1 / 29
序章
帝国の侵攻
しおりを挟む
大陸歴1655年3月3日
私、ユルゲン・クリーガーはブラウグルン共和国の首都ズーデハーフェンシュタットの首都防衛隊の一員として、街壁の上から街の警備にあたっていた。
街を守るように取り囲んでいる街壁の上に立ち、そこから望遠鏡を覗く。
現在、共和国軍一万八千が遠く先、グロースアーテッヒ川の対岸に陣を張っているのが、かろうじて判別できた。
情報によると帝国軍は明日の夕方にもその近くまで到着するという。明後日には本格的に戦闘が始まるだろう。
私の所属する首都防衛隊はその戦闘に参加しない。我々の任務は前線の共和国軍が敗退した場合、籠城し、ここで街を守ることだ。
ブラウグルン共和国の北側で国境を接していた軍事国家ブラミア帝国は、三年ほど前からブラウグルン共和国はじめ他の隣国への領土的野心を露骨にむき出すようになった。帝国は軍事力を増強し、周到な準備をした上で、十か月ほど前、帝国は圧倒的物量をもって共和国へ侵攻した。
元々、共和国は比較的平和な時代が長かったため、帝国の侵攻まで本格的な戦争は長らく体験していなかった。また、気候が温暖なせいか、人々も穏やかな者が多いため、元々争いごとが少ない国であった。そういう理由で共和国軍は戦い慣れない上に、準備不足であったため、突然の帝国軍の侵攻に対応しきれず国境は易々と突破された。
次に共和国軍は国境から近い共和国第三の都市モルデンを防衛線とした。そこでは、正面から戦うのは不利と考えた共和国軍は、籠城して帝国軍と対峙。ここでは共和国軍は予想を超えた善戦をした。しかし、最終的には帝国軍の激しい猛攻により、約半年で街は陥落。
戦闘とその後の略奪で街の大半が破壊され焼け野原となったという。
モルデン陥落直後から数週間は、街から脱出し首都まで逃げて来たきた住民達を保護する仕事にも当たったことがある。
私は引き続き街壁から望遠鏡で共和国軍の陣を眺めていると、同じ首都防衛隊で友人でもあるエーベル・マイヤーがやって来た。
エーベルは優秀な魔術師だ。短く切り揃えた茶色い髪に茶色い瞳。そして、魔術師らしからぬがっしりとした体格をしている。
「どうだい様子は?」
エーベルは話しかけて来た。
私は望遠鏡を下ろし、彼の質問に答える。
「今のところ、動きは無いな。帝国軍の到着は明日の夕方頃だそうだ」
「明後日には間違いなく戦いが始まるという事か」
「共和国の命運の掛かった戦いだ。総司令官エッケナーの采配に期待するしかない」
「そういえば、噂によると、帝国軍の総司令官は力押しの戦い方で攻めるのが得意らしいな」
「モルデンでもそういう攻め方をしたんだろう?」
「そうだ。城攻めに力押しとはね。敵にも結構な被害が出たらしい」
「だから、ここへ進軍するのが数か月遅れたと言っていたな」
「そのとおり。そんな無謀な戦い方をする敵の司令官だから、ひょっとしたら、こちらにも勝機はあるかもしれないな」
「だといいが」
エッケナーはじめ陣を張っているこちら側の司令官達が、どの程度の策略家かどうかは噂程度でしか知らない。しかし、敵が戦略無しで戦うのであれば、勝てる可能性はあるのかもしれない。
「そういえば」
エーベルが顔を近づけて小声で話しかける。
「さっき、士官の一人がブロンベルク隊長に『我々も街を出て戦いたい』と言っていたな」。
「それでどうなった?」
「隊長殿は『我々の任務は首都防衛だ』と言って、相手にしなかったけれどね」
「当然だな」
血の気が多い隊員が、帝国軍と戦いたがっているというのは聞いた。彼らの数はそれなりに多い様だ。独断で行動をしなければいいが。
私は再び望遠鏡を覗き込んだ。
(絵:warutu@ワルツ 様)
私、ユルゲン・クリーガーはブラウグルン共和国の首都ズーデハーフェンシュタットの首都防衛隊の一員として、街壁の上から街の警備にあたっていた。
街を守るように取り囲んでいる街壁の上に立ち、そこから望遠鏡を覗く。
現在、共和国軍一万八千が遠く先、グロースアーテッヒ川の対岸に陣を張っているのが、かろうじて判別できた。
情報によると帝国軍は明日の夕方にもその近くまで到着するという。明後日には本格的に戦闘が始まるだろう。
私の所属する首都防衛隊はその戦闘に参加しない。我々の任務は前線の共和国軍が敗退した場合、籠城し、ここで街を守ることだ。
