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暁を覚えない春眠編
コンコーネ
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放課後。
僕と毛利さんは、小梁川さんとの約束通り音楽教室の前に向かう。
音楽教室の前では小梁川さんだけでなく新聞部の片倉部長の他、新聞部部員が数名やって来ていた。
「おつかれさん」
片倉部長は僕と毛利さんの姿を見つけると、右手を挙げて挨拶をして来た。
「どうも」
僕は挨拶を返す。
「コーラス部とは、予想外だったね」
片倉部長は軽くため息をついて言った。
「全くです」
「コーラス部の部員も集まっているようだから、中に入ろう」
片倉部長の合図と共に、僕らは音楽教室に入って行った。
中では、コーラス部の部員20名ほどが待っていた。それぞれ、雑談をして過ごしている。
コーラス部は、見たところ女子生徒のほうが多いみたいだな。
男子生徒は数名だ。
コーラス部の女子生徒の1人が話しかけて来た。
「片倉君、来てくれてありがとう」
女子としては少し背が高め、ショートカットで、神経質そうな感じの人が歩み寄って来た。
「やあ、井伊さん」
片倉部長は挨拶をする。そして、僕と毛利さんに彼女を紹介してくれる。
「紹介するよ、こちらはコーラス部部長の井伊さん」
「ど、どうも、はじめまして」
「こんにちは」
僕と毛利さんは挨拶をした。
そして、僕らのことも井伊部長に紹介してくれる。
「こちらは、一緒に謎を解明してくれている、歴史研の武田君と毛利さんだよ」
「歴史研?」
井伊部長は不思議そうにして僕らを見た。
「どうして、歴史研の人たちが謎の解明を?」
「もともと、武田君がこの謎の解明を始めたんだよ。新聞部のほうがその手伝いをしている感じだね」
「そうなの」
「うん。早速だけど、盗まれた物について教えてくてくれないかな?」
片倉部長が切り出すと、井伊部長は教室の後ろのほうを指さす。
「あそこの本棚から、1冊盗られたのよ」
音楽教室の後ろの方に、小さな本棚があるのが目に入った。
どうやら、楽譜が並んでいるらしい。
僕らは、井伊さんの後をついて本棚の方に近づいた。
「ここに、この手紙が挟んであったのよ」
並んでいる楽譜を指さすと、井伊さんはポケットから手紙を取り出して、片倉部長に手渡した。
それは、2つ折の小さな紙。
片倉部長はそれを受け取ると、広げて中を読み上げる。
◇◇◇
コーラス部からは、コンコーネをいただいた。
次は、ブラックデー。
お楽しみに。
Р
◇◇◇
僕は手紙を横から覗き込む。
そして、質問をする。
「“コンコーネ”ってなんですか?」
「“コンコーネ”は、コーラスの基礎をマスターするための教本よ」
井伊部長は答える。
「それは、“王冠”って意味はありますか?」
「王冠? いいえ。コンコーネって元々はイタリアの作曲家の名前よ。どうして?」
「いえ。以前、届いた怪文書に“CROWN”というキーワードがあったので」
「たぶん、関係ないわね」
「楽譜が盗られて、困るのでは?」
「まあ、そんなに貴重な物ではないし、今の時期はさほど使ってないから、あまり困らないけど」
「そうなんですね…。ところで、“ブラックデー”ってなんですかね?」
僕のこの質問には、井伊部長が答えた。
「“ブラックデー”って、2月14日のバレンタインデー、3月14日のホワイトデーに相手がいなくて寂しい人たちが、4月14日にジャージャー麵を食べる習慣があって、それをブラックデーっていうのよ。主に韓国の習慣なのよ」
「ジャージャー麺? それに、どうして、ブラック?」
「ジャージャー麺が黒っぽい食べ物だから」
「イカ墨パスタみたいなもん?」
「イカ墨とはだいぶ違うけど。美味しいわよ」
「えっ? 食べたことあるんですか?」
「うん、大久保あたりの韓国料理店で食べられるところがあるの」
ということは、井伊部長は相手がいなくて4月14日にジャージャー麺を食べたこがあるってことなのかな?
