上 下
156 / 409
眩暈する秋涼編

『距離0.01mm』

しおりを挟む
 歴史研のメンバーでの勉強会は、無事、夕方ごろに終了した。
 取り敢えず明日からの中間試験は何とかなりそうだ。

 皆が一息ついて、談笑していると、上杉先輩がベッドの上から話しかけてきた。
「この漫画、面白いね」
 彼女が手に持っているのは、僕が雑司が谷高校の学園祭で買った漫研の同人誌。
 R18ではないが、その境界線をギリギリまで追求したというアレだ。
 確かに僕も読んでみて、ギリギリのエロさでだけなく、ストーリーも面白いと感じていた。

「これ、どこで買ったの?」

「雑司が谷高校の学園祭で、漫研の物販で買いました」

「へー。誰が描いたんだろうね」
 上杉先輩はペラペラとページをめくりながら尋ねた。

「著者の名前が表紙に書いてあるじゃないですか?」

 表紙には、主人公の男子とヒロインの絵。
 タイトルには、

『距離0.01mm』

 そして、

 ●原作:アンナ・鶴ゲーネフ
 ●作画:バタフライ・ビー

 と書かれてある。

「それはわかってるよ。ペンネームじゃあ、学校の誰かわからないじゃん?」
 上杉先輩は不満そうに言う。

「確かに…」
 しかし、そもそも、雑司が谷高校の生徒とは限らないのでは?

 それにしても、変なペンネームだ。
 “鶴ゲーネフ”は、“ツルゲーネフ”と読むのが正解なのか?
 バタフライ・ビーは、蝶・蜂?
 などと考えていると、毛利さんが口を挟んだ。

「ツルゲーネフは19世紀のロシアの文豪よ。何作か読んだことがある」

 文豪か。なら文学少女の毛利さんなら得意分野だろう。

「アンナ・ツルゲーネフっていう文豪なの?」

「文豪のツルゲーネフは男で、たしか、名前はイワン・ツルゲーネフだったはず」

「じゃあ、別人かな」

「内容を確認すれば、良いんじゃない?」
 上杉先輩が提案する。

「そうか…、じゃあ、毛利さん、これ読んでみて、ロシアの文豪が原作か確認してくれないかな?」

 僕は同人誌を上杉先輩から奪い取って、毛利さんに手渡そうとした。

「エロい本を無理やり女子に読ませるのは、セクハラだよ」
 と、上杉先輩はニヤつきながら言う。

「あっ! 毛利さん、ゴメン」

「いいよ、家で読んでみる」
 そう言って毛利さんは同人誌を手にした。

 取り敢えず勉強会はお開きとなった。
 帰り際、美咲も伊達先輩に何度も礼を言っている。
 皆の帰宅を、玄関まで見送る。

 皆を見送った後、妹が言う 
「伊達さんにもっと勉強見てもらいたいなー」

「伊達先輩、家庭教師のバイトやってるから、お金払えばやってくれるんじゃない? 親父に相談したら?」

「そうだ! お兄ちゃん、伊達さんと付き合いなよ」

「なんでそうなるんだよ?」

「私も、タダで教えてくれそうじゃん?」

「断る」

 打算的な妹だ。

 僕は戻って自分の部屋の扉を開けた。
 今回も、女の匂いで充満している…。
 僕は、しばらく、それを堪能してから消臭剤を撒いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

雌犬、女子高生になる

フルーツパフェ
大衆娯楽
最近は犬が人間になるアニメが流行りの様子。 流行に乗って元は犬だった女子高生美少女達の日常を描く

お兄ちゃんは今日からいもうと!

沼米 さくら
ライト文芸
 大倉京介、十八歳、高卒。女子小学生始めました。  親の再婚で新しくできた妹。けれど、彼女のせいで僕は、体はそのまま、他者から「女子小学生」と認識されるようになってしまった。  トイレに行けないからおもらししちゃったり、おむつをさせられたり、友達を作ったり。  身の回りで少しずつ不可思議な出来事が巻き起こっていくなか、僕は少女に染まっていく。  果たして男に戻る日はやってくるのだろうか。  強制女児女装万歳。  毎週木曜と日曜更新です。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

「学校でトイレは1日2回まで」という校則がある女子校の話

赤髪命
大衆娯楽
とある地方の私立女子校、御清水学園には、ある変わった校則があった。 「校内のトイレを使うには、毎朝各個人に2枚ずつ配られるコインを使用しなければならない」 そんな校則の中で生活する少女たちの、おしがまと助け合いの物語

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

処理中です...