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謎めいた指令
第四旅団長 ミハイル・イェブツシェンコ
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大陸歴1658年3月20日・帝国首都アリーグラード郊外
早朝、首都郊外で野営している、ルツコイの率いる旅団と、我々の遊撃部隊が合流した。
今日は、ルツコイの提案で模擬戦を開催することになっている。
私も私が率いる遊撃部隊の隊員達も緊張の面持ちで待機の時間を過ごしていた。
我々、遊撃部隊が、このような大規模な演習に参加するのは傭兵部隊の頃も含めて初めてだからだ。
ただし、遊撃部隊の隊員の多くは共和国軍に所属していた。その頃に大規模演習をした経験はあるだろうが、それでも皆おそらく数年ぶりだろう。
今日は、ルツコイの第五旅団三千と私の遊撃部隊二百の合計三千二百対イェブツシェンコの第四旅団の三千五百で行われることとなった。
第五旅団と遊撃部隊は、野営地から少し離れた小高い丘に移動させた、第四旅団は反対側の草原に移動している。
ルツコイの旅団には重装騎士団がいる。重装騎兵の鎧はその名の通り厚い鎧で武装している。そして、厚い盾を持つため防御力が高い。そして騎兵であるため、その機動力を活かし敵を突破する。
イェブツシェンコの部隊には重装騎士団はおらず、通常の騎兵部隊と歩兵で構成されている。イェプツシェンコの旅団の方がわずかに数が多いが、重装騎士団の有無は勝敗に大きな影響を出すだろう。
そして、各旅団には少なからず魔術師がいるが、今回は演習のため魔術の威力を減らすため、あらかじめ魔石の交換をしていた。
今回の演習では弟子のオットー、ソフィア、オレガには魔術の使用を禁止した。私も魔術は利用しない。
野営地から狼煙が上げられた。戦闘開始だ。
早速、イェブツシェンコの部隊が移動を開始した。
騎兵を先頭に一気にこちらに向かって来る。
私はルツコイの部隊の様子を見ていた、まだ動く様子はない。私は、自ら率いる遊撃部隊は数が少ないので単独で動くのは危険だと判断し、ルツコイの部隊と同調しようと考えていた。
遊撃部隊で馬上にいるのは、私以外では副長のオットーとプロブストのみだ。オットーは“ブラウロット戦争”の時、義勇兵としてモルデンで大規模な戦闘を体験しているが、プロブストは、こういった経験が無い。私は共和国軍の時代にやったきりなので数年ぶりとなる。
私は整列している遊撃部隊を馬でゆっくりと見回った。
オレガが目に留まった。少し震えているようにも見えたが、大丈夫だろうか?
私はオレガに近づき声を掛けた。
「大丈夫か?震えているようだが」。
「武者震いです」。
相変わらず無表情だ。彼女らしい強がった答えに、私はフッと笑って言った。
「無理はするなよ」。
マリアにも目に留まったので、声を掛けてみた。
「久しぶりなので、血が騒ぎます」。
こちらも彼女らしい答えだった。
私は馬を返し遊撃部隊の先頭に戻った。
イェプツシェンコの部隊がどんどん近づいてくる。騎兵が、ルツコイの部隊がいる丘のふもとに差し掛かったあたりで、ルツコイが進軍の号令を掛けた。それ共にルツコイの部隊が鬨の声を上げて動き始めた、重装騎士団を先頭に一気に丘を駆け降りるつもりだ。我々も遅れをとらないように号令を掛けた。私を先頭に遊撃部隊も動き出した。
イェプツシェンコの騎兵部隊とルツコイの重装騎士団が、丘の中腹辺りで衝突した。丘から駆け降りて勢いがついている重装騎士団に対し、長距離を進行した上に丘を駆け上がって来ている騎兵部隊はいくらか勢いが衰えていた。
重装騎士団が一気に騎兵団を押していく。双方の魔術師の一団が馬上から稲妻をはなち、お互いの騎兵を狙い撃ちしていく。勢いの付いている重装騎士団は騎兵部隊の中央を突破した。続けて騎兵部隊の後に続く歩兵部隊に攻撃を開始する。
さすがは、ルツコイだ。部隊の配置場所と攻撃のタイミングは完璧と言ってよい。
遊撃部隊とルツコイの旅団の歩兵は、騎兵団の残存を攻撃し続けていた。
集団戦では、正面の敵に攻撃しつつも、周囲に注意をしていていないと、横から、後ろから攻撃を受けてしまう。これまでの少数同士の戦いとはだいぶ勝手が違う。
それでも私は模擬剣を使って、何とか敵を圧倒していく。
弟子や隊員たちも善戦しているようだ。
ルツコイ率いる重装騎兵の一団は一気にイェプツシェンコの歩兵部隊の中央を切り裂くように突破していく。さらに突き進み、その先にはイェプツシェンコとそれを守る騎兵部隊がいる。
騎兵部隊が最後の抵抗を試みるも、徐々に重装騎士団に押されていく。しばらくして、イェプツシェンコが捕らえられ演習は終了することとなった。
遊撃部隊は、終始、ルツコイの後方で、彼らが討ち漏らしたイェプツシェンコの騎兵団と歩兵に攻撃を仕掛ける形となっていた。
私の予想と反して短時間で演習は終了した。
戦いの後、ルツコイに話を聞いてみた。
まずは、小高い丘の上に陣を張っているルツコイの旅団の方が有利だったという。
同数の兵力であれば、今回のように陣地の場所や兵士の士気などで戦況は変わってくるという。また、三千の兵の戦いと一万の兵のそれとは、戦い方が違うそうだ。
