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徹底抗戦派の反乱
第2話・反乱
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私が所属した首都防衛隊の約五千名は“グロースアーテッヒ川の戦い” に参戦していないので、その戦力は完全に温存されていた。
しかし、武装解除の命令が出てからは、所持している武器類は城の武器庫に収め、帝国軍によって厳重に管理されている。そして、我々、元共和国軍の兵士達には、次の指示があるまで、しばらく待機命令が出されていた。
私は他の兵士達と一緒に城内の兵舎の士官用の部屋に留まっている。
私は精鋭の “深蒼の騎士” であるため、下級士官扱いで一般兵よりは比較的良い部屋をあてがわれていて、部屋には二十人近い下級士官が生活していた。
一般兵の使う各兵舎はさらに大きなものとなっており、それぞれ二百から三百人ごとに複数の兵舎に詰め込まれていた。
今後、一部の政府の指導者や軍の上層部が処刑か幽閉、地方都市や寒村への追放および監視などの処置がされるという。
下級士官扱いの私は、“深蒼の騎士”ではあったが、処刑は免れられるという話だ。しかし、追放の可能性は残っていた。
自分が今後どうなるのか不安はあった。しかし、今は待つことしかできず、兵舎のベッドで横になっていた。
兵舎で隣のベッドに居るのは、同じ首都防衛隊に所属していたエーベル・マイヤー。彼は優秀な魔術師で、ベッドが隣同士になってから、ここ三年ばかりの付き合いだ。
彼は話好きなので、私によく話しかけて来る。
「一体、これからどうなるんだろうな」。
「さあ、幸い我々は処刑は無いということを聞いた。しかし、軍は解体。当然、城からも追い出されるだろう。職探しをしなければならないかもな」。
「やれやれ。私は魔術以外は何もできないからなあ。どうしたものか」。
「私も剣術と魔術だけ。しかも軍隊以外は知らない世間知らずだ」。
「帝国に占領されたあと、職探しがまともにできるのだろうか?」
「まったくわからんね」。
全く見通しのつかない将来に、我々はため息をついた。
しばらくすると、突然、一人の兵士が我々の部屋に駆け込んできた。
「大変です!兵士の一部が武器を持って修練所に立てこもっています」。
「なんだと!」
そこに居た、私を含めた士官たちは、一斉に声を上げた。
「一体どういうことだ」。
誰かが兵士に質問する。
「無条件降伏に反対している者達が集まって行動を起こしたようです」。
「なんてことだ」。
彼らは武器をどうしたのだろうか? 数日前、政府関係者や上級士官たちが兵士達の武器を武器庫に入れるのを確認し、帝国軍と政府の者が管理しているはずだ。どこかに隠していたのだろうか。
そこに居た士官たちは、一斉に修練所に向かった。
しかし、武器を持たない状況に一抹の不安があった。
城の修練所は、城壁内にあるものの独立した建物となっており、数百人の兵士が一度に入ることができる。ここで剣などの修練以外にも、訓示を行ったりする用途でも使われていた。建物には四方に大きな扉がある。
我々は城の中を駆け抜け、その修練所までやって来た。
すでに、他の兵士達が遠巻きに取り囲んでいるが、武器を持たないためどうすることもできないようだ。
扉はおそらく中から開かないようにしてあるのだろう。
私は、 “深蒼の騎士” の騎士団長カール・ブロンベルクが居るのを見つけ、声を掛けた。彼は騎士団長だけでなく、首都防衛隊の隊長でもあった人物だ。“グロースアーテッヒ川の戦いで”、他の旅団の指揮官が死亡した状況では、武装解除までの短期間ではあるが、実質的に彼が軍のトップだった。
「騎士団長殿!」
「ああ、クリーガーか」。
「これは一体どういうことでしょうか?」
「どうやら、無条件降伏に反対している者達が立てこもったらしい」。
「人数は?」
「はっきりとはわからんが、あの中に立てこもれる人数としたら、多くても三百名ばかりだろう」。
