色彩の大陸2~隠された策謀

谷島修一

文字の大きさ
上 下
17 / 75
謎めいた指令

ホルツの決断

しおりを挟む
 大陸歴1658年3月15日・旧国境ズードヴァイフェル川付近

 数本の松明の火が、洞窟の闇の中をわずかに照らしている。
 共和国軍の残党、ダニエル・ホルツとその仲間のここでの生活は、もう四年近くになる。ホルツだけでなく仲間のほとんどが脱落もせず、良くここまで耐えてきたと思う。この暗くじめじめとした洞窟の中で、絶望せずにここまでやってこられたのは、共和国の復興のための動きが、少しずつでも進展があったからだ。各都市に来るべき反乱のための同志作りも進んでいる。そして、ここに来て急激にその機会が訪れてきたと、ホルツは考えていた。旧共和国内の大都市に駐留している帝国軍の一部が移動し、守りが手薄になっているのだ。

 ホルツは、重要な話をすると言って、仲間のうちの主要な者を呼びつけていた。徐々に人が集まってくる。
 ホルツと仲間はアジトとしている洞窟の中で話し合っていた。
 最近、帝国軍によって、初めてアジトの一つが発見された。仲間は戦闘になる前に退避していたので、こちら側の犠牲者はなかったが、アジトにあった武器と食料は接収された。
 共和国軍の残党のアジトはこの付近にまだ八つある。武器や食料はそれぞれのアジトに分散して隠してあるため、痛手はさほどなかった。
 ホルツには、今は、その件よりもっと話したいことがあった。

 ホルツは、アジトの洞窟で仲間を見回しながら話を始めた。
「先日、クリーガーからの連絡があった通り、各地の旅団が移動しているようだ。先日、この近くを通る旅団を見た。この機会を逃すことはない。我々も旧共和国の都市に出向き、武装蜂起を指導したい」。
 仲間のうちの一人が口を開いた。
「どこの都市でやるのか?モルデンか?」
「いや、モルデンからの報告だと、帝国軍の数がいくら減っているとは言え、まだまだ多いようだ。ほかの大都市も似たような状況だろう。しかし、小さな地方都市だと、もともと帝国軍は少ないはずだ。もし、そこで何かが起こっても、兵力が減っている大都市からの援軍は望めないということだ」。
 ホルツは、仲間を見回し、そして地図を取り出して地面に広げて見せた。
 そして、はっきりとした口調で話を続けた。

「私が狙っているのは、共和国南部のヴァイテステンだ」。
 ホルツは地図を指さす。
「ここからヴァイテステンまでは、かなり距離はある。しかし、あそこには収容所があり、旧共和国軍の士官たちが三百五十人ほど収容されているという。その中には精鋭の“深蒼の騎士”だったものも十数名いる。ここを襲い、士官たちを解放すれば、こちらも勢いがつくだろう」。

 ヴァイテステンから北東に向かって四日でズーデハーフェンシュタットにたどり着けるが、そこのリーダーであるクリーガーが不在だ。残念だが、そこで合流する共和国派のあては無い。となれば、ヴァイテステンから北西に、五日で到達できるベルグブリッグに向かうのが現実的だろう。途中大きな街もなく、帝国軍はほとんどいないと考えてよいだろう。
「そのまま、ベルグブリッグまで北上する。途中の街や村で我々に合流する者もいるだろう。勢力を拡大しつつ、ベルグブリッグに駐留している帝国軍を攻撃する。ベルグブリッグは小さな街で、帝国軍の数は数百名と少ない。我々の仲間が五百人になっていれば、戦って勝てる可能性が高いだろう」。
 このアジトから、目的の収容所のあるヴァイテステンまで、帝国に見つからないように進むため、街道を使うことはできない。道なき道を進む必要がある。そうすると、二週間以上かかってしまうと予想できる。

 仲間の一人が疑問をぶつけた。
「ベルグブリッグは帝国との国境のそばだ、帝国から軍が侵攻してきた場合はどうする?」
「帝国からベルグブリッグに通じる道は山脈の中にあり、大軍が通るには時間がかかる。我々の手で狭い道を封鎖してしまえば、その場で立ち往生するしかない」。
 ホルツは、地図を指さしながら説明する。
「時間稼ぎをしつつ、各地の小さな街で武装蜂起を起こす。小さな街はすぐに我々の支配下になるだろう。もし、帝国軍がそれら鎮圧のためにモルデンやズーデハーフェンシュタットなどの都市部から離れれば、その時が都市部での武装蜂起の絶好の機会となる」。
 最後の期待を込めてホルツは言った。
「さらに、クリーガーが戻ってくれば流れは一気にこちら側に傾くだろう」。
 クリーガーは今、“帝国の英雄”などと呼ばれている。その英雄が裏切ったとすれば、帝国の衝撃は計り知れないだろう。

「それでは出撃する者を選出する。選出に漏れた者はここを守ってほしい」。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!

パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」 冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。 一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。 「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」 そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。 これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。 7/25男性向けHOTランキング1位

転生王子はダラけたい

朝比奈 和
ファンタジー
 大学生の俺、一ノ瀬陽翔(いちのせ はると)が転生したのは、小さな王国グレスハートの末っ子王子、フィル・グレスハートだった。  束縛だらけだった前世、今世では好きなペットをモフモフしながら、ダラけて自由に生きるんだ!  と思ったのだが……召喚獣に精霊に鉱石に魔獣に、この世界のことを知れば知るほどトラブル発生で悪目立ち!  ぐーたら生活したいのに、全然出来ないんだけどっ!  ダラけたいのにダラけられない、フィルの物語は始まったばかり! ※2016年11月。第1巻  2017年 4月。第2巻  2017年 9月。第3巻  2017年12月。第4巻  2018年 3月。第5巻  2018年 8月。第6巻  2018年12月。第7巻  2019年 5月。第8巻  2019年10月。第9巻  2020年 6月。第10巻  2020年12月。第11巻 出版しました。  PNもエリン改め、朝比奈 和(あさひな なごむ)となります。  投稿継続中です。よろしくお願いします!

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)

【完結済】ラーレの初恋

こゆき
恋愛
元気なアラサーだった私は、大好きな中世ヨーロッパ風乙女ゲームの世界に転生していた! 死因のせいで顔に大きな火傷跡のような痣があるけど、推しが愛してくれるから問題なし! けれど、待ちに待った誕生日のその日、なんだかみんなの様子がおかしくて──? 転生した少女、ラーレの初恋をめぐるストーリー。 他サイトにも掲載しております。

処理中です...