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傭兵部隊設立
第2話・質問
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傭兵部隊の募集の通達があってから二日後、帝国軍の士官が、私のいる下級士官の兵舎にやって来た。私は傭兵部隊に参加の意志を伝えた。
同じ部屋にいた下級士官で他に傭兵部隊に参加の意志を伝えたのは、友人のエーベル・マイヤーだけだった。彼は、私が参加するので参加すると言う。そちらの方が面白そうだから、という理由だ。彼の能天気さが少々うらやましい。
参加の意志が無い他の者はここを去るように言われたが、おそらく監視が付くのだろう。後で聞いたが何人かは寒村に強制移住させられたという。
さらに次の日、帝国の駐留軍の司令官が面談をするということで、その指揮官の元に呼び出された。
その人物の名前は確かボリス・ルツコイと言ったか。
私は、帝国軍の兵士に連れられて、城の中を移動する。これまで、ブロンベルクがしばらく使っていた士官の執務室に連れてこられた。今は、駐留軍の指揮官が使っているようだ。扉を開けて中へ通されると、私は敬礼した。
「ユルゲン・クリーガーです。よろしくお願いいたします」。
中で待ち構えていたのは、茶色い髪、四角い顔つきで、口髭が特徴的な男。年齢は四十歳代中盤だろうか。彼は執務机の向こう側に座っていた。
「ああ、よく来た」。
彼は私を見ると、そういって立ち上がった。彼の背は低いが、がっしりとした体格だ。
「私はボリス・ルツコイだ。帝国軍の第五旅団の指揮を執っている。今回、ここズーデハーフェンシュタットの統治も任された」。
彼は椅子を指した。
「座りたまえ」。
「はい。失礼します」。
私は椅子に座る。それを確認すると、彼は話を始めた。
「傭兵部隊に参加の意志表示をしてくれて感謝する。実際に部隊に参加してもらうかどうかは、これから質問に答えてもらい、その内容を検討させてもらってからだ。その結果は数日中にお伝えする」。
「わかりました」。
「君のプロフィールを見たよ」。ルツコイはそう言って、手元の資料に目をやった。「“深蒼の騎士”だそうだね。“深蒼の騎士”で傭兵部隊に参加の意志表示をしたのは君だけだ」。
「そうですか」。
「“深蒼の騎士”は、忠誠心が高いから帝国に従うのを拒否するものが多い。君は違うのか?」
「私も忠誠心は高いと思います。しかし、その忠誠を払うべき共和国はもうありません」。
ルツコイは、それを聞いて少し笑った。
「なるほど、その通りだな」。
再び真顔に戻って尋ねる。
「今後は帝国に忠誠を誓ってもらう。できるか?」。
「努力します」。
「正直だな」。
彼は、また笑ったように見えた。
「傭兵部隊に参加しようと思った動機は?」
「今後、武器所有禁止令が施行され、すべての者が剣や魔術の修練は出来ないと聞きました。しかし、傭兵部隊に参加すればそれができると。私は “深蒼の騎士” の剣と魔術の技術を伝承したいと思っていますので部隊に参加したく思っております」。
「なるほど。戦闘でも“深蒼の騎士”は強かったと聞いた」。
“聞いた?”、彼は戦争では戦わなかったのだろうか? 彼は続ける。
「その技術を守ろうとするのは良いことだと思う。今後はそれを帝国のために役立ててくれれば良い」。
「わかりました」。
ルツコイは再び手元の書類に目をやった。
「先日の反乱について、鎮圧で活躍したとある。君は反乱に加わろうと思わなかったのかね?」
「全く思いませんでした」。
「何故かね?」
「まず、無条件降伏が政府の決定で、抵抗するなと命令が来ておりました。その命令を遵守したまでです」。
「なるほど。報告によると兄弟子を斬った、とあるが」。
「はい。彼が反乱軍を指揮しておりました。私は反乱軍が抵抗することによって、帝国軍が街の中に進軍し、結果的に住民に被害が及ぶことを恐れたのです。なので、早く反乱を鎮圧しなければならないと思いました」。
「住民を守ろうとしたのだね?」
「そうです」。
「兄弟子を斬ることに躊躇はなかったのか?」
