はさほど多くないわ。私の両親も然り。しかも、あなたは“帝国の英雄”。両親は“是非に”、と言っているわ。気にすることはないわよ」。
「それは良かったです」。私は安堵のため息をついた。「そう言えば、お父様も軍関係者でしたよね」。
「ええ、文官だけど。城内で調達の仕事をしているわ」。
「そうなんですね。そういえば、ヴァーシャ自身はどこで剣の腕を磨いたんですか」。
「はじめは、子供の頃、たまたま知り合いになった剣の指導者がきっかけで、その後、軍のアカデミーに入学してからは、そこの講師に教わったわ」。
「いい人に教わったんですね」。
「ええ。ユーリの方は、師が居たのよね?」
「そうです。師に孤児院で拾ってもらって、父親代わりでした。そして剣でも“深蒼の騎士”になるために鍛えられました」。
昨年の“チューリン事件”の際に、師のセバスティアン・ウォルターは魔術師のアーランドソンに殺害されていることが分ったのだ。
私は師との日々を少し思い出した。
「大丈夫?」
私が師のことを思い出して、ぼーっとしてしまったのを見て、ヴァーシャが心配して声を掛けたらしい。
「大丈夫です。ちょっと師のことを思い出していました」。
ヴァーシャにも師が殺害されていたことを話したことがあったので、彼女はそれ以上この話には触れずにいた。
我々はその後、食事をしながら将来について話し合って時間を過ごした。
翌日。この日も遊撃部隊は城内での訓練を行っていた。
それも終わり、夕刻、今回は私がヴァーシャを夕食に誘った。
私が昨年首都を訪問した時、二度ほど入ったお気に入りのレストラン“ストラナ・ザームカ”だ。いまさらだが、城の中でヴァーシャと何度も会っていると人目に付くので、今回はこの店での待ち合わせとした。さらに店の奥の個室を予約したので、店内でも人の目を気にすることはない。
私は一足早く店に到着し、ヴァーシャの到着を待った。
しばらくすると、ヴァーシャがウエイトレスに連れられて部屋に入ってきた。
ヴァーシャはウエイトレスに礼を言うと、私に向き直った。
「こんばんは。今日は誘っていただいて嬉しいわ」。
「私の方も招きに応じていただいて嬉しいです。ありがとうございます」。
「ところで、どうしてこの店にしたの?」
「昨年、首都を訪問した時に二度ばかり入ったことがあって、料理も雰囲気も良くて気に入ってしまいました」。
「そうですか。私も以前何度か入ったことがあります。良いお店ですね」。
私は椅子を引いてヴァーシャを座らせた。そして、私も席に着いた。
タイミングよくウエイターがワインクーラーをワゴンに運んで入ってきた。私はウエイターに合図をすると、ワインクーラーからワインの瓶を取り出しコルクを開けた。
そして、卓上に置いてあるグラスに丁寧に注ぐ。
私とヴァーシャはグラスで乾杯をした後、運ばれてくる料理を談笑しながら食べた。
「両親にあなたのことを話したら、会ってみたいと言っていたよ」。
それを聞いて少々驚いて答えた。
「お会いするのは構いません、しかし、帝国軍の上級士官は皆、貴族出身と聞きました」。
「そうですね、ほとんどがそうね。私のアクーニン家も一応貴族で、一族は軍人が多い。軍人以外もいます。それがどうかしました?」。
「私は共和国の平民の出身です。さらに子供の頃、両親を亡くして孤児院育ちです。いまさらですが、身分の違いは大丈夫なのでしょうか」。
「そんなこと」。そう言って、ヴァーシャは笑って見せた。「五十年前ならともかく、今はそんなことを気にする人はさほど多くないわ。私の両親も然り。しかも、あなたは“帝国の英雄”。両親は“是非に”、と言っているわ。気にすることはないわよ」。
「それは良かったです」。私は安堵のため息をついた。「そう言えば、お父様も軍関係者でしたよね」。
「ええ、文官だけど。城内で調達の仕事をしているわ」。
「そうなんですね。そういえば、ヴァーシャ自身はどこで剣の腕を磨いたんですか」。
「はじめは、子供の頃、たまたま知り合いになった剣の指導者がきっかけで、その後、軍のアカデミーに入学してからは、そこの講師に教わったわ」。
「いい人に教わったんですね」。
「ええ。ユーリの方は、師が居たのよね?」
「そうです。師に孤児院で拾ってもらって、父親代わりでした。そして剣でも“深蒼の騎士”になるために鍛えられました」。
昨年の“チューリン事件”の際に、師のセバスティアン・ウォルターは魔術師のアーランドソンに殺害されていることが分ったのだ。
私は師との日々を少し思い出した。
「大丈夫?」
私が師のことを思い出して、ぼーっとしてしまったのを見て、ヴァーシャが心配して声を掛けたらしい。
「大丈夫です。ちょっと師のことを思い出していました」。
ヴァーシャにも師が殺害されていたことを話したことがあったので、彼女はそれ以上この話には触れずにいた。
我々はその後、食事をしながら将来について話し合って時間を過ごした。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

