エレーヌを殺したのは誰だ?

谷島修一

文字の大きさ
上 下
36 / 38

第36話

しおりを挟む
 ラバール警部が鉄の板を床の上から拾い上げた。
 そして、それを手のひらの上にのせ、注意深く観察をする。その後、自分の手のひらの上の板をバルバストルの方に向けて言う。
「これは、アレオン家に暗殺者が空間転移魔術を使って侵入した時にあったものと同じ物のようですね」
「どうやら、そのようだな」
「ということは、ザーバーランドの外交団に例の魔術を使える者がいたといいうことでしょう。そして、その連中にマルセル様は拉致されてしまった」
「うむ。今回の動きは、街の外の軍と連携しているのだろう」
「ええ、そうでしょう。とすると、マルセル様はもう街の外の敵軍のところにいると考えるのが順当です」
「そうだな。救出策を考えたいところだが、ここには十分な兵士がいない。救出どころか逆に攻め込まれるかもしれん」
「援軍は?」
「当然、軍の本隊のいる駐屯地まで伝令が行っているだろうが、到着までには早くても丸三日はかかるだろう」
「そうですか…」
「ここの現場検証は、地元の警察当局に任せることにする。その証拠品は、そこの衛兵に渡しておいてくれ」
「わかりました」
 ラバールはそばに立っていた衛兵に事情を話して、鉄の板を手渡した。
 バルバストルが部屋を出て行こうとして、ラバールは声を掛けた。
「どちらへ?」
「街の入口だ。敵の様子を確認したい」
「我々もご一緒しても構いませんか?」
「構わん」
 ラバールとティエールはバルバストルの後に着いていき、建物の外に待たせてあった馬車に乗り込んだ。
 バルバルトルは乗り込む直前に御者に言う。
「城壁の門のところまで行ってくれ」
 馬車はゆっくりと動き出し城を後にした。
 馬車の中でラバールは尋ねた。
「今回の動きは国家保安局では予想していたんですか?」
「いや」
 バルバストルは不満そうに答える。
「局では終戦の交渉がまとまらない理由を分析中だった。現状を鑑みると、再度の攻撃のための時間稼ぎだったのだろう。それに、マルセル様の拉致は、予想外の事態だ」
「敵の軍がここまで来るのことは予想外?」
「ああ、予想外だ。敵軍がここまで移動していたという情報は一切入って来ていない」
「なるほど」
 国家保安局が予想できなったというのは少々奇妙な話だとラバールは感じた。
 確かに移動魔術は予測は難しいだろう。しかし、敵軍の動きの情報を全くつかめていないというのは、ちょっと間が抜けていないだろうか。
「ところで」
 バルバストルは話題を変える。
「あなたがたが、この街に来ているとは思ってもいなかった。アレオン家の件の捜査はどうなっている?」
「全然、進んでいません。ですので、マルセル様にも話を伺いたいと思っていたところだったんです」
「拉致されてしまっては、当面は話は聞けないな」
「どうやら、そのようですね」
 馬車は進み、ザーバーランド軍が迫る城壁の門のところまでやってくると、急に馬車が止まった。
 そして、何者かが馬車に向かって叫んだ。
「おい! 止まってくれ!」
 バルバストルたち聞いたことのあるその声に思わず、馬車の窓から外を見た。
 門に設置されている松明のおかげで、あたりはほのかに照らし出されていたので、すぐに声の主がだれかわかった。
「ジョアンヌ・マルロー…、それに、アレオン家のお嬢さんじゃあないですか!」
 ジョアンヌとエレーヌのほかに若い男性と初老の男性が側に立っていた。
 バスバストルは驚いて声を上げた。
「なぜこんなところに?」
「それは」
 馬車の中で、横からラバールが答える。
「彼女たちもマルセル様に会いに来たんですよ」
「そうなのか?」
「やあ、皆さん」
 ラバールは馬車の窓から、ジョアンヌたちに手を振った。
 バルバストルは馬車を降りてジョアンヌたちの前に立つと、ジョアンヌは言った。
「私たちも義勇兵として、ザーバーランドと戦いたい。それを、ここの司令官に言ってくれないか?」
「なに?」
 バルバストルは少し考えてから答えた。
「マルロー、君は元軍人だからいいだろうが、エレーヌ様は無理だろう? それに、そちらの男性2人はどういう?」
「私は、関係ないよ。彼女たちをここまで送っただけだ。戦いに参加するつもりはない」
 初老の男性は両手を上げてそういう。
「エレーヌ様なら大丈夫だ。今は剣の達人で私と変わらないぐらい戦える」
「それは本当か?」
 エレーヌの中には別の老人の魂が居るということは知っている。その魂のせいで剣の達人になったということなのか? 暗殺者を撃退した前例もあるが、バルバストルはジョアンヌの言葉に疑念を抱く。
「私も参加するんですか?」
 若い男性がジョアンヌに尋ねた。
 ジョアンヌはその質問を無視するように、彼をバルバストルに紹介した。
「こちらは、治療師のシャルル・トリベール、彼も義勇兵として参加する」
「えええ?」
 それを聞いて、トリベールと呼ばれる男は驚いて声を上げた。
 バルバストルはさらに少し考えてから答える。
「わかった、いいだろう。司令官に相談してみるので、ここで少し待っていてくれ」
 バルバストルはそう言って再び馬車に戻ると、御者に前に進むように指示した。
 ジョアンヌたちは取りでの門へ進む馬車を見送った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

祖母の家の倉庫が異世界に通じているので異世界間貿易を行うことにしました。

rijisei
ファンタジー
偶然祖母の倉庫の奥に異世界へと通じるドアを見つけてしまった、祖母は他界しており、詳しい事情を教えてくれる人は居ない、自分の目と足で調べていくしかない、中々信じられない機会を無駄にしない為に異世界と現代を行き来奔走しながら、お互いの世界で必要なものを融通し合い、貿易生活をしていく、ご都合主義は当たり前、後付け設定も当たり前、よくある設定ではありますが、軽いです、更新はなるべく頑張ります。1話短めです、2000文字程度にしております、誤字は多めで初投稿で読みにくい部分も多々あるかと思いますがご容赦ください、更新は1日1話はします、多ければ5話ぐらいさくさくとしていきます、そんな興味をそそるようなタイトルを付けてはいないので期待せずに読んでいただけたらと思います、暗い話はないです、時間の無駄になってしまったらご勘弁を

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...