「全くなかったと言えば嘘になります。しかし、反乱を早く鎮圧するためにはそれしかありませんでした」。
「なるほど。その鎮圧のための作戦は自分で考え付いたのか?」。
「そうです。城内も反乱兵が逃げ込んで混乱状態で、隊長のブロンベルクの命令を待っていると手遅れになると考えたからです。独断でしたが港に向かいました」。
「そうか、機転が利くんだな。結果的に、君とエーベルの二人だけで鎮圧したということか」。
「いえ、港で反乱兵のほとんどを討ち取ったのはブロンベルク隊長です。私は兄弟子ルーデルを討っただけです」。
「そうか」。
ルツコイは私の答えを聞くと満足そうに微笑むと、椅子の背もたれに深くもたれ掛かり、脚を組んで言った。
「今回、応募があった者で、君が共和国軍で一番階級が上の人間だった。もし採用となった場合、傭兵部隊の部隊長を任せたいが、どうだね?」
私は少し考えた。これまで、人の上に立つことがほとんどなかったからだ。
しかし、決断して回答した。
「わかりました。拝命いたします」。
「よろしい」。
「私の方からも質問してもよろしいでしょうか?」
「なんだね?」。
「傭兵部隊の活動ですが、治安維持が主と伺いまいしたが、詳細を教えていただけますでしょうか。」
「そうだな…。先日のような反乱の鎮圧とその予防、街の近隣で出没する盗賊征伐、警察組織の補完などを考えている。他にも何かあれば臨機応変に対応してもらう。よろしいかな?」
「わかりました。ありがとうございます」。
「他になければ今日のところは以上だ。後日、採用の可否の返事はするので、部屋で待機してくれ」。
そう言うと、ルツコイは両手を大きく広げた。
「わかりました」。
私は立ち上がり敬礼した。
ルツコイも立ち上がり敬礼し、私を送り出した。
私は執務室を出た。外ではエーベル・マイヤーが待っていた。どうやら面談の順番を待っていたようだ。
「どうだった?」
彼は私の顔を見るなり尋ねた。
「差し障りのない質問ばかりだったね」。
「そうか、それは楽しみだ」。
そう言うとエーベルは笑って執務室をノックしてから入っていった。
私は兵舎の部屋に戻り、再びベッドで横になって考え事をする時間に戻った。
同じ部屋にいた下級士官で他に傭兵部隊に参加の意志を伝えたのは、友人のエーベル・マイヤーだけだった。彼は、私が参加するので参加すると言う。そちらの方が面白そうだから、という理由だ。彼の能天気さが少々うらやましい。
参加の意志が無い他の者はここを去るように言われたが、おそらく監視が付くのだろう。後で聞いたが何人かは寒村に強制移住させられたという。
さらに次の日、帝国の駐留軍の司令官が面談をするということで、その指揮官の元に呼び出された。
その人物の名前は確かボリス・ルツコイと言ったか。
私は、帝国軍の兵士に連れられて、城の中を移動する。これまで、ブロンベルクがしばらく使っていた士官の執務室に連れてこられた。今は、駐留軍の指揮官が使っているようだ。扉を開けて中へ通されると、私は敬礼した。
「ユルゲン・クリーガーです。よろしくお願いいたします」。
中で待ち構えていたのは、茶色い髪、四角い顔つきで、口髭が特徴的な男。年齢は四十歳代中盤だろうか。彼は執務机の向こう側に座っていた。
「ああ、よく来た」。
彼は私を見ると、そういって立ち上がった。彼の背は低いが、がっしりとした体格だ。
「私はボリス・ルツコイだ。帝国軍の第五旅団の指揮を執っている。今回、ここズーデハーフェンシュタットの統治も任された」。
彼は椅子を指した。
「座りたまえ」。
「はい。失礼します」。
私は椅子に座る。それを確認すると、彼は話を始めた。
「傭兵部隊に参加の意志表示をしてくれて感謝する。実際に部隊に参加してもらうかどうかは、これから質問に答えてもらい、その内容を検討させてもらってからだ。その結果は数日中にお伝えする」。
「わかりました」。
「君のプロフィールを見たよ」。ルツコイはそう言って、手元の資料に目をやった。「“深蒼の騎士”だそうだね。“深蒼の騎士”で傭兵部隊に参加の意志表示をしたのは君だけだ」。
「そうですか」。