「どうなさるおつもりですか?」
「すぐにでも説得して武器を捨てさせたいところだが、政府の人間に指示を仰ぐのが先だ。国防大臣には、このことを伝える様に人を出した。彼は城内に居るだろうから、すぐに指示が来るだろう」。
「彼らは武器を持っていると聞きました。一体どうやって?」
「わからんが、これをあらかじめ計画して、どこかに武器を隠していたのかもしれん」。
我々が話をしていると、兵士が一人駆け寄ってきた。
「ブロンベルク隊長。国防大臣からの指示です。彼らを “急いで鎮圧せよ” とのことです。武器庫から武器を出す許可も出ました。私が武器庫の鍵を預かっています」。
「武力で鎮圧するのですか?」
私は驚いてブロンベルクに話しかけた。
「仕方あるまい。立てこもっている連中は帝国軍と最後の一兵まで戦うつもりかもしれんが、住民に危害が及ばない様に降伏した我が政府の意志に反する。さらには街壁の外には二万の帝国軍が待機している。ここで帝国に歯向かっても害なだけだ。もはや勝算無き戦いを起こしても意味が無い」。
その通りだった。私もその意見に同意する。
ブロンベルクは意を決したように、辺りに居る兵士に言った。
「士官たちをここに集めろ」。
士官とっても、これまで行われた戦闘で多くの上級士官は死亡している、残っているほとんどが私を含めた下級士官だ。そして、その大半が “深蒼の騎士” だった。
十分もしないうちに士官たち二十数名が集まった。
“深蒼の騎士”達、魔術師のエーベル・マイヤー、そして、一般兵を率いていた士官が数名だ。
集まった士官たちを見回してブロンベルクは命令を出した。
「これより、あの中に居る者達を鎮圧する。武器庫から武器、魔石を取って良い許可が出た。 “深蒼の騎士” は全員武器を取れ。兵舎の一般兵からは千名を武器庫へ。残りの兵士達は指示があるまで兵舎で待機させよ」。
「了解!」
士官たちは敬礼をし、武器庫と兵舎に移動を開始した。
反乱兵の中には “深蒼の騎士” も数名居ることが予想された。先ほど隊長に集められた時、居なかった者達だ。私は改めて士官達を見回した。数名、見知った顔が見当たらないのに気付き、嫌な予感がした。
しかし、武装解除の命令が出てからは、所持している武器類は城の武器庫に収め、帝国軍によって厳重に管理されている。そして、我々、元共和国軍の兵士達には、次の指示があるまで、しばらく待機命令が出されていた。
私は他の兵士達と一緒に城内の兵舎の士官用の部屋に留まっている。
私は精鋭の “深蒼の騎士” であるため、下級士官扱いで一般兵よりは比較的良い部屋をあてがわれていて、部屋には二十人近い下級士官が生活していた。
一般兵の使う各兵舎はさらに大きなものとなっており、それぞれ二百から三百人ごとに複数の兵舎に詰め込まれていた。
今後、一部の政府の指導者や軍の上層部が処刑か幽閉、地方都市や寒村への追放および監視などの処置がされるという。
下級士官扱いの私は、“深蒼の騎士”ではあったが、処刑は免れられるという話だ。しかし、追放の可能性は残っていた。
自分が今後どうなるのか不安はあった。しかし、今は待つことしかできず、兵舎のベッドで横になっていた。
兵舎で隣のベッドに居るのは、同じ首都防衛隊に所属していたエーベル・マイヤー。彼は優秀な魔術師で、ベッドが隣同士になってから、ここ三年ばかりの付き合いだ。
彼は話好きなので、私によく話しかけて来る。
「一体、これからどうなるんだろうな」。
「さあ、幸い我々は処刑は無いということを聞いた。しかし、軍は解体。当然、城からも追い出されるだろう。職探しをしなければならないかもな」。
「やれやれ。私は魔術以外は何もできないからなあ。どうしたものか」。
「私も剣術と魔術だけ。しかも軍隊以外は知らない世間知らずだ」。
「帝国に占領されたあと、職探しがまともにできるのだろうか?」
「まったくわからんね」。
全く見通しのつかない将来に、我々はため息をついた。
しばらくすると、突然、一人の兵士が我々の部屋に駆け込んできた。
