色彩の大陸3~英雄は二度死ぬ

谷島修一

文字の大きさ
上 下
23 / 66
人民革命

すれ違い

しおりを挟む
 大陸歴1660年6月30日・ブラミア帝国・首都アリーグラード

 披露宴の後、新郎新婦のユルゲン・クリーガーとヴァシリーサ・アクーニナは、一か月の休暇を得て、ハネムーンでテレ・ダ・ズール公国の港町ポー・スードに行ったという。ハネムーンの後、ヴァシリーサはユルゲンの使っている屋敷に移り住むことになった。

 ユルゲンは帝国に留まることになってから、城の近くにあり、以前とある貴族が住んでいて、現在は空き家になっていた屋敷を国から提供され、そこに住んでいた。
 住み込み召使いも一人いる。“帝国の英雄”としての特別待遇だ。

 そして、ユルゲンがハネムーンから帰って一週間後のある日、ユルゲンはオレガを剣の修練のため屋敷に招いた。

 一年前、オレガは遊撃部隊が解散したと同時に軍を除隊した。しかし、その後も無理を言ってユルゲンの弟子を続けさせてもらっていた。
 そして、月に一、二度、ユルゲンの屋敷の広い庭で剣の修練をするために通っていた。

 オレガとユルゲンの模擬剣がぶつかり合う音があたりに響く。
 オレガは相変わらず動きが速い。ユルゲンは最近の運動不足もあって、彼女の剣裁きになんとか対応できている状態だった。

 二人は修練を終え、庭にある椅子に座って息を整えていた。
 ユルゲンは汗を拭くためのタオルを、オレガに渡す。
「ありがとうございます」。
 ユルゲンはオレガに、もう軍人ではないのに、なぜ剣の修練を続けるのか聞いたことがある。彼女の母親は幼い時に亡くなり、父親も “イグナユグ戦争” で戦死したので身寄りがなく、知り合いもほとんどない。だから、ユルゲンと関係をつなげていたいそうだ。二人は親子というには年齢はちょっと近いので、歳の離れた兄妹のような関係だった。

 ユルゲンは披露宴の時、秘密警察 “エヌ・ベー” のスピリゴノフから聞いた話が気になっていた。オレガが反政府勢力の集会に顔を出しているという話だ。
 今日の機会に、そのことを聞いてみようと思っていた。
「オレガ」。ユルゲンは単刀直入に話を切り出した。「最近、反政府勢力の集まりに行っていると聞いたが」。
「えっ?」オレガは予想外の話題に困惑した。「それを、誰から?」
「私の耳には、いろんな情報が入ってくる」。ユルゲンは無理に笑顔を作って話を続ける。「軍や秘密警察は反政府勢力の動きに特に注意しているからね」。
 良く考えれば、それは、そうだろう。ユルゲンは軍の副司令官だ。軍や政府の機密事項などの情報も耳に入るに違いない。

 ユルゲンは話を続けた。
「だから、そういうところには出入りしない方がいい」。
 オレガは少し黙っていたが、意を決したように話し出した。
「私が師に弟子にしてくださいとお願いした時、生まれた地域を何とかしたいと言ったのは覚えていますか?」
「覚えているよ」。
「だから、そうしたいだけです」。
「剣の腕を磨いて、反旗を翻すためかい?」
 オレガは黙り込んだ。

 ユルゲンはオレガを弟子にすると決めた時は、彼女の言葉を深く読み込まなかった。結局、ただ、泣いてすがる彼女の涙に負けたという事だろう。

 ユルゲンは言葉を続ける。
「私は今ではもう帝国の人間として陛下に敬意を払っている。それは将来も変わらないだろう。このままだと、いつか、私はオレガと本物の剣で斬り合うことになるかもしれんよ」。
 実際に斬り合うことなどないだろうが、ユルゲンはオレガを反政府活動から離すために、わざとショッキングな印象になるように言った。
 オレガはその言葉には返事をせず、黙ったままだった。

 少々気まずい沈黙が続いてしばらくした後、ヴァーシャが屋敷から出てきて二人に声を掛けた。
「昼食が出来たわよ」。
 いいタイミングだ。
 ユルゲンは立ち上がって、オレガにも声を掛ける。
「行こう」。
 オレガが立ち上がるのを見て、ヴァーシャが言った。
「ねえ、私とオレガが手合わせすると、どっちが勝つかしら?」
「オレガは手強いよ」。
 ユルゲンが笑って言う。
「ねえ、オレガ、聞いてよ。ユーリはもう私と手合わせしてくれないのよ」。
「妻とは本気でやり合えないよ」。
 ユルゲンのその言葉を聞いてオレガが言う。
「師は優しいですね」。
「違うわよ、やり合って負けた時に言い訳にするつもりなのよ」。
 その言葉にユルゲンは苦笑し、オレガとヴァーシャは笑っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜

あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。 そんな世界に唯一現れた白髪の少年。 その少年とは神様に転生させられた日本人だった。 その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。 ⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。 ⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

処理中です...