「“深蒼の騎士”は、忠誠心が高いから帝国に従うのを拒否するものが多い。君は違うのか?」
「私も忠誠心は高いと思います。しかし、その忠誠を払うべき共和国はもうありません」。
ルツコイは、それを聞いて少し笑った。
「なるほど、その通りだな」。
再び真顔に戻って尋ねる。
「今後は帝国に忠誠を誓ってもらう。できるか?」。
「努力します」。
「正直だな」。
彼は、また笑ったように見えた。
「傭兵部隊に参加しようと思った動機は?」
「今後、武器所有禁止令が施行され、すべての者が剣や魔術の修練は出来ないと聞きました。しかし、傭兵部隊に参加すればそれができると。私は “深蒼の騎士” の剣と魔術の技術を伝承したいと思っていますので部隊に参加したく思っております」。
「なるほど。戦闘でも“深蒼の騎士”は強かったと聞いた」。
“聞いた?”、彼は戦争では戦わなかったのだろうか? 彼は続ける。
「その技術を守ろうとするのは良いことだと思う。今後はそれを帝国のために役立ててくれれば良い」。
「わかりました」。
ルツコイは再び手元の書類に目をやった。
「先日の反乱について、鎮圧で活躍したとある。君は反乱に加わろうと思わなかったのかね?」
「全く思いませんでした」。
「何故かね?」
「まず、無条件降伏が政府の決定で、抵抗するなと命令が来ておりました。その命令を遵守したまでです」。
「なるほど。報告によると兄弟子を斬った、とあるが」。
「はい。彼が反乱軍を指揮しておりました。私は反乱軍が抵抗することによって、帝国軍が街の中に進軍し、結果的に住民に被害が及ぶことを恐れたのです。なので、早く反乱を鎮圧しなければならないと思いました」。
「住民を守ろうとしたのだね?」
「そうです」。
「兄弟子を斬ることに躊躇はなかったのか?」
「全くなかったと言えば嘘になります。しかし、反乱を早く鎮圧するためにはそれしかありませんでした」。
「なるほど。その鎮圧のための作戦は自分で考え付いたのか?」。
「そうです。城内も反乱兵が逃げ込んで混乱状態で、隊長のブロンベルクの命令を待っていると手遅れになると考えたからです。独断でしたが港に向かいました」。
「そうか、機転が利くんだな。結果的に、君とエーベルの二人だけで鎮圧したということか」。
「いえ、港で反乱兵のほとんどを討ち取ったのはブロンベルク隊長です。私は兄弟子ルーデルを討っただけです」。
「そうか」。
ルツコイは私の答えを聞くと満足そうに微笑むと、椅子の背もたれに深くもたれ掛かり、脚を組んで言った。
「今回、応募があった者で、君が共和国軍で一番階級が上の人間だった。もし採用となった場合、傭兵部隊の部隊長を任せたいが、どうだね?」
私は少し考えた。これまで、人の上に立つことがほとんどなかったからだ。
しかし、決断して回答した。
「わかりました。拝命いたします」。
「よろしい」。
「私の方からも質問してもよろしいでしょうか?」
「なんだね?」。
「傭兵部隊の活動ですが、治安維持が主と伺いまいしたが、詳細を教えていただけますでしょうか。」
「そうだな…。先日のような反乱の鎮圧とその予防、街の近隣で出没する盗賊征伐、警察組織の補完などを考えている。他にも何かあれば臨機応変に対応してもらう。よろしいかな?」
「わかりました。ありがとうございます」。
「他になければ今日のところは以上だ。後日、採用の可否の返事はするので、部屋で待機してくれ」。
そう言うと、ルツコイは両手を大きく広げた。
「わかりました」。
私は立ち上がり敬礼した。
ルツコイも立ち上がり敬礼し、私を送り出した。
私は執務室を出た。外ではエーベル・マイヤーが待っていた。どうやら面談の順番を待っていたようだ。
「どうだった?」
彼は私の顔を見るなり尋ねた。
「差し障りのない質問ばかりだったね」。
「そうか、それは楽しみだ」。
そう言うとエーベルは笑って執務室をノックしてから入っていった。
私は兵舎の部屋に戻り、再びベッドで横になって考え事をする時間に戻った。
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