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逡巡する初冬編

なんでここに先輩が!?

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 毛利さんと別れて自宅に戻る。
 玄関で靴を脱いでいると、奥から何やら話し声が聞こえる。
 ん? この声は…。

 僕は奥へ進みダイニングを見た。
 そこには、妹と伊達先輩が居た。
 ダイニングテーブルを挟んで対面に座って話をしている。

「お兄ちゃん、お帰り~」
 妹は僕の姿を見ると声を掛けて来る。

「お帰りなさい」
 伊達先輩も挨拶をしてきた。

「あれ? なんで、伊達先輩がいるんですか?」

「美咲さんの勉強を見てほしいって言ったの、武田君でしょ? 今日からよ」

「そ、そうでした」
 妹の勉強を見ろと、僕が副会長に就任する時の交換条件にしたんだった。

「お兄ちゃん、自分でお願いして、忘れてやんのー」
 妹は笑う。
「今日は、伊達さん、晩ごはん食べて行ってもらうの」

 奥の台所で母親が晩ごはんの用意をしているようだ。
 父親は居間のソファで雑誌を読んでいる。

「そうですか」
 僕はそう言っていったん自分の部屋に行き、勉強道具を置いて再びダイニングに戻った。
 そして、妹の隣の椅子に座った。

「お兄ちゃん、今日はどこ行ってきたの? デート?」

「いや、図書館で勉強してきたんだよ」
 妹に“浮気だ”と言われそうでもあるし、伊達先輩の手前、毛利さんと会っていたと言うのは言わない方が良いだろう。
 いや、毛利さんは、付き合っている伊達先輩に今日のことを報告するのであろうか…?

「図書館に行くなんて珍しいね」
 妹が突っ込んできた。

「あ、ああ…。たまには気分転換で場所を変えようと思ってね」

「ふーん…。なんか、怪しいなあ」

 妹、鋭いな。
「怪しいってなんだよ。1人で勉強してただけだぞ」
 何とか誤魔化さないと。
「おまえのほうこそ、ちゃんと勉強できてるのか?」

「やってるよー!」

「美咲さんは、とても物覚えがいいわよ」
 伊達先輩が割り込んできた。
「雑司ヶ谷高校なら楽勝で受かりそうね。受かったら歴史研に入るんでしょ?」

「はい。雑司ヶ谷高校に行って、歴史研究部に入部します!」

 妹、青田買いされてるよ。

 妹は来年は受験の年だからな。
 まあ、雑司ヶ谷高校は進学校とは名ばかりで、平凡な学校だ。
 僕でも入れたんだから、妹も何とかなりそうだ。
 そして、妹が歴史研に入ったとしても、その時は僕は3年生で部活は引退しているから、接点はあまりないだろう。多分。

 夕食が出来て、母親によって食事がダイニングテーブルに並べられた。
 父親もやって来て、5人で話をしながら夕食を取る。
 話の中で、父親の提案があり、美咲の勉強をタダで見てもらうのは申し訳ない、ということで家庭教師代を払うことになった。
 伊達先輩からは当面は、格安で家庭教師をやると申し出て、交渉がまとまった。

 1時間と少しで食事を終えると、伊達先輩は帰宅していった。
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