ブラウグルン共和国の北側で国境を接していた軍事国家ブラミア帝国は、三年ほど前からブラウグルン共和国はじめ他の隣国への領土的野心を露骨にむき出すようになった。帝国は軍事力を増強し、周到な準備をした上で、十か月ほど前、帝国は圧倒的物量をもって共和国へ侵攻した。
元々、共和国は比較的平和な時代が長かったため、帝国の侵攻まで本格的な戦争は長らく体験していなかった。また、気候が温暖なせいか、人々も穏やかな者が多いため、元々争いごとが少ない国であった。そういう理由で共和国軍は戦い慣れない上に、準備不足であったため、突然の帝国軍の侵攻に対応しきれず国境は易々と突破された。
次に共和国軍は国境から近い共和国第三の都市モルデンを防衛線とした。そこでは、正面から戦うのは不利と考えた共和国軍は、籠城して帝国軍と対峙。ここでは共和国軍は予想を超えた善戦をした。しかし、最終的には帝国軍の激しい猛攻により、約半年で街は陥落。
戦闘とその後の略奪で街の大半が破壊され焼け野原となったという。
モルデン陥落直後から数週間は、街から脱出し首都まで逃げて来たきた住民達を保護する仕事にも当たったことがある。
私は引き続き街壁から望遠鏡で共和国軍の陣を眺めていると、同じ首都防衛隊で友人でもあるエーベル・マイヤーがやって来た。
エーベルは優秀な魔術師だ。短く切り揃えた茶色い髪に茶色い瞳。そして、魔術師らしからぬがっしりとした体格をしている。
「どうだい様子は?」
エーベルは話しかけて来た。
私は望遠鏡を下ろし、彼の質問に答える。
「今のところ、動きは無いな。帝国軍の到着は明日の夕方頃だそうだ」
「明後日には間違いなく戦いが始まるという事か」
「共和国の命運の掛かった戦いだ。総司令官エッケナーの采配に期待するしかない」
「そういえば、噂によると、帝国軍の総司令官は力押しの戦い方で攻めるのが得意らしいな」
「モルデンでもそういう攻め方をしたんだろう?」
「そうだ。城攻めに力押しとはね。敵にも結構な被害が出たらしい」
「だから、ここへ進軍するのが数か月遅れたと言っていたな」
「そのとおり。そんな無謀な戦い方をする敵の司令官だから、ひょっとしたら、こちらにも勝機はあるかもしれないな」
「だといいが」
エッケナーはじめ陣を張っているこちら側の司令官達が、どの程度の策略家かどうかは噂程度でしか知らない。しかし、敵が戦略無しで戦うのであれば、勝てる可能性はあるのかもしれない。
「そういえば」
エーベルが顔を近づけて小声で話しかける。
「さっき、士官の一人がブロンベルク隊長に『我々も街を出て戦いたい』と言っていたな」。
「それでどうなった?」
「隊長殿は『我々の任務は首都防衛だ』と言って、相手にしなかったけれどね」
「当然だな」
血の気が多い隊員が、帝国軍と戦いたがっているというのは聞いた。彼らの数はそれなりに多い様だ。独断で行動をしなければいいが。
私は再び望遠鏡を覗き込んだ。
(絵:warutu@ワルツ 様)
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界を服従して征く俺の物語!!
ネコのうた
ファンタジー
日本のとある高校生たちが異世界に召喚されました。
高1で15歳の主人公は弱キャラだったものの、ある存在と融合して力を得ます。
様々なスキルや魔法を用いて、人族や魔族を時に服従させ時に殲滅していく、といったストーリーです。
なかには一筋縄ではいかない強敵たちもいて・・・・?
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女の孫だけど冒険者になるよ!
春野こもも
ファンタジー
森の奥で元聖女の祖母と暮らすセシルは幼い頃から剣と魔法を教え込まれる。それに加えて彼女は精霊の力を使いこなすことができた。
12才にった彼女は生き別れた祖父を探すために旅立つ。そして冒険者となりその能力を生かしてギルドの依頼を難なくこなしていく。
ある依頼でセシルの前に現れた黒髪の青年は非常に高い戦闘力を持っていた。なんと彼は勇者とともに召喚された異世界人だった。そして2人はチームを組むことになる。
基本冒険ファンタジーですが終盤恋愛要素が入ってきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる