雑司ヶ谷高校 歴史研究部!!

谷島修一

文字の大きさ
上 下
208 / 433
逡巡する初冬編

裏金

しおりを挟む
 水曜日。
 生徒会役員が生徒会室に集合した。
 織田さんも今日は演劇部の練習が無いとのことで来ている。
 役員全員集合だ。

 今日は、生徒会の仕事についての確認である。ほとんどが雑務、かつ僕には関係の無い話なので適当に聞き流していた。
 話し合いも終盤、生徒会長の伊達先輩が神妙な表情で話し出した。
「最後に将棋部の対応の件で話をしたいと思います。考えたんだけど、将棋部を懐柔するために、ガリガリ君の領収書を経費として認めようと思うの。だけど、監査は終了し学校への報告が終わっているから、裏金で補填します」

 裏金?!
 僕は驚いた。
 生徒会はそんなのがあるのか?!

「裏金と言っても、“占いメイドカフェ”の売り上げから捻出しました。生徒会役員は“占いメイドカフェ”の関係者が全員居るから話し合って決めたわ。カフェでは、それなりに利益もあったし。この件を処理することによって、抵抗勢力から将棋部が離れて、生徒会に対する妨害がやりにくくなると考えます」
 そして、一息ついて確認する。
「裏金での補填は、異議はないですか?」
 伊達先輩は皆を見回す。特に異論はないようだ。
 僕も異論は無い。正直、どうでもいい。

「それで…」
 伊達先輩は急に僕の方を向いた。
「武田君」

「はい?!」
 突然のご指名で驚いた。

「あなたがお金を持って将棋部に行き、部長に渡してきてほしいのよ」

「どうして、僕が…?」
 突然の依頼で困惑する。

 伊達先輩は少し微笑んで言う。
「筋書きとしてはこうよ。『新しく役員に就いた武田君が頑張って他の生徒会役員を説得し、ガリガリ君の経費を認めさせた。そして、お金を持って訪れた』と」

「はあ…」

「やってくれるわね? 男子に人気の高い武田君がやるから意味のある策なのよ。“男子の味方”としての役員が生徒会に居るということになれば、生徒会に対する反発も少なくなると思うのよ」

「それだけで、反発が減りますか?」

「これに関しても後で、新聞部の協力を得て、有ること無いこと情報を発信してもらうから、雲行きは変わる可能性があるわね。あくまで”可能性”だけど」

「“可能性”ですか…」
 そして、有ること無いこと発信って…。無いことはダメだろ。

「やらないより、やった方が良いということよ」

「はあ…」

「手伝ってくれるわね?」

「まあ、そう言うことなら、いいですけど…」

「あくまで、武田君が頑張って私たちを説得したという体で、将棋部で上手く話してね」

 横から雪乃が話しかけてきた。
「そういうことなら、純也の演技力でいけるんじゃない?」

「演技力?」

「そう、純也、演技が上手いから。舞台に立ってると思って話せば?」

 僕は演技が上手いのか?

 そこに松前先輩が茶々を入れる。
「そうね、白雪姫を篭絡した時みたいに」

「篭絡? いやいや、あの時は雪乃の方が…」
 ニヤニヤしている松前先輩をみてそれ以上言わなかった。
 分かってて冗談を言っているのだな、多分。

 僕は伊達先輩に向き直って尋ねた。
「ちなみにガリガリ君の領収書って、いくらだったんですか?」

「836円よ」

「それぐらいの金額で、揉めてたんですか?」

「生徒会の監査は、小さな金額でも認められないものは認められないのよ。それに、ガリガリ君って将棋の活動とは全く関係ないでしょ」

 まあ、その通り。
 しかし、836円で逆恨みとか、将棋部の部長は人間が小さいな。
 そして、836円を持って行っただけで、将棋部を懐柔できるのだろうか…?
 まあ、やってみるしかないか。

「それで、いつ決行しますか?」
 僕は尋ねた。

「武田君の都合で良いけど、出来るだけ早い方が良いわね」

「じゃあ、これからでもいいですか?」
 面倒なことは、さっさと終わらせたい。

「いいわ」
 伊達先輩はそう言うと、茶封筒を渡してきた。
 小銭がジャラジャラと入っている音がする。
「これ836円ね。じゃあ、上手くやって来て。私たちはここで待ってるから」

「わかりました」
 僕は茶封筒を受け取ると、立ち上がり生徒会を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【声劇台本】恋愛実況中継

茶屋
ライト文芸
街角で見かける男女の恋愛を実況と解説でお送りする。 実況が花形となる台本になっていると思います。 是非、使っていただけたら嬉しいです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

如月さんは なびかない。~クラスで一番の美少女に、何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

処理中です...