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証言者たち
オットーの証言~禁断の魔術~その2
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オットーは “チューリン事件” について話し出した。
「 “チューリン事件” は傭兵部隊が結成されてちょうど二年ぐらい経った頃、ブラミア帝国の皇帝から師に命令が来たんだよ。アリーグラードに行って皇帝に謁見し、直接命令が伝えたいと。そのころ、アリーグラードでは、何度も謎の翼竜の襲撃を受けていて、それを撃退できず、襲撃の度に軍の犠牲者も多かった。その翼竜を操る首謀者を倒せとの命令だ。師のお供として私とソフィアも一緒にアリーグラードに向かった。道中いろいろ事件はあるんだが、何とかアリーグラードに到着した時、ちょうど翼竜の襲撃に遭遇することになった。それで、帝国軍が手も足も出なかったのを、私たち三人でその翼竜を倒したんだ」。
「すごいですね」。
「そうだね、私たち三人は大陸最強だったね」。
オットーは自慢げに胸を張る。
「その後、師は皇帝に謁見して命令を正式に受け、翼竜を操る謎の敵を討つために、ズーデハーフェンシュタットから船で三日ほどかかる洋上のとある島に向かうことになる。傭兵部隊から全員の総勢百人、監視役の帝国軍兵士や水兵たちを合わせると百五十人は居た。これを二隻の船に分乗して出航した。途中、翼竜とクラーケンの襲撃を受けて、一隻が沈没し、その船に乗っていた者の大半が死んだ。島に上陸してからも、ゴーレムや地竜といった怪物との戦いがあって、それらを何とか倒すと、最後に現れたのは謎の魔術師。その男を死闘の末、何とか倒して正体を確かめると、なんとチューリンだったんだ」。
「「ええっ!」」
二人は相当驚いた。それもそのはずだ、 “回想録” はじめほかの書物でも、 “悪意を持った魔術師で正体はわからずじまい” と書かれていたからだ。それが、帝国を裏で牛耳っていた皇帝の側近だとは思いもよらなかった。
「本当ですか?」
「本当だとも」。オットーは飲み物を一口飲んでから話をつづけた。「まだ、ここから、続きがある。しかも倒したチューリンは、魔術で作られた偽物だったんだ」。
「「ええっ!」」
再び二人は驚いた。
その反応が面白かったのか、オットーは少し笑いながら話をつづけた。
「どうやら、翼竜などほかの怪物と同じように、傀儡魔術という特殊な魔術で作られた物だったんだ。遺体から魔石を取ると、遺体は土になった。土から魔術で偽物を作るんだな。その偽チューリンを倒した後、島には以外にはもう敵はいないと考えて、生き残った私たちは島を出発してズーデハーフェンシュタットに帰還した」。
オットーは話を続ける。
「島から生還できた傭兵部隊のメンバーはたった三十人だった」。
「百人が、三十人になったのですか?」
「そうだよ。島での戦いは、それほど熾烈だった。良く生き残れたものだと思うよ」。
オットーはフッと軽くため息をついてから話を続ける。
「そして、無事にズーデハーフェンシュタットに帰還して、しばらくすると師に再び皇帝から首都へ来いと命令があった。島にいた首謀者を倒したことで歓迎したいとね。その旅の途中、アクーニナさんがチューリンを討つから手伝えと話があった」。
「アクーニナさんというと、ユルゲンさんの奥さんですね?」
イリーナは確認のため尋ねた。
「そうだ。ヴァシリーサ・アクーニナ。まだそのころは、師とは結婚する前だったけどね。それで、師は彼女のチューリンを討つという提案を承諾した。実は、師は彼女に脅されて承諾したらしいんだけど。それで、私たちが首都に着くと、すぐに行動を起こした」。
「どうして彼女はチューリンを討つことにしたんですか?」
イリーナが尋ねる。
「チューリンは皇帝に取り入って、何年も不法に国を牛耳っていたからね。それを快くなく思っている者はたくさんいた。だから、アクーニナさんは、この機会に翼竜の襲撃の罪をチューリンに擦り付けて、排除しようと思ったらしい。最初、私たちはこれは濡れ衣だと思った。しかし、後でわかったことだが、実際には、本当に翼竜襲撃にはチューリンが係わっていた」。
オットーは、息をついて少し休んでから再び話し出した。
「それで、師と私は城に着いてすぐに、アクーニナ率いる皇帝親衛隊と師と私でチューリンを倒しに謁見の間の隣の待合室に向かった。城には島で倒したはずのチューリンがいた。師は戦いが始まるとすぐにチューリンが自分の偽物や翼竜などを作っていた首謀者とわかったらしい」。
「「それはなぜですか?」」
イリーナとクララがほぼ同時に尋ねた。
「チューリンが島で戦った時の内容を知っていたからだ。私は気がつかなかったが、師はすぐに気が付いたらしい。戦いが始まってしばらく経つと、親衛隊から多数の犠牲者が出た。これも厳しい戦いだった。そして、こちらが全滅するかもしれないと思うほどの危機があったが、途中、ヴィット王国の魔術師 “雪白の司書” 達が加勢に入って何とかチューリンを倒すことが出来た。しかし、遺体を確認して持っていた魔石を取り上げると、そのチューリンも土になった。魔術で作られた偽物だったんだ」。
