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眩暈する秋涼編

かげきなしょうじょ!!

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 金曜日。放課後。
 今日は図書館で勉強でもしようと考えていた。
 席から立ち上がろうとすると、そこへ、織田さんが話しかけてきた。

「ねえ、武田君。この後、時間ある?」

「あるけど、何?」

「台本読みに付き合ってほしいんだよね」

「台本? それって、演劇部の人たちとやればいいのでは?」

「今週までは演劇部は休みだって言ったでしょ?」

 それでも、個人的にお願いできる部員は居るのでは? と思った。
「僕なんかより、演技が上手い人がいると思うけど?」

「演劇部以外で私が演技を知っているのは白雪姫の舞台に立った人だけ。その中で武田君が一番良かったわ」

「ほんとに?」

「ほんとに」

 まあ、試験も当面は無いから、わざわざ図書室で勉強をしなくても別に良いかなと、考え直して付き合うことにした。
「わかったよ。どこでやるの?」

「演劇部で使っている空き教室。あそこだと誰にも邪魔されないよ」

「了解」
 僕は立ち上がる。
「じゃあ、毛利さん、また来週」
 毛利さんに挨拶だけして、織田さんの後について行った。

 空き教室。
 少子化で、生徒数が減って、恒常的に使われることの無くなった教室が幾つかある。そこは、放課後、部活で利用されているのみだ。
 演劇部もその1つを使っていた。
 机などは数個を残して撤去されているので広々としている。
 今月は演劇部自体の活動は無いので、ここに誰も来ないらしい。

 教室には椅子も数個だけあった。
 僕と織田さんはその椅子を教室の真ん中あたりまで持ってきて座る。
 そして、織田さんはあらかじめ用意していたセリフが印刷され折りたたまれたA4の紙を数枚、カバンから取り出して手渡してきた。

「そういえば」
 僕は思い出して尋ねた。
「生徒会の監査は終わったの?」

「うん、昨日で終わった」

「そうか」
 僕は受け取ったセリフの書いた紙を指して、追加で尋ねた。
「これは、何の劇なの?」

「練習用のオリジナルの劇よ。昔、演劇部の誰かが作ったみたい」

「ふーん」
 僕は紙をめくって中を確認する。
 最後まで読み終わるのを待たずに織田さんは声を掛けてきた。
「台本、見ながらでいいから、“ユーリ”の役をお願い。私は、“ヴァーシャ”の役ね」

「OK」

 劇の内容は恋人同士の会話のようだ。
 ちょっと甘い感じ。やってて恥ずかしくなってきた。

「ねえ。照れないで」
 織田さんにダメ出しされた。

「いや、さすがにこれは…」
 僕は苦笑する。

「頑張って」

 僕は、なんとかセリフを読み進む。
 織田さんは、やはり演技は上手い。

 さらに、しばらくセリフのやり取りがあるが、織田さんの指示で途中で中断した。
「武田君。なかなか、いいじゃん。演劇部入ったら?」

「それは無理」
 ちゃんと断っとかないと、無限に引き込まれる。

「立ってやってみよう」
 織田さんの指示で立ち上がり、向かい合ってセリフを読む。
 そして、恥ずかしいセリフを何とかこなし、台本の最後の紙までやって来た。
 内容は、甘い感じがさらに盛り上がってきている。
 僕は目線を先走って、紙の最後のほうへ目をやる。
 場面が変わるが…、ん? ちょっと待って、これってプロポーズするやん?!
 その後、キス?!
 僕は動揺する。

 織田さんは構わずセリフを続けるので、僕も付き合う。

 ◇◇◇
 ヴァーシャ『どうしたの? こんなところに呼び出して。最近、ここに良く来ているみたいだけど?』

 ユーリ『ここは考え事をするのには、ちょうどいいんだ。あまり誰も来ないしね』

 ヴァーシャ『それで、何の用?』

 ユーリ『ちょっと話したいことがあってね』

 ヴァーシャ『何かしら?』

 ユーリは跪く。

 ユーリ『ヴァーシャ、私と結婚してください』
 ◇◇◇

「ねえ、ここ跪いて」
 織田さんが指示を出す。

「え?」

「プロポーズの時はそうするの!」

「お、おう…」
 僕は、言われたとおりに跪いてセリフを続ける。

 ◇◇◇
 ユーリ『ヴァーシャ、私と結婚してください』

 ユーリは指輪を差し出す。

 ヴァーシャ『いいわよ』

 ユーリは立ち上がり、指輪をヴァーシャの指にはめる。
 
 ヴァーシャはユーリの顔を見つめ、そして、微笑む。

 ユーリはヴァーシャに近づいて両手で強く抱きしめる。

 そしてキス。

(完)
 ◇◇◇

「ちょ、ちょ、ちょっと待って、キスはしなくていいでしょ?」
 僕は動揺しまくりで織田さんに言う。

「ダメ。キスまでやらないと練習にならないでしょ?」

「いやいやいやいや…」
 と、僕が言う間もなく、織田さんは僕にキスしてきた。

「ちょ、ちょっと!」
 “白雪姫”の舞台に続き、また織田さんに唇を奪われた。
 僕は織田さんを押し戻そうとするが、彼女の腕がしっかりと僕の首に回されていて、できなかった。

 織田さんは、さらにキスを続ける。
 僕も抵抗を止めて、しばらく彼女と抱き合ったままとなった。
 そして、約30秒後、僕らは身体を離した。

「いいんじゃない?」
 織田さんはそう言って微笑んだ。

「…………。そ、そう?」
 僕は、最初、何と答えていいか分からず、結局これだけ何とか口にした。
 恥ずかしくて、織田さんと目を合わせられない。

 それでも織田さんは、僕のほうを向いたまま話す。
「今日は、演技の練習というのは嘘で、本当は武田君とキスしたかったから」

 途中から、そうじゃないかと思った。
 しかし、基本的な疑問が浮かぶ。
「なんで僕と?」

「それは、明日、教える」
 織田さんは、また微笑む。

「え? 明日?」

 僕が驚く顔を見て、織田さんは怪訝そうに尋ねる。

「明日のデート、忘れてない?」

「あ、ああ…、覚えてるよ」
 そう言えば、僕がどこに行くか考えなければいけなかったんだった。
「とりあえず、午前11時にいけふくろう前に集合で」
 僕は咄嗟そう言った。
 後は、家で考えよう。

 僕らは空き教室を後にして、帰宅することにした。

 校門を出るまで、織田さんは僕と腕を組んだまま歩く。織田さんは、本当に噂を気にしてないんだな。
 運動場にいる部活の生徒や帰宅途中の他の生徒の目線が少々気になるが、僕も噂なんてどうでもいいと思っているので、そのまま一緒に歩く。
 そして、僕らは校門に着くと、そこで別れた。

 織田さん、誰にでもああいう風に、キスするんだろうか?
 そもそも、もっと過激なことも経験済みなんだろうし。
 キスなんて、何てことないんだろう。多分。
 それにしても、演技とは言え“白雪姫”の舞台に続き2回もキスしてしまったなあ……。
 織田さんに対して恋愛感情が無いのに……。
 僕は複雑な思いをしながら、家に向かった。
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