上 下
17 / 29
徹底抗戦派の反乱

第5話・首謀者

しおりを挟む
 十分ほど待たされただろうか。

 瓦礫の向こう側に歩み寄ってきたのは兄弟子だったクラウス・ルーデルだ。
 先ほど城で顔を見かけなかったので、おそらく彼はここにいるだろうと思ったが、その通りだった。
 ルーデルは、黒い瞳に、やや長めの黒髪を後ろに束ねている。私より少し背が高く、がっしりとした体つき。彼は、四歳年上の私の兄弟子で、師のセバスティアン・ウォルターが軍を去る約十年前まで、いつも一緒に修練をしていた間柄だった。
 ルーデルは、以前は髭を生やしていなかったが、今は口髭を蓄えていた。

“深蒼の騎士”の、剣術などの伝授は、子弟制度で行われる。大抵、師には二~三人の弟子が付き、その教えを乞う。我々、“深蒼の騎士”達は、伝統的に何十年もこの方法でやって来た。
 我々の師が去ってからは、私とルーデルは性格が合わないところがあり、しばらく疎遠となっていた。

「クリーガーか」。
「ルーデルさん、お願いがあって来ました」。
「話は聞いた、おまえも仲間と一緒に我々に加わりたいということだが」。
「そうです」。
「仲間はどこだ」。
 私はエーベルを指さした。
「彼です。他の仲間は後ほど合流します」。
「なるほど。良いだろう、こちらへ来い」。
 私とエーベルはバリケード代わりの瓦礫をよじ登り反対側に降り立った。

 瓦礫を降り切った我々はルーデルと握手を交わした。
「よく来た。歓迎しよう。 “深蒼の騎士”でこの作戦に参加した者は思いのほか少なかったから心強い。ところで、そちらは」。
「彼は魔術師のエーベル・マイヤーです」。
「魔術師も少ないから助かるよ」。
「城にいたら、反乱を起こした兵士が修練所を占拠したのを見て、これは我々も参加しないと思いました」。
「修練所の兵士達はどうなった?」
 私は話をうまく作る。
「我々は修練所の兵士達と合流しようとしましたが、その前にほとんどが討ち取られました。それを見て急いで城を脱出しました。そして、この煙のところまで来れば仲間が居ると思いここまで来ました」。
 
「ここへ来たのは正解だったな。修練所の者は残念だったが、我々が街の中の軍の詰所から武器を盗み、その後、集結するための時間稼ぎをしてもらった」。
「上級士官がおらず、今の共和国軍は、もはや指示系統が無きに等しいです。我々の動きに全く対応ができない状況のようです」。
「それを見越しての作戦だ」。
 なるほど、事前によく練られていると思ったが、グロースアーテッヒ川の戦いから十日程度でここまで進めるとは。
 私は続けて質問をした。
「今回の作戦を立案したのは?」
「私だ。この兵たちを率いている」。
 そうかルーデルが指揮官か。それは都合が良い。

 ルーデルは私の向き直り改めて宣言した。
「私の指揮の下、帝国へ反攻する」。
「しかし、兵力が少なすぎるのでは?」
「その通りだ。我々は、この後、オストハーフェンシュタットにも居る仲間とも合流する。最終的な兵力は二千から三千程度になる予定だ。無論、この数で直接戦おうということはしない。日が暮れる頃までに、船を使ってここを脱出し、ダーガリンダ王国かテレ・ダ・ズール公国まで移動し、それらの国と協力して帝国へ侵攻する」。
「ダーガリンダ王国かテレ・ダ・ズール公国とは話が付いているのですか?」
「それはこれからだ。そこまでするには時間が足りなかった」。
「それらの国のいずれかが帝国への侵攻に協力してくれるのでしょうか?」
「侵攻はせずとも、我々が樹立する共和国の亡命政権をいずれかに置かせてもらう。それに、いずれの国も帝国の侵攻に怯えている。協力は得られると思っている」。
「なるほど。あとは船というのは?」
「海軍にも同調しているものが多数いる。巡洋艦とフリゲート艦合わせて四隻を調達できる予定だ」。
 なるほど、脱出までは計画があるということか。

 ルーデルは、私とかつて弟子同志だったということもあるのだろうか、私を信用して計画を包み隠さず話してくれる。
 私はさらに質問を続ける。
「後、私が危惧しているのは、我々が行動していることによって、住民に被害が及ばないかということです」。
「住民に危害が及ぶのは仕方の無いことだ。共和国を再興するという大義のため多少の犠牲はやむを得ない」。
 政府は住民に危害が及ばないようにと無条件降伏を飲んだのだ。私は政府の判断を支持している。

 反乱兵が次々と集まっている。城から脱出した者、軍の詰所から武器を盗んで来る者が次々とやってくる。その数は見たところ、五百人近くまでになっているだろう。その中に、先ほど修練所で見た、エーリヒ・イェーリングも居た。上手く城から脱出できたらしい。
 しばらくすると、別の兵の一団がバリケードの前にやって来た。首都防衛隊長のブロンベルクが率いる部隊だ。
「そろそろ潮時だな」。
 ルーデルはブロンベルクの部隊を見ると、そう言って、仲間に港へ向かうように指示を出した。港はバリケードのすぐ後方で、距離的にさほど時間もかからず到達できる。
 ルーデルの命令でバリケード代わりの瓦礫にも火がつけられた。これで時間稼ぎをするつもりだ。

 ルーデルを始め我々と反乱兵たちは港に向かって移動を開始した。
 ブロンベルクの部隊は瓦礫の火を消そうとしているようだが、火を消して瓦礫を取り除いた頃には、ルーデルたちは港に到着し、船に乗り込んでいるだろう。

 私とエーベルは彼らに混ざって港に向かった。
 私は小声でエーベルに話しかける。
「ルーデルが船に乗り込んだすぐ後に、舷梯に火を放て。私は船上でルーデルを討つ」。
「わかった」。
 少し考えた後、エーベルは尋ねた。
「火を放った後はどうすればいい?」
「逃げろ」。
「どこへ? 桟橋は反乱兵だらけだぞ」。
「声が大きいぞ」。
 私はエーベルをたしなめた。
「海に飛び込め」。
「なるほど、そうか」。
 エーベルはとりあえず納得してくれたようだ。あとは実行あるのみ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

もふもふ、星をアイスル。

遊虎りん
ファンタジー
ひとりぼっちの魔物。アホウと呼ばれていた。キャベツを盗もうとするも失敗。森の奥に逃げ込むと魔王が眠っていた。 目の前のフカフカなあったかそうなお布団に入って寝る! それがアホウと魔王の出会いだった。 【注意】予告なく文章を追加したり修正したりします予めご了承下さいませ。 更新は土日中心となります。 ファンタジー大賞にエントリーしました。今回は完結に向けて頑張ります!! タイトルがしっくりこないので、時々かえると思います。申し訳ありません。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

砕けた愛は、戻らない。

豆狸
恋愛
「殿下からお前に伝言がある。もう殿下のことを見るな、とのことだ」 なろう様でも公開中です。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

処理中です...