「えっ! その偽物を操っていたのは、結局、誰なんですか?」
クララが興味津々で尋ねた。
「 “チューリン事件” は傭兵部隊が結成されてちょうど二年ぐらい経った頃、ブラミア帝国の皇帝から師に命令が来たんだよ。アリーグラードに行って皇帝に謁見し、直接命令が伝えたいと。そのころ、アリーグラードでは、何度も謎の翼竜の襲撃を受けていて、それを撃退できず、襲撃の度に軍の犠牲者も多かった。その翼竜を操る首謀者を倒せとの命令だ。師のお供として私とソフィアも一緒にアリーグラードに向かった。道中いろいろ事件はあるんだが、何とかアリーグラードに到着した時、ちょうど翼竜の襲撃に遭遇することになった。それで、帝国軍が手も足も出なかったのを、私たち三人でその翼竜を倒したんだ」。
「すごいですね」。
「そうだね、私たち三人は大陸最強だったね」。
オットーは自慢げに胸を張る。
「その後、師は皇帝に謁見して命令を正式に受け、翼竜を操る謎の敵を討つために、ズーデハーフェンシュタットから船で三日ほどかかる洋上のとある島に向かうことになる。傭兵部隊から全員の総勢百人、監視役の帝国軍兵士や水兵たちを合わせると百五十人は居た。これを二隻の船に分乗して出航した。途中、翼竜とクラーケンの襲撃を受けて、一隻が沈没し、その船に乗っていた者の大半が死んだ。島に上陸してからも、ゴーレムや地竜といった怪物との戦いがあって、それらを何とか倒すと、最後に現れたのは謎の魔術師。その男を死闘の末、何とか倒して正体を確かめると、なんとチューリンだったんだ」。
「「ええっ!」」
二人は相当驚いた。それもそのはずだ、 “回想録” はじめほかの書物でも、 “悪意を持った魔術師で正体はわからずじまい” と書かれていたからだ。それが、帝国を裏で牛耳っていた皇帝の側近だとは思いもよらなかった。
「本当ですか?」
「本当だとも」。オットーは飲み物を一口飲んでから話をつづけた。「まだ、ここから、続きがある。しかも倒したチューリンは、魔術で作られた偽物だったんだ」。
「「ええっ!」」
再び二人は驚いた。
その反応が面白かったのか、オットーは少し笑いながら話をつづけた。
「どうやら、翼竜などほかの怪物と同じように、傀儡魔術という特殊な魔術で作られた物だったんだ。遺体から魔石を取ると、遺体は土になった。土から魔術で偽物を作るんだな。その偽チューリンを倒した後、島には以外にはもう敵はいないと考えて、生き残った私たちは島を出発してズーデハーフェンシュタットに帰還した」。
オットーは話を続ける。
「島から生還できた傭兵部隊のメンバーはたった三十人だった」。
「百人が、三十人になったのですか?」
「そうだよ。島での戦いは、それほど熾烈だった。良く生き残れたものだと思うよ」。
オットーはフッと軽くため息をついてから話を続ける。
「そして、無事にズーデハーフェンシュタットに帰還して、しばらくすると師に再び皇帝から首都へ来いと命令があった。島にいた首謀者を倒したことで歓迎したいとね。その旅の途中、アクーニナさんがチューリンを討つから手伝えと話があった」。
「アクーニナさんというと、ユルゲンさんの奥さんですね?」
イリーナは確認のため尋ねた。
「そうだ。ヴァシリーサ・アクーニナ。まだそのころは、師とは結婚する前だったけどね。それで、師は彼女のチューリンを討つという提案を承諾した。実は、師は彼女に脅されて承諾したらしいんだけど。それで、私たちが首都に着くと、すぐに行動を起こした」。
「どうして彼女はチューリンを討つことにしたんですか?」
イリーナが尋ねる。
「チューリンは皇帝に取り入って、何年も不法に国を牛耳っていたからね。それを快くなく思っている者はたくさんいた。だから、アクーニナさんは、この機会に翼竜の襲撃の罪をチューリンに擦り付けて、排除しようと思ったらしい。最初、私たちはこれは濡れ衣だと思った。しかし、後でわかったことだが、実際には、本当に翼竜襲撃にはチューリンが係わっていた」。
オットーは、息をついて少し休んでから再び話し出した。
「それで、師と私は城に着いてすぐに、アクーニナ率いる皇帝親衛隊と師と私でチューリンを倒しに謁見の間の隣の待合室に向かった。城には島で倒したはずのチューリンがいた。師は戦いが始まるとすぐにチューリンが自分の偽物や翼竜などを作っていた首謀者とわかったらしい」。
「「それはなぜですか?」」
イリーナとクララがほぼ同時に尋ねた。
「チューリンが島で戦った時の内容を知っていたからだ。私は気がつかなかったが、師はすぐに気が付いたらしい。戦いが始まってしばらく経つと、親衛隊から多数の犠牲者が出た。これも厳しい戦いだった。そして、こちらが全滅するかもしれないと思うほどの危機があったが、途中、ヴィット王国の魔術師 “雪白の司書” 達が加勢に入って何とかチューリンを倒すことが出来た。しかし、遺体を確認して持っていた魔石を取り上げると、そのチューリンも土になった。魔術で作られた偽物だったんだ」。
「えっ! その偽物を操っていたのは、結局、誰なんですか?」
クララが興味津々で尋ねた。
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