なるほど。今日は貴重な体験ができた。隊員達にもためになったことだろう。
早朝、首都郊外で野営している、ルツコイの率いる旅団と、我々の遊撃部隊が合流した。
今日は、ルツコイの提案で模擬戦を開催することになっている。
私も私が率いる遊撃部隊の隊員達も緊張の面持ちで待機の時間を過ごしていた。
我々、遊撃部隊が、このような大規模な演習に参加するのは傭兵部隊の頃も含めて初めてだからだ。
ただし、遊撃部隊の隊員の多くは共和国軍に所属していた。その頃に大規模演習をした経験はあるだろうが、それでも皆おそらく数年ぶりだろう。
今日は、ルツコイの第五旅団三千と私の遊撃部隊二百の合計三千二百対イェブツシェンコの第四旅団の三千五百で行われることとなった。
第五旅団と遊撃部隊は、野営地から少し離れた小高い丘に移動させた、第四旅団は反対側の草原に移動している。
ルツコイの旅団には重装騎士団がいる。重装騎兵の鎧はその名の通り厚い鎧で武装している。そして、厚い盾を持つため防御力が高い。そして騎兵であるため、その機動力を活かし敵を突破する。
イェブツシェンコの部隊には重装騎士団はおらず、通常の騎兵部隊と歩兵で構成されている。イェプツシェンコの旅団の方がわずかに数が多いが、重装騎士団の有無は勝敗に大きな影響を出すだろう。
そして、各旅団には少なからず魔術師がいるが、今回は演習のため魔術の威力を減らすため、あらかじめ魔石の交換をしていた。
今回の演習では弟子のオットー、ソフィア、オレガには魔術の使用を禁止した。私も魔術は利用しない。
野営地から狼煙が上げられた。戦闘開始だ。
早速、イェブツシェンコの部隊が移動を開始した。
騎兵を先頭に一気にこちらに向かって来る。
私はルツコイの部隊の様子を見ていた、まだ動く様子はない。私は、自ら率いる遊撃部隊は数が少ないので単独で動くのは危険だと判断し、ルツコイの部隊と同調しようと考えていた。
遊撃部隊で馬上にいるのは、私以外では副長のオットーとプロブストのみだ。オットーは“ブラウロット戦争”の時、義勇兵としてモルデンで大規模な戦闘を体験しているが、プロブストは、こういった経験が無い。私は共和国軍の時代にやったきりなので数年ぶりとなる。
私は整列している遊撃部隊を馬でゆっくりと見回った。
オレガが目に留まった。少し震えているようにも見えたが、大丈夫だろうか?
私はオレガに近づき声を掛けた。
「大丈夫か?震えているようだが」。
「武者震いです」。
相変わらず無表情だ。彼女らしい強がった答えに、私はフッと笑って言った。
「無理はするなよ」。
マリアにも目に留まったので、声を掛けてみた。
「久しぶりなので、血が騒ぎます」。
こちらも彼女らしい答えだった。
私は馬を返し遊撃部隊の先頭に戻った。
イェプツシェンコの部隊がどんどん近づいてくる。騎兵が、ルツコイの部隊がいる丘のふもとに差し掛かったあたりで、ルツコイが進軍の号令を掛けた。それ共にルツコイの部隊が鬨の声を上げて動き始めた、重装騎士団を先頭に一気に丘を駆け降りるつもりだ。我々も遅れをとらないように号令を掛けた。私を先頭に遊撃部隊も動き出した。
イェプツシェンコの騎兵部隊とルツコイの重装騎士団が、丘の中腹辺りで衝突した。丘から駆け降りて勢いがついている重装騎士団に対し、長距離を進行した上に丘を駆け上がって来ている騎兵部隊はいくらか勢いが衰えていた。
重装騎士団が一気に騎兵団を押していく。双方の魔術師の一団が馬上から稲妻をはなち、お互いの騎兵を狙い撃ちしていく。勢いの付いている重装騎士団は騎兵部隊の中央を突破した。続けて騎兵部隊の後に続く歩兵部隊に攻撃を開始する。
さすがは、ルツコイだ。部隊の配置場所と攻撃のタイミングは完璧と言ってよい。
遊撃部隊とルツコイの旅団の歩兵は、騎兵団の残存を攻撃し続けていた。
集団戦では、正面の敵に攻撃しつつも、周囲に注意をしていていないと、横から、後ろから攻撃を受けてしまう。これまでの少数同士の戦いとはだいぶ勝手が違う。
それでも私は模擬剣を使って、何とか敵を圧倒していく。
弟子や隊員たちも善戦しているようだ。
ルツコイ率いる重装騎兵の一団は一気にイェプツシェンコの歩兵部隊の中央を切り裂くように突破していく。さらに突き進み、その先にはイェプツシェンコとそれを守る騎兵部隊がいる。
騎兵部隊が最後の抵抗を試みるも、徐々に重装騎士団に押されていく。しばらくして、イェプツシェンコが捕らえられ演習は終了することとなった。
遊撃部隊は、終始、ルツコイの後方で、彼らが討ち漏らしたイェプツシェンコの騎兵団と歩兵に攻撃を仕掛ける形となっていた。
私の予想と反して短時間で演習は終了した。
戦いの後、ルツコイに話を聞いてみた。
まずは、小高い丘の上に陣を張っているルツコイの旅団の方が有利だったという。
同数の兵力であれば、今回のように陣地の場所や兵士の士気などで戦況は変わってくるという。また、三千の兵の戦いと一万の兵のそれとは、戦い方が違うそうだ。
なるほど。今日は貴重な体験ができた。隊員達にもためになったことだろう。
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