「大変です!兵士の一部が武器を持って修練所に立てこもっています」。
「なんだと!」
そこに居た、私を含めた士官たちは、一斉に声を上げた。
「一体どういうことだ」。
誰かが兵士に質問する。
「無条件降伏に反対している者達が集まって行動を起こしたようです」。
「なんてことだ」。
彼らは武器をどうしたのだろうか? 数日前、政府関係者や上級士官たちが兵士達の武器を武器庫に入れるのを確認し、帝国軍と政府の者が管理しているはずだ。どこかに隠していたのだろうか。
そこに居た士官たちは、一斉に修練所に向かった。
しかし、武器を持たない状況に一抹の不安があった。
城の修練所は、城壁内にあるものの独立した建物となっており、数百人の兵士が一度に入ることができる。ここで剣などの修練以外にも、訓示を行ったりする用途でも使われていた。建物には四方に大きな扉がある。
我々は城の中を駆け抜け、その修練所までやって来た。
すでに、他の兵士達が遠巻きに取り囲んでいるが、武器を持たないためどうすることもできないようだ。
扉はおそらく中から開かないようにしてあるのだろう。
私は、 “深蒼の騎士” の騎士団長カール・ブロンベルクが居るのを見つけ、声を掛けた。彼は騎士団長だけでなく、首都防衛隊の隊長でもあった人物だ。“グロースアーテッヒ川の戦いで”、他の旅団の指揮官が死亡した状況では、武装解除までの短期間ではあるが、実質的に彼が軍のトップだった。
「騎士団長殿!」
「ああ、クリーガーか」。
「これは一体どういうことでしょうか?」
「どうやら、無条件降伏に反対している者達が立てこもったらしい」。
「人数は?」
「はっきりとはわからんが、あの中に立てこもれる人数としたら、多くても三百名ばかりだろう」。
「どうなさるおつもりですか?」
「すぐにでも説得して武器を捨てさせたいところだが、政府の人間に指示を仰ぐのが先だ。国防大臣には、このことを伝える様に人を出した。彼は城内に居るだろうから、すぐに指示が来るだろう」。
「彼らは武器を持っていると聞きました。一体どうやって?」
「わからんが、これをあらかじめ計画して、どこかに武器を隠していたのかもしれん」。
我々が話をしていると、兵士が一人駆け寄ってきた。
「ブロンベルク隊長。国防大臣からの指示です。彼らを “急いで鎮圧せよ” とのことです。武器庫から武器を出す許可も出ました。私が武器庫の鍵を預かっています」。
「武力で鎮圧するのですか?」
私は驚いてブロンベルクに話しかけた。
「仕方あるまい。立てこもっている連中は帝国軍と最後の一兵まで戦うつもりかもしれんが、住民に危害が及ばない様に降伏した我が政府の意志に反する。さらには街壁の外には二万の帝国軍が待機している。ここで帝国に歯向かっても害なだけだ。もはや勝算無き戦いを起こしても意味が無い」。
その通りだった。私もその意見に同意する。
ブロンベルクは意を決したように、辺りに居る兵士に言った。
「士官たちをここに集めろ」。
士官とっても、これまで行われた戦闘で多くの上級士官は死亡している、残っているほとんどが私を含めた下級士官だ。そして、その大半が “深蒼の騎士” だった。
十分もしないうちに士官たち二十数名が集まった。
“深蒼の騎士”達、魔術師のエーベル・マイヤー、そして、一般兵を率いていた士官が数名だ。
集まった士官たちを見回してブロンベルクは命令を出した。
「これより、あの中に居る者達を鎮圧する。武器庫から武器、魔石を取って良い許可が出た。 “深蒼の騎士” は全員武器を取れ。兵舎の一般兵からは千名を武器庫へ。残りの兵士達は指示があるまで兵舎で待機させよ」。
「了解!」
士官たちは敬礼をし、武器庫と兵舎に移動を開始した。
反乱兵の中には “深蒼の騎士” も数名居ることが予想された。先ほど隊長に集められた時、居なかった者達だ。私は改めて士官達を見回した。数名、見知った顔が見当たらないのに気付き、嫌な予感がした。
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