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眩暈する秋涼編

オムライス再び

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 火曜日。
 今日の試験も、あっと言う間に終わった。
 昨日、織田さんに物理を教えたけど、ちゃんとできたんだろうか?
 まあ、いいや、と思いつつ、帰宅しようと立ち上がった。

 そこへ、また織田さんが声を掛けてきた。
「ねえ、武田君。明日の数学教えてよ」

「ええっ?! また?」

「今日も武田君ちで!」

「しょうがないな…」

「じゃあ、行こ」
 織田さんは、そう言って僕の腕をつかんだ。
 相変わらず強引だな。

「じゃあ、またね」
 僕は毛利さんに挨拶だけした。

 毛利さんは、こちらを見ずに「うん」とだけ返事した。

 僕と織田さんは教室を後にする。
 そういえば、お昼ごはん、どうしよう?
 昨日、妹にカップ麺のダメ出しをされたからな…。
 他になんかあるかな?

 そして、僕らは学校から徒歩5分の僕の家に到着した。
 今日も2人きりだが、僕と織田さんでは間違いは起こりそうにない。

 昼食を考えるため、冷蔵庫の中を物色する。
 卵、鶏肉、玉ねぎがあるな。
 炊飯器の蓋を開けて見るとカラだ。
 時間がかかるが、ご飯でも炊くとするか……?

「織田さん、お昼ごはんなんだけど、ご飯が炊くから、ちょっと待ってもらえれば、オムライス作るけど?」

「えっ? そっか、料理できるんだよね?」

「うん」
 オムライス限定だけど。
 占いメイドカフェの時に、散々作ったから、作り方は体が覚えてしまっている。

 そんなわけで、まず、僕はお米を研いで、炊飯器にセット。そして、待つ。

 僕は織田さんを今のソファに座らせ、TVでも見せて時間潰しをさせる。
 僕もソファ座って、しばらく一緒にTVを見る。
 普段、TVを観ないのだが、この時間はどこのチャンネルもワイドショーばかりだ。
 そして、僕はまったく興味ないのだが、織田さんはやっぱり芸能ニュースとか興味あるんだろうか?

 ご飯が炊けたので、台所へ向かう。

「手伝おうか?」
 織田さんも台所にやって来た。
 でも、ふたりで分担するほどの作業はないのだが……。

「じゃあ、卵でも溶いといて」
 とりあえず、僕は指示する。
 織田さんは、ボウルに卵を割って菜箸でかき混ぜ始める。

 僕は手際よく、鶏肉と玉ねぎをカットし、炒める。
 さらに、ご飯を投入、ケチャップを入れてかき混ぜ、炒める。

「こうしてると」
 延々と卵をかき混ぜている織田さんが唐突に言う。
「新婚夫婦みたいだね」

「お、おう…」
 織田さん、何を言い出すんだ。恥ずかしいな。

 そうこうしているうちに、チキンライスが炒ったので、いったん別のボウルに移す。そして、織田さんがかき混ぜた卵のボウルを受け取り、フライパンに流し込む。
 卵が固まってきたら、チキンライスを投入。

 上手くまとめて皿に移す。
 それを2回繰り返して、僕らの昼食が完成した。

 ダイニングテーブルにオムライスを並べて食べようとすると、直前に織田さんが、
「メイドカフェみたいに何か書いてあげるよ。何が良い?」
 と、ケチャップを手に申し出た。

「うーん…」
 しばらく考え込むが、良いのが浮かばない。
 待ちきれなくなった織田さんが、何やら書き始めた。
 見ていると、
『ありがとう』
 と書かれた。

「お、おう…」
 なんか、ちょっと照れるな。

「いつも、ありがとうね」
 織田さんはそう言うと、自分のオムライスには、適当にケチャップを掛けて食べ始めた。

 僕らはオムライスを食べ終えると、勉強のために僕の部屋に向かった。

 部屋では昨日と同じように勉強を開始する。
「明日の数学だっけ?」
 僕らは、昨日同様ローテーブルに座り、教科書を広げる。
 
「数学は、どこらへんがわからないの?」

「全部」

「ええっ?!」
 困ったな。
 とりあえず、集合を1からやるか。
 そんなわけで、勉強開始。
 しばらく、教科書の解説をしたり問題を解いて見せたりする。

 そして、今日も織田さんは近いな。
 僕は、織田さんの髪の匂いやブラチラ(水色)に気を取られそうになりながら、邪念と戦いつつ解説を続ける。

 そんなこんなで、休憩を挟みつつ3時間ほど勉強した。疲れた。
 試験範囲の解説はざっとした。
 集合は、1学期の2次方程式あたりと比べると簡単だと思うから、赤点回避ぐらいはできるだろう。多分。

「ありがとう、そろそろ帰るね」
 織田さんがノートを鞄に入れて帰り支度をする。

 そして、僕らは今日も妹と玄関で鉢合わせになった。
 織田さんと妹は簡単に挨拶をして、僕は今日は玄関で織田さんと別れた。

 その後、居間で妹に話しかけられた。
「今日は、お昼ごはんどうしたの?」

「オムライス、作ったよ」

「そう。織田さんも食べたの?」

「ああ。昨日のカップ麵を挽回できたかな?」

「ダメでしょ。女子の評価は一旦下がると、何をやっても上がらないよ」

 そうなのか。
 僕は妹の言葉に何かを返すことなく、自分の部屋に戻った。
 自分の試験勉強もやらなくては。
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