もうあなた様の事は選びませんので
新野乃花(大舟)
恋愛
ロベルト男爵はエリクシアに対して思いを告げ、二人は婚約関係となった。しかし、ロベルトはその後幼馴染であるルアラの事ばかりを気にかけるようになり、エリクシアの事を放っておいてしまう。その後ルアラにたぶらかされる形でロベルトはエリクシアに婚約破棄を告げ、そのまま追放してしまう。…しかしそれから間もなくして、ロベルトはエリクシアに対して一通の手紙を送る。そこには、頼むから自分と復縁してほしい旨の言葉が記載されており…。
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

外れスキルで始める、田舎で垂れ流しスローライフ!
Mr.Six
ファンタジー
「外れスキル」と嘲笑され、故郷を追放された青年リクト。彼の唯一のスキル「垂れ流し」は、使うと勝手に物が溢れ出すという奇妙な能力だった。辿り着いたのは、人里離れた小さな村。荒れた畑、壊れかけの家々、そしてどこか元気のない村人たち。
役立たずと思われていたスキルが、いつしか村を救う奇跡を起こす。流れ出る謎の作物や道具が村を潤し、彼の不器用ながらも心優しい行動が人々の心を繋いでいく。畑を耕し、収穫を喜び、仲間と笑い合う日々の中で、リクトは「無価値なスキル」の本当の価値に気付いていく。
笑いと癒し、そして小さな奇跡が詰まった、異世界スローライフ物語!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

ダンマス(異端者)
AN@RCHY
ファンタジー
幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。
元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。
人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!
地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。
戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。
始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。
小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。
向こうの小説を多少修正して投稿しています。
修正をかけながらなので更新ペースは不明です。
転生令嬢は庶民の味に飢えている
柚木原みやこ(みやこ)
ファンタジー
ある日、自分が異世界に転生した元日本人だと気付いた公爵令嬢のクリステア・エリスフィード。転生…?公爵令嬢…?魔法のある世界…?ラノベか!?!?混乱しつつも現実を受け入れた私。けれど…これには不満です!どこか物足りないゴッテゴテのフルコース!甘いだけのスイーツ!!
もう飽き飽きですわ!!庶民の味、プリーズ!
ファンタジーな異世界に転生した、前世は元OLの公爵令嬢が、周りを巻き込んで庶民の味を楽しむお話。
まったりのんびり、行き当たりばったり更新の予定です。ゆるりとお付き合いいただければ幸いです。

異世界漫遊記 〜異世界に来たので仲間と楽しく、美味しく世界を旅します〜
カイ
ファンタジー
主人公の沖 紫惠琉(おき しえる)は会社からの帰り道、不思議な店を訪れる。
その店でいくつかの品を持たされ、自宅への帰り道、異世界への穴に落ちる。
落ちた先で紫惠琉はいろいろな仲間と穏やかながらも時々刺激的な旅へと旅立つのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる