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逡巡する初冬編
裏金
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水曜日。
生徒会役員が生徒会室に集合した。
織田さんも今日は演劇部の練習が無いとのことで来ている。
役員全員集合だ。
今日は、生徒会の仕事についての確認である。ほとんどが雑務、かつ僕には関係の無い話なので適当に聞き流していた。
話し合いも終盤、生徒会長の伊達先輩が神妙な表情で話し出した。
「最後に将棋部の対応の件で話をしたいと思います。考えたんだけど、将棋部を懐柔するために、ガリガリ君の領収書を経費として認めようと思うの。だけど、監査は終了し学校への報告が終わっているから、裏金で補填します」
裏金?!
僕は驚いた。
生徒会はそんなのがあるのか?!
「裏金と言っても、“占いメイドカフェ”の売り上げから捻出しました。生徒会役員は“占いメイドカフェ”の関係者が全員居るから話し合って決めたわ。カフェでは、それなりに利益もあったし。この件を処理することによって、抵抗勢力から将棋部が離れて、生徒会に対する妨害がやりにくくなると考えます」
そして、一息ついて確認する。
「裏金での補填は、異議はないですか?」
伊達先輩は皆を見回す。特に異論はないようだ。
僕も異論は無い。正直、どうでもいい。
「それで…」
伊達先輩は急に僕の方を向いた。
「武田君」
「はい?!」
突然のご指名で驚いた。
「あなたがお金を持って将棋部に行き、部長に渡してきてほしいのよ」
「どうして、僕が…?」
突然の依頼で困惑する。
伊達先輩は少し微笑んで言う。
「筋書きとしてはこうよ。『新しく役員に就いた武田君が頑張って他の生徒会役員を説得し、ガリガリ君の経費を認めさせた。そして、お金を持って訪れた』と」
「はあ…」
「やってくれるわね? 男子に人気の高い武田君がやるから意味のある策なのよ。“男子の味方”としての役員が生徒会に居るということになれば、生徒会に対する反発も少なくなると思うのよ」
「それだけで、反発が減りますか?」
「これに関しても後で、新聞部の協力を得て、有ること無いこと情報を発信してもらうから、雲行きは変わる可能性があるわね。あくまで”可能性”だけど」
「“可能性”ですか…」
そして、有ること無いこと発信って…。無いことはダメだろ。
「やらないより、やった方が良いということよ」
「はあ…」
「手伝ってくれるわね?」
「まあ、そう言うことなら、いいですけど…」
「あくまで、武田君が頑張って私たちを説得したという体で、将棋部で上手く話してね」
横から雪乃が話しかけてきた。
「そういうことなら、純也の演技力でいけるんじゃない?」
「演技力?」
「そう、純也、演技が上手いから。舞台に立ってると思って話せば?」
僕は演技が上手いのか?
そこに松前先輩が茶々を入れる。
「そうね、白雪姫を篭絡した時みたいに」
「篭絡? いやいや、あの時は雪乃の方が…」
ニヤニヤしている松前先輩をみてそれ以上言わなかった。
分かってて冗談を言っているのだな、多分。
僕は伊達先輩に向き直って尋ねた。
「ちなみにガリガリ君の領収書って、いくらだったんですか?」
「836円よ」
「それぐらいの金額で、揉めてたんですか?」
「生徒会の監査は、小さな金額でも認められないものは認められないのよ。それに、ガリガリ君って将棋の活動とは全く関係ないでしょ」
まあ、その通り。
しかし、836円で逆恨みとか、将棋部の部長は人間が小さいな。
そして、836円を持って行っただけで、将棋部を懐柔できるのだろうか…?
