色彩の大陸3~英雄は二度死ぬ

谷島修一

文字の大きさ
上 下
7 / 66
証言者たち

ブラウグルン共和国・モルデン

しおりを挟む
 大陸歴1710年5月15日・ブラウグルン共和国・モルデン

 駅馬車を乗り継いで二日、イリーナ・ガラバルスコワとクララ・クリーガーはパルラメンスカヤ人民共和国の首都アリーグラードから、ブラウグルン共和国の都市モルデンにやって来た。

 この街は、五十五年前の “イグナユグ戦争” で、帝国軍と共和国軍との激しい戦闘と略奪で焼け野原となり、その後の約三年間は帝国の支配下にあった都市だ。ここでの共和国派の反乱をきっかけにしてブラウグルン共和国は、ブラミア帝国からの再独立を果たした。
 再独立後、十数年近くかけて現在の程度まで復興したという。今では共和国の第三の都市として繁栄している。

 ブラウグルン共和国での公的な歴史書をパルラメンスカヤ人民共和国でも読むことができる。それによると、エリアス・コフをはじめとするモルデン派閥の指導者たちが、共和国内で最初にモルデンで武装蜂起し帝国から街を奪還したと書いてある。それがきっかけとなり、帝国軍が共和国全土から撤退することになったという。その後、コフ達は他の共和国派のリーダー達との権力闘争を勝ち抜き、その後、約十四年間トップの権力者として君臨していた。

 帝国の時代に書かれた書籍では、コフ達の武装蜂起の際、モルデンを占拠していた帝国軍には一人の死傷者もなく撤収したとある。武装蜂起が起こったにもかかわらず、不思議なことに帝国軍との武力衝突はなかったと伝わっていた。
 これは何か矛盾していると感じる。
 武装蜂起で死傷者が一人もいないということはあり得るのだろうか?
 その後の共和国内での権力闘争では、共和国の者同士の内戦が短期間ではあったが起こり、この内戦では死傷者が出たと歴史書には書いてあった。

 モルデンの街壁の近くで何かの建物を建設をしている作業員がたくさんいるのがイリーナとクララの目に入った。そして、その脇に細長い鉄を二列につなげて並べている。それは、南の方へと延々と伸びていた。以前、話を聞いたことがあるが、あれが線路というものだろう。

 ブラウグルン共和国で十数年前に蒸気機関が発明され、それを動力源とした蒸気機関車が完成し、その有効性が分かると共和国は実用化のため、国家予算を組んでズーデハーフェンシュタットの近くからモルデンまで鉄道を敷くことにしたそうだ。鉄道が完成すると、モルデンからズーデハーフェンシュタットまで、駅馬車を乗りついで二日かかっていたものが、たったの八時間程度で行くことができるという。まさに夢のようだ。
 イリーナとクララは蒸気機関車と言うものを見たことが無いが、もし、二人の故郷、アリーグラードまで鉄道が敷かれるとなったら、ズーデハーフェンシュタットからアリーグラードまで馬車で五日もかかっているところを、二十時間程度で行くことができるだろう。
 それが実現するのはいつの事だろうか。

 二人が乗る駅馬車は街壁の中に入り、しばらく進んで停車場で止まった。
 モルデンの滞在は二日間。今日のところは、まずは、宿屋を捜し、その後、街を観光する。明日の午前中は、ユルゲン・クリーガーの弟子だったオットー・クラクスと会う約束ができている。いろんな話が聞けるのが楽しみだ。

 停車場の係員に聞いて、安い宿屋の場所を教わったので、そこに向かう。
 小さな宿屋で、受付には老人が座っていた。彼と適度な世間話をした後、部屋に荷物を置くと、早々に観光で街に繰り出した。
 観光と言ってもやはり自分たちが調べていることについて、何か参考になるようなところを回る。

 そういえば、ブラウグルン共和国はユルゲン・クリーガーの生まれ故郷ではあるが、 “裏切り者” として評判はすこぶる悪いと聞いていたので、二人はクララが彼の孫であることは、あまり共和国領内では話さない方がいいと思った。

 イリーナとクララは街を少し散策した後、モルデンの歴史資料館にやって来た。
 ここは解放の後に建てられたもので、資料館の前には共和国の解放の指導者エリアス・コフの銅像も建てられている。この国では彼が英雄なのだ。
 二人は入場料を受付で支払い、中に入る。
 内容はエリアス・コフの生涯を中心に“人民革命”がメインの展示となっていた。
 ユルゲン・クリーガーのことに言及している物はあるにはあるが、やはり裏切り者としての記載であった。そして、その量は多くない。

 予想はしていたが期待外れな展示にうなだれながら二人は資料館を後にし、宿屋を戻った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...