ここは突っ込むと紛糾しそうだから、黙っておく。
「そうそう、井伊さんが韓国に詳しいのは、韓国好きだからだよ」
片倉部長が解説してくれた。
「語学研にも兼部してるしね」
「へー。そうなんですね」
うちの学校は、兼部しているひとが本当に多いな。
そして、一度、ジャージャー麺を食べてみたくなったな。
「話を戻すけど」
片倉部長は尋ねる。
「その楽譜を盗まれたのは、3月14日だよね? その日に怪しい人物を見たということはないかい?」
「いいえ。部活で放課後にやってきたら本棚の手紙に部員が気づいたのよ」
「じゃあ、放課後になるまでに、盗られていたってことだね。日中は、授業でこの教室を使うから、音楽の授業を選択している者が怪しいってことになる」
「音楽を選択している者は生徒の3分の1ですよ」
僕が突っ込む。
そうなのだ、選択授業は音楽、美術、書道の3つで、学年の初めにそれぞれの生徒が希望を出して、振り分けられる。
人気がある授業は抽選になって、それに外れた者は別の選択授業を取ることになっている。
「そうだけど、全然、手がかりがなかったのに、3分の1に絞られたのは収穫だよ」
「そうですかね…?」
「この手紙を借りて良いかな?」
片倉部長は、井伊部長に尋ねた。
「構わないわ」
井伊部長は、片手をあげて“どうぞ”という仕草をした。
「コンコンネが返ってくると良いですね」
僕は慰めるように言う。
「コンコーネよ。“コンコン”って、狐じゃあないんだから」
井伊部長は僕の発言に失笑して言う。
そして、改めて挨拶をすると僕らは音楽教室を後にした。
僕と毛利さんは、小梁川さんとの約束通り音楽教室の前に向かう。
音楽教室の前では小梁川さんだけでなく新聞部の片倉部長の他、新聞部部員が数名やって来ていた。
「おつかれさん」
片倉部長は僕と毛利さんの姿を見つけると、右手を挙げて挨拶をして来た。
「どうも」
僕は挨拶を返す。
「コーラス部とは、予想外だったね」
片倉部長は軽くため息をついて言った。
「全くです」
「コーラス部の部員も集まっているようだから、中に入ろう」
片倉部長の合図と共に、僕らは音楽教室に入って行った。
中では、コーラス部の部員20名ほどが待っていた。それぞれ、雑談をして過ごしている。
コーラス部は、見たところ女子生徒のほうが多いみたいだな。
男子生徒は数名だ。
コーラス部の女子生徒の1人が話しかけて来た。
「片倉君、来てくれてありがとう」
女子としては少し背が高め、ショートカットで、神経質そうな感じの人が歩み寄って来た。
「やあ、井伊さん」
片倉部長は挨拶をする。そして、僕と毛利さんに彼女を紹介してくれる。
「紹介するよ、こちらはコーラス部部長の井伊さん」
「ど、どうも、はじめまして」
「こんにちは」
僕と毛利さんは挨拶をした。
そして、僕らのことも井伊部長に紹介してくれる。
「こちらは、一緒に謎を解明してくれている、歴史研の武田君と毛利さんだよ」
「歴史研?」
井伊部長は不思議そうにして僕らを見た。
「どうして、歴史研の人たちが謎の解明を?」
「もともと、武田君がこの謎の解明を始めたんだよ。新聞部のほうがその手伝いをしている感じだね」
「そうなの」
「うん。早速だけど、盗まれた物について教えてくてくれないかな?」
片倉部長が切り出すと、井伊部長は教室の後ろのほうを指さす。
「あそこの本棚から、1冊盗られたのよ」
音楽教室の後ろの方に、小さな本棚があるのが目に入った。
どうやら、楽譜が並んでいるらしい。
僕らは、井伊さんの後をついて本棚の方に近づいた。
「ここに、この手紙が挟んであったのよ」
並んでいる楽譜を指さすと、井伊さんはポケットから手紙を取り出して、片倉部長に手渡した。
それは、2つ折の小さな紙。
片倉部長はそれを受け取ると、広げて中を読み上げる。
◇◇◇
コーラス部からは、コンコーネをいただいた。
次は、ブラックデー。
お楽しみに。
Р
◇◇◇
僕は手紙を横から覗き込む。
そして、質問をする。
「“コンコーネ”ってなんですか?」
「“コンコーネ”は、コーラスの基礎をマスターするための教本よ」
井伊部長は答える。
「それは、“王冠”って意味はありますか?」
「王冠? いいえ。コンコーネって元々はイタリアの作曲家の名前よ。どうして?」
「いえ。以前、届いた怪文書に“CROWN”というキーワードがあったので」
「たぶん、関係ないわね」
「楽譜が盗られて、困るのでは?」
「まあ、そんなに貴重な物ではないし、今の時期はさほど使ってないから、あまり困らないけど」
「そうなんですね…。ところで、“ブラックデー”ってなんですかね?」
僕のこの質問には、井伊部長が答えた。
「“ブラックデー”って、2月14日のバレンタインデー、3月14日のホワイトデーに相手がいなくて寂しい人たちが、4月14日にジャージャー麵を食べる習慣があって、それをブラックデーっていうのよ。主に韓国の習慣なのよ」
「ジャージャー麺? それに、どうして、ブラック?」
「ジャージャー麺が黒っぽい食べ物だから」
「イカ墨パスタみたいなもん?」
「イカ墨とはだいぶ違うけど。美味しいわよ」
「えっ? 食べたことあるんですか?」
「うん、大久保あたりの韓国料理店で食べられるところがあるの」
ということは、井伊部長は相手がいなくて4月14日にジャージャー麺を食べたこがあるってことなのかな?
ここは突っ込むと紛糾しそうだから、黙っておく。
「そうそう、井伊さんが韓国に詳しいのは、韓国好きだからだよ」
片倉部長が解説してくれた。
「語学研にも兼部してるしね」
「へー。そうなんですね」
うちの学校は、兼部しているひとが本当に多いな。
そして、一度、ジャージャー麺を食べてみたくなったな。
「話を戻すけど」
片倉部長は尋ねる。
「その楽譜を盗まれたのは、3月14日だよね? その日に怪しい人物を見たということはないかい?」
「いいえ。部活で放課後にやってきたら本棚の手紙に部員が気づいたのよ」
「じゃあ、放課後になるまでに、盗られていたってことだね。日中は、授業でこの教室を使うから、音楽の授業を選択している者が怪しいってことになる」
「音楽を選択している者は生徒の3分の1ですよ」
僕が突っ込む。
そうなのだ、選択授業は音楽、美術、書道の3つで、学年の初めにそれぞれの生徒が希望を出して、振り分けられる。
人気がある授業は抽選になって、それに外れた者は別の選択授業を取ることになっている。
「そうだけど、全然、手がかりがなかったのに、3分の1に絞られたのは収穫だよ」
「そうですかね…?」
「この手紙を借りて良いかな?」
片倉部長は、井伊部長に尋ねた。
「構わないわ」
井伊部長は、片手をあげて“どうぞ”という仕草をした。
「コンコンネが返ってくると良いですね」
僕は慰めるように言う。
「コンコーネよ。“コンコン”って、狐じゃあないんだから」
井伊部長は僕の発言に失笑して言う。
そして、改めて挨拶をすると僕らは音楽教室を後にした。
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