まあ、やってみるしかないか。
「それで、いつ決行しますか?」
僕は尋ねた。
「武田君の都合で良いけど、出来るだけ早い方が良いわね」
「じゃあ、これからでもいいですか?」
面倒なことは、さっさと終わらせたい。
「いいわ」
伊達先輩はそう言うと、茶封筒を渡してきた。
小銭がジャラジャラと入っている音がする。
「これ836円ね。じゃあ、上手くやって来て。私たちはここで待ってるから」
「わかりました」
僕は茶封筒を受け取ると、立ち上がり生徒会を後にした。
生徒会役員が生徒会室に集合した。
織田さんも今日は演劇部の練習が無いとのことで来ている。
役員全員集合だ。
今日は、生徒会の仕事についての確認である。ほとんどが雑務、かつ僕には関係の無い話なので適当に聞き流していた。
話し合いも終盤、生徒会長の伊達先輩が神妙な表情で話し出した。
「最後に将棋部の対応の件で話をしたいと思います。考えたんだけど、将棋部を懐柔するために、ガリガリ君の領収書を経費として認めようと思うの。だけど、監査は終了し学校への報告が終わっているから、裏金で補填します」
裏金?!
僕は驚いた。
生徒会はそんなのがあるのか?!
「裏金と言っても、“占いメイドカフェ”の売り上げから捻出しました。生徒会役員は“占いメイドカフェ”の関係者が全員居るから話し合って決めたわ。カフェでは、それなりに利益もあったし。この件を処理することによって、抵抗勢力から将棋部が離れて、生徒会に対する妨害がやりにくくなると考えます」
そして、一息ついて確認する。
「裏金での補填は、異議はないですか?」
伊達先輩は皆を見回す。特に異論はないようだ。
僕も異論は無い。正直、どうでもいい。
「それで…」
伊達先輩は急に僕の方を向いた。
「武田君」
「はい?!」
突然のご指名で驚いた。
「あなたがお金を持って将棋部に行き、部長に渡してきてほしいのよ」
「どうして、僕が…?」
突然の依頼で困惑する。
伊達先輩は少し微笑んで言う。
「筋書きとしてはこうよ。『新しく役員に就いた武田君が頑張って他の生徒会役員を説得し、ガリガリ君の経費を認めさせた。そして、お金を持って訪れた』と」
「はあ…」
「やってくれるわね? 男子に人気の高い武田君がやるから意味のある策なのよ。“男子の味方”としての役員が生徒会に居るということになれば、生徒会に対する反発も少なくなると思うのよ」
「それだけで、反発が減りますか?」
「これに関しても後で、新聞部の協力を得て、有ること無いこと情報を発信してもらうから、雲行きは変わる可能性があるわね。あくまで”可能性”だけど」
「“可能性”ですか…」
そして、有ること無いこと発信って…。無いことはダメだろ。
「やらないより、やった方が良いということよ」
「はあ…」
「手伝ってくれるわね?」
「まあ、そう言うことなら、いいですけど…」
「あくまで、武田君が頑張って私たちを説得したという体で、将棋部で上手く話してね」
横から雪乃が話しかけてきた。
「そういうことなら、純也の演技力でいけるんじゃない?」
「演技力?」
「そう、純也、演技が上手いから。舞台に立ってると思って話せば?」
僕は演技が上手いのか?
そこに松前先輩が茶々を入れる。
「そうね、白雪姫を篭絡した時みたいに」
「篭絡? いやいや、あの時は雪乃の方が…」
ニヤニヤしている松前先輩をみてそれ以上言わなかった。
分かってて冗談を言っているのだな、多分。
僕は伊達先輩に向き直って尋ねた。
「ちなみにガリガリ君の領収書って、いくらだったんですか?」
「836円よ」
「それぐらいの金額で、揉めてたんですか?」
「生徒会の監査は、小さな金額でも認められないものは認められないのよ。それに、ガリガリ君って将棋の活動とは全く関係ないでしょ」
まあ、その通り。
しかし、836円で逆恨みとか、将棋部の部長は人間が小さいな。
そして、836円を持って行っただけで、将棋部を懐柔できるのだろうか…?
まあ、やってみるしかないか。
「それで、いつ決行しますか?」
僕は尋ねた。
「武田君の都合で良いけど、出来るだけ早い方が良いわね」
「じゃあ、これからでもいいですか?」
面倒なことは、さっさと終わらせたい。
「いいわ」
伊達先輩はそう言うと、茶封筒を渡してきた。
小銭がジャラジャラと入っている音がする。
「これ836円ね。じゃあ、上手くやって来て。私たちはここで待ってるから」
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僕は茶封筒を受け取ると、立ち上がり生徒会を後にした。
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