雑司ヶ谷高校 歴史研究部!!

谷島修一

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混沌の学園祭編

舞台 “白雪姫”

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 最初の出し物、漫才・落語研究部の漫才は、部員たちの何組が漫才とかコントをやっていた。まあまあ、面白かった。

 次の出し物、ダンス部のダンスパフォーマンスを見る。よくあんなに体が動くもんだ。感心した。

 さらに次の出し物、合唱部の合唱。なかなか上手い。知らん歌もあったけど。

 この辺りから、体育館のギャラリーが徐々に増えてきていた。見回すと客席の8割がたは埋まっている状況。多くは、うちの生徒だが、父兄や外部からの来客で私服の人も結構目についた。

 そして、映画研究部のショートムービー。自分の出番の準備もあるので、最初の5分程だけを見る。オリジナルのミステリーのようだが、織田さんが出てた。演劇部に出演をお願いしたようだ。
 ムービーの続きを見たかったが、自分の出番の“白雪姫”もあるので、体育館内の更衣室に向かう。そこで、ちゃっちゃと着替える。やっぱりマントが邪魔に感じる。そして、急いでステージ袖までやって来た。
 すでに、ほとんどの出演者がそろっていた。
 本番まで、あと15分ほど。

 織田さんが僕の姿を見つけると言った。
「全員揃ったようだから円陣を組みましょう」

 円陣?
 僕は、ちょっと戸惑ったが、舞台袖の少々狭いので出演の13名は小ぢんまりと肩を組んで円陣を作った。

 まだ、ステージ上ではショートムービが上映中なので、織田さんは小声で気合を入れる。
「観客もほぼ満員。本番、最後まで頑張りましょう」

「おー」
 皆も小声で応じた。

 ほどなくしてショートムービは終わり、ついに本番を迎える。
 僕の緊張もMAXだ。以前、生徒会長選挙の応援演説で同じステージに立ったことがある。あの時も結構緊張したが、同じぐらいの緊張度。

 一旦、ステージ上が暗転し、大道具係が書き割りを設置する。
 再びステージ上のライトが灯り、織田さんの白雪姫がステージ中央へ向かう。

 事前のリハが万端だったので、問題なく演技は進んだ。
 そして、いよいよラストシーン。王子様役の僕の出番となった。
 
 僕がステージに登場すると、観客席から失笑と嘲笑が幾らか聞こえた。
「エロマンガ伯爵だ!」
 僕の王子様役を楽しみ(?)にしていた人が結構いるようだ。全く嬉しくないが。
 ステージ上からは、客席は暗くて前の方しか見えないが、ほぼ満席のようだった。これは織田さんの集客のため、僕をダシに使うなどした策略通りなのだろう。
 
 そんな状況の中、ステージ中央では、悪い王女に毒リンゴを食べさせられ眠っている白雪姫と、その周りに白雪姫が死んだと思い悲しむ7人の小人が居る。
 僕は、傍に歩み寄り、ひざまずいて決められたセリフを言う。

「おお、なんと美しい姫。まるで、眠っているようだ」

 そして、一度ステージ上のライトが消え、再び点くと白雪姫は目覚めているという、演出のはずだったのだが…。
 
 しかし、ライトは消えず、次の瞬間、織田さんは素早く腕を伸ばし、僕の背中に回すと、グイと引き寄せた。
 僕の体を引き寄せると、本当にキスをしてきた。

 客席から、「おおーっ!」と、どよめきが聞こえ、体育館内は騒然となった。

 僕と織田さんの唇が離れる。

「え? え? え?」
 と、何が起こったのか分らず、困惑する僕をよそに、織田さんは平然と立ち上がり、7人の小人たちに別れのセリフを言う。

「さようなら、さようなら」

 キスされた衝撃で、ぼう然としていた僕の袖を引っ張って、織田さんと僕はステージの袖にはけて言った。

 ステージ上のライトが消え、最後のナレーションが流れる。

「こうして、白雪姫は、王子様のお城で一緒に末永く幸せに暮らしました」

 次の瞬間、客席からは盛大な歓声と拍手が起こった。
 この歓声はどういう意味なのか?

 ステージ袖は次の出し物の準備のために他のクラスの人も居たので、白雪姫の出演メンバーは一旦、体育館の外に出ることになった。
 体育館の脇の人の少ないところに出演メンバーは集まり、お互いに「お疲れ」などと声を掛け合っている。
 一方の僕は、織田さんとのキスの衝撃で、ぼう然としているままだった。

 そんな僕に織田さんが笑顔で声を掛けてきた。
「おお、武田君。お疲れ様。演技、良かったよ」

「え? あ…、ああ、うん、ありがとう」
 何と返事をしてよいかわからなったが、何とか応じた。
 そして、次の質問を絞り出すように口にした。
「ステージでのことだけど?」

「何?」

「何って…、ラストシーンのことだよ」

「ああ、あれね。王子様にキスされる前に、先に白雪姫が動いたこと?」

 そこじゃない。

「いや…、本当にキスするとか…、台本になかったけど」

「急遽変えたのよ。あれの方が、話題になるでしょ?」

「話題になるだろうけど…、僕は聞いないよ」

「ゴメンねー。でも、キスぐらいで騒ぐ歳じゃあないでしょ?」

 いや、騒ぎます。
 なんせ、初めてキスしたんだけど…。とは、言えず。
 いろんな男と遊んでいるという噂の織田さんにとっては、キスぐらいどうってことないのだろう。

 まあ、演技でのことだし、ノーカンという事でこの場は自分を何とか納得させた。

 出演メンバーはそこで解散となった。体育館の更衣室で、素早く着替える。
 僕は午後からは歴史研が参加している“占いメイドカフェ”で執事をやらないといけない。それまでの1時間と少し、校内の他の出し物を見物しながら休憩することにした。
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