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謎めいた指令
弟子 オットー・クラクス
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大陸歴1658年3月18日・帝国首都アリーグラード城内
遊撃部隊は、今回、城ではあまり使われていない大部屋を臨時で与えられた。二百人の隊員たちは、そこに滞在している。昨日まで二日間休みとしていたが、本日から再開だ。
首都では現状、待機命令以外、何も任務が無かったので終日訓練とした。私も久しぶりに剣の指導に参加している。
第五旅団所属の傭兵部隊から、皇帝直属の遊撃部隊になって所属している人数も二百人から四百人へと倍になった。同じ隊長という肩書でも、明らかに立場が上がっていた。しかし、そうなると書類の確認や承認、報告書の作成など、ペーパーワークが増えるということ知った。
その結果、ズーデハーフェンシュタットでの訓練は副隊長であるオットーとプロブストの二人に任せることが多かったが、今は離れた首都アリーグラードにいる。ペーパーワークから解放されたというわけだ。
今日は城内の修練場を借りた。ここは以前、皇帝親衛隊の隊長であるヴァーシャと手合わせした場所だ。今回の遠征では四百人のうち半分しか首都には来ていないが、その全員で剣の修練をしている。
今日もオットーとプロブストの二人は良く隊員達を見ている。私も隊員達の修練の様子を見て回る。そして、時々、隊員達に剣の扱いについて助言をして歩いた。
先日もオットーと修練をしたかったが、この首都遠征の命令が出たせいで、それができなかったのが気になっていた。
私はオットーに声を掛けた。
「のびのびになっていたが、一緒に修練をどうだい?」
「ぜひお願いします!」
オットーは嬉しそうに答えた。
そして、部隊としての訓練は終わり、私とオットーは二人で修練をするために城内で場所を探した。
時間は夕刻遅くなっており、松明の灯りがある城壁の近くにあった少し広い場所を探しあて、修練を始めた。
オットーは私の弟子になり三年。力強い剣裁き、その腕前も磨きがかかり、動きに隙もほとんどない。とっくに危険な任務も任せられるようになっているし、副隊長としての仕事もそつなくこなし、頼もしい限りだ。もう、私が教えることは、あまりないかのもしれない。
二時間ほどの修練を終え、その後、オットーと一緒に食事を取ることにした。
もともと帝国軍兵士たちが使っている休憩所に行き、そこで干し肉をかじりながら、エールを飲む。しばらく談笑しているとオットーが話題を変えて来た。
「師、ところで、あの隊長とはどうなんです?」
「あの隊長とは?」
「しらばっくれないで下さい」。そういうとオットーはニヤリと笑って見せた。「親衛隊長のアクーニナさんですよ」。
「彼女とは手紙のやり取りをしていたけど、今回の任務で一年ぶりに再会したぐらいだし、何もないよ」。
「一昨日、師とアクーニナさんが一緒に出掛けるのを見たと言っている者がおりますよ」。
なんだ、見られていたのか。
「彼女とは…」。私はどう答えたらいいかすぐには分からなかったので、ちょっと考えてから答える。「いい関係だよ」。
「そうなんですね」。
「オットー、君のほうはどうなんだ?」
オットーも以前、任務で知り合った女性と付き合っているようだったので、私は話題を変えたくて逆に尋ねた。
「私と彼女も“いい関係”です」。オットーは意を決したように言葉をつなげた。「近々、結婚を申し込もうと思っています」。
その彼女とは、もう三年近く付き合っているから不思議なことではなかったので、さほど驚かなかった。
「そうか、それは良かった」。
「師はどうなんですか?」
「結婚か? まだ、先の事は、わからないよ」。
ヴァーシャとは先日、深い関係になったばかりだが、立場が色々異なるからどうなるだろうか?
私とオットーはしばらく食事をしながら話をして、明日の模擬戦もあるので早々に別れた。
遊撃部隊は、今回、城ではあまり使われていない大部屋を臨時で与えられた。二百人の隊員たちは、そこに滞在している。昨日まで二日間休みとしていたが、本日から再開だ。
首都では現状、待機命令以外、何も任務が無かったので終日訓練とした。私も久しぶりに剣の指導に参加している。
第五旅団所属の傭兵部隊から、皇帝直属の遊撃部隊になって所属している人数も二百人から四百人へと倍になった。同じ隊長という肩書でも、明らかに立場が上がっていた。しかし、そうなると書類の確認や承認、報告書の作成など、ペーパーワークが増えるということ知った。
その結果、ズーデハーフェンシュタットでの訓練は副隊長であるオットーとプロブストの二人に任せることが多かったが、今は離れた首都アリーグラードにいる。ペーパーワークから解放されたというわけだ。
今日は城内の修練場を借りた。ここは以前、皇帝親衛隊の隊長であるヴァーシャと手合わせした場所だ。今回の遠征では四百人のうち半分しか首都には来ていないが、その全員で剣の修練をしている。
今日もオットーとプロブストの二人は良く隊員達を見ている。私も隊員達の修練の様子を見て回る。そして、時々、隊員達に剣の扱いについて助言をして歩いた。
先日もオットーと修練をしたかったが、この首都遠征の命令が出たせいで、それができなかったのが気になっていた。
私はオットーに声を掛けた。
「のびのびになっていたが、一緒に修練をどうだい?」
「ぜひお願いします!」
オットーは嬉しそうに答えた。
そして、部隊としての訓練は終わり、私とオットーは二人で修練をするために城内で場所を探した。
時間は夕刻遅くなっており、松明の灯りがある城壁の近くにあった少し広い場所を探しあて、修練を始めた。
オットーは私の弟子になり三年。力強い剣裁き、その腕前も磨きがかかり、動きに隙もほとんどない。とっくに危険な任務も任せられるようになっているし、副隊長としての仕事もそつなくこなし、頼もしい限りだ。もう、私が教えることは、あまりないかのもしれない。
二時間ほどの修練を終え、その後、オットーと一緒に食事を取ることにした。
もともと帝国軍兵士たちが使っている休憩所に行き、そこで干し肉をかじりながら、エールを飲む。しばらく談笑しているとオットーが話題を変えて来た。
「師、ところで、あの隊長とはどうなんです?」
「あの隊長とは?」
「しらばっくれないで下さい」。そういうとオットーはニヤリと笑って見せた。「親衛隊長のアクーニナさんですよ」。
「彼女とは手紙のやり取りをしていたけど、今回の任務で一年ぶりに再会したぐらいだし、何もないよ」。
「一昨日、師とアクーニナさんが一緒に出掛けるのを見たと言っている者がおりますよ」。
なんだ、見られていたのか。
「彼女とは…」。私はどう答えたらいいかすぐには分からなかったので、ちょっと考えてから答える。「いい関係だよ」。
「そうなんですね」。
「オットー、君のほうはどうなんだ?」
オットーも以前、任務で知り合った女性と付き合っているようだったので、私は話題を変えたくて逆に尋ねた。
「私と彼女も“いい関係”です」。オットーは意を決したように言葉をつなげた。「近々、結婚を申し込もうと思っています」。
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「そうか、それは良かった」。
「師はどうなんですか?」
「結婚か? まだ、先の事は、わからないよ」。
ヴァーシャとは先日、深い関係になったばかりだが、立場が色々異なるからどうなるだろうか?
私とオットーはしばらく食事をしながら話をして、明日の模擬戦もあるので早々に別れた。
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