色彩の大陸3~英雄は二度死ぬ

谷島修一

文字の大きさ
上 下
45 / 66
人民革命

プリブレジヌイの戦い7

しおりを挟む
 大陸歴1660年12月3日・ブラミア帝国・プリブレジヌイ郊外

 戦闘が行われず、お互いが対峙した状態が続いて一週間ほどたっただろうか。
 雪が降る日も数日、プリブレジヌイは帝国でも最も北に位置する都市で、昼夜共に寒さが厳しい季節となっていた。

 ルツコイは望遠鏡で反乱軍の様子を望遠鏡で覗いていた。
 手前に陣を張る元第四旅団は相変わらずだが、本陣にいる兵士の数が減っているように見えた。見たところ以前の三分の一から四分の一。こちらを攻めることをあきらめたのだろうか。

 ルツコイは確認のため、改めて偵察を出した。
 偵察から戻って来た報告を聞くと、やはり反乱軍の数はかなり減っているという。退却を始めているのであれば、追撃はこちらに圧倒的に有利だ。ここは一気に攻撃を掛けるチャンスか。
 雹を降らせた魔術師と思われる者の攻撃も気にかかるが、ルツコイはここは自分の手勢を率いて様子を見ようと思い、公国軍は残し、帝国軍のみの六千で攻撃を仕掛けることにした。
 前方の元第四旅団千五百を攻め立て、重装騎士団はその陣を突破、さらに後方の陣も突破し、もし退却中の部隊が居れば追撃できればと考えた。

 そう決定すると、ルツコイは全軍に命令を出した。
 部隊は門の前に整列し出撃の準備に備える。
 ルツコイは馬上から大声で兵士たちに作戦を伝える。
「今、反乱軍の本隊が退却中だ。手前の陣はそのままだが千人程度と数は少ない。まずこれを攻撃する。重装騎士団はその陣を一気に突破し、後方の本隊の追撃をする。これは反乱軍を叩き潰すチャンスだ」。
 ルツコイは門に向き直った。
「開門!」
 そういうと、街壁の門が開き、重装騎士団が一気に出陣した。総司令官ルツコイと副司令官ユルゲンは並んで先頭を進む。
 その後を帝国軍兵士が続く。

 帝国軍まず、手前の元第四旅団の兵士千五百と衝突した。
 兵力は約四倍。帝国軍は勢いに任せ一気に攻撃を仕掛けた。ユルゲンとルツコイ達は敵を次々と切り倒していく。そして、残りの敵は他の一般兵に任せ、重装騎士団は陣の中央を突破した。

 ユルゲンとルツコイは重装騎士団と共に馬の速度を上げ後方の本陣に迫る。
 後方の陣の兵は、数は多いが逃げ惑うだけでほとんど戦いにならなかった。
 そのまま本陣も突破、さらに後方へ向かい丘を越える。ルツコイは退却中の反乱軍に追いつき、攻撃できればと考えた。
 そして、ルツコイとユルゲン達は、丘を越えようとしたところで反乱軍が目に入った。
 それはルツコイ達が予想していたものとは違っていた。退却中だと思われた反乱軍が、整然と布陣して待ち受けていたのだ。
 見たところ一万以上。
 次の瞬間、反乱軍が鬨の声を上げて突撃を開始した。

「しまった!罠だ!」ルツコイが叫んだ。「退却しろ!」
 ルツコイ、クリーガーと重装騎士団は馬を返して退却を始めた。本陣まで戻ると、先ほど重装騎士団が駆け抜けるとき、ほとんど抵抗しなかった兵士達が向かってきたのだ。
 これも作戦のうちか、ルツコイは狼狽した。
 抵抗し道を塞ぐ兵士たちの数が圧倒的に多かった。重装騎士団と言えども圧倒される。
「このままでは、後ろから迫っている反乱軍と挟み撃ちになってしまいます!」。
 ユルゲンが叫ぶ。
「わかっている!なんとか突っ切れ!」

 手前の元第四旅団は壊滅したようだ。帝国軍の一般兵士たちも本陣に向かってきた。それが重装騎士団の援護に入り反乱軍の囲みが少々崩れた。
 ルツコイ、クリーガーは帝国軍兵士達に敵には目もくれず退却するように叫びながら駆け抜けた。他の士官たちもその命令を叫びつつ退却を始めた。

 重装騎士団は何とかプリブレジヌイの街壁まで到達し門の中に入った。帝国軍の歩兵の一部が逃げきれずに反乱軍に討たれた。しかし、反乱軍には騎兵が、ほとんどいないことが幸いした。追いつかれてしまったら、下手をすると大損害が出るところだった。
 結局、帝国軍は重装騎士団は百五十、一般兵士が六、七百名が打ち取られたが、敵の元第四師団はほぼ壊滅させることができた。まだまだ戦えるとルツコイは感じていた。

 ただ、反乱軍にも何者かはわからないが、軍を統率し指揮を取れる者が就いたのだろう。
 これは簡単にはいかなくなったようだ。
 今回の戦いでは、ルツコイらしからぬ油断で、被害を出してしまった。ルツコイはさらに慎重に戦いを進めると決めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた
ファンタジー
七歳になったアシュリーが神から授けられたスキルは"テイマー"、"魔法"、"料理"、"ダンジョンメーカー"。 けれどどれも魔力が少ない為、イマイチ。 というか、"ダンジョンメーカー"って何ですか?え?亜空間を作り出せる能力?でも弱くて使えない? そんなアシュリーがかろうじて使える料理で自立しようとする、のんびりお料理話です。 小説家になろうでも掲載しております。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...