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捜査11日目

捜査11日目~オストハーフェンシュタット

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 クリーガーの乗船している貨物船は、午前中にオストハーフェンシュタットに到着した。クリーガーがこの街にやってくるのは、数年ぶりだ。
 オストハーフェンシュタットは旧共和国の第二の都市。ズーデハーフェンシュタットと同じく港湾都市だ。港は荷揚げと荷下ろしをする作業員で賑わっている。

 オストハーフェンシュタットは、すぐ北東にあるガーダリンダ王国との国境が近い。ダーガリンダ王国の領土はさほど大きくなく、旧共和国の三分の一程度の面積。しかし、魔石や鉱石などの埋蔵量が大陸で一番多い。特に、この大陸で出回っている魔石の大部分は王国内の “鉱山地方” と呼ばれる土地で採掘され、王国の一番の収益源となっている。
 ダーガリンダ王国は旧共和国とは友好的な関係で交易も盛んなこともあり、魔石の商人が多く滞在する。帝国に占領された後も、王国との交易は特に制限されていなかった。

 クリーガーは下船の準備をする。自分の剣やナイフ、荷物の他、ルツコイからもらった通行書とヴェールテ家の執事ベットリッヒに預かった試供品のワインの入った袋を忘れず持ち、貨物船の船長に礼を言うと下船した。
 その後は、港近くの宿屋で部屋を借りて、ヴェールテ貿易にいる長女クリスティアーネとの会合の時間までそこで過ごす。帰りは船ではなく馬で戻ることにした。
 ルツコイにオストハーフェンシュタット駐留軍宛の馬を借りられるように命令書をもらっている。明日の午前中にズーデハーフェンシュタットへ向けて出発する予定だの、あわただしい旅だ。

 クリーガーはヴェールテ貿易の建物の前に立った。建物は三階建てのレンガ作りで、ズーデハーフェンシュタットのヴェールテ貿易のそれに似ていた。
 大きな重い扉を開けると、中では多くの人があわただしく仕事をしていた。商品の入った木箱を運ぶ人が数人、前を通る。その奥では机に向かって何やら事務作業をしている人など活気にあふれていた。
 クリーガーは近くに居る人に声を掛け、クリスティアーネ・ヴェールテの居場所を聞く。三階の執務室にいるという。案内され目的の部屋の前までやって来た。扉をノックすると、扉が開かれた。出てきたのは女性だ。この人がクリスティアーネだろうか。
「どちら様ですか?」
「私はズーデハーフェンシュタットの傭兵部隊のユルゲン・クリーガーといいます。クリスティアーネさんですか?」
「いえ、私は秘書です。クリーガー様がお越しのなるのは伺っておりました。クリスティアーネ様は奥におりますので、どうぞ」。
 秘書の女性に招き入れられ、中に入る。さらに奥の部屋に続く扉を秘書が開けると、中にはもう一人の女性が居た。今度こそ彼女がクリスティアーネだろう。亜麻色の髪をアップにしている。クリーガーは、彼女の少々化粧が濃いところが気になった。
「クリーガー様がお見えになりました」。
 奥に居た女性は立ち上がり、クリーガーに歩み寄って挨拶する。
「ようこそ」。
 彼女の身長はクリーガーの頭一つ低かった。そして、目は大きく、化粧のせいか、はっきりと見開いているように見える。仄かに香水の匂いがした。

 クリーガーは敬礼して、自己紹介をする。
「ユルゲン・クリーガーといいます。今日はお忙しいところ、ありがとうございます」。
「私がクリスティアーネ・ヴェールテです」。
 彼女はそう言うと、ソファを指してクリーガーに座るように促した。
「失礼します」。
 クリスティアーネも反対側のソファに座った。そして、クリーガーをまじまじと見つめた。しまった、顔に何かついていたか?
「あなた。いい男ね」。クリスティアーネそう言うとニヤリと笑った。「傭兵部隊といったわね。部隊を辞めて、私の用心棒をやらない?」
「え?」
 クリーガーは予想もしないことを言われて思わず顔を上げて声を上げた。
「傭兵部隊より良い報酬を払うわよ」。
「用心棒が必要なのですか?」。
「兄が二人も殺されたのよ。用心に越したことはないわ」。
 確かにそうだ。しかし、彼女は兄が殺された話題をするにも関わらず、表情は明るかった。
「武器所有禁止令があります。私は傭兵部隊に所属しているので剣を持所持できるのです。部隊を去ったら剣を持つことはできません」。
「そんなのなんとでもなるわ」。
 無茶を言う。とりあえず用心棒には興味がないので、クリーガーは無理に話題を変える。
「社内を見ましたが、活気がありますね」。
「ええ、おかげさまでいろんな商品の取引がうまくいっていて、会社も儲かっているわ」。

 秘書が部屋に入ってきて、カップに入った飲み物をクリーガーとクリスティアーネの前のテーブルに置く。そして、軽く会釈をすると部屋を出て行った。
 クリスティアーネは飲み物を指して言う。
「この飲み物はこれから扱う予定の商品よ。アレナ王国でとれた珍しい果物を絞って作った飲料だから、よかったら飲んで感想を聞かせてみて」。
「わかりました。いただきます」。
 クリーガーはカップを手に取って中を覗き込んだ。オレンジ色の液体が入っており、甘い香りがする。クリーガーはそれを一口飲んでみた。甘さと酸っぱさが両方あり、あっさりとして飲みやすい。
「とても、おいしいです」。
 クリーガーは素直に感想を言った。
「よかった」。クリスティアーネは微笑んだ。「これをまず、この街のカフェ数軒で扱ってもらおうと話をつけてあります。評判は良ければすぐに広まるでしょう」。
 なるほど、面白い仕事をしているな、とクリーガーは思った。クリスティアーネも終始楽しそうにしている。彼女自身も会社経営に向いているのだろう。
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