マジックショップと狂詩曲

緋宮閑流

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Episode#02:精霊術師と死霊術

Episode#02:精霊魔術師と死霊術 4

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 きゅ、と制服の前を握り締めてダスクが俯向く。静かに話を聞いていたマティア教師が軽く手を挙げた。
「……勉強不足でお恥ずかしいのですが、私も気付いたのはその頃でした。魔法陣には個性がありますし、基礎を学んだ生徒はアレンジもします。加えて闇精霊はレアですから……」
 まぁ、そうだろう。かくいう自分も闇精霊の出現には一度しか立ち合ったことが無いし、発現の魔法陣をじっくり見たことがある者は少ない。マティア教師は不勉強と言ったが、よく勉強していたからこそ会ったことが無くても判ったのではないだろうか。そんなレベルだ。

 とはいえ。

「私くらいには相談して欲しかったわね、マティア先生?」
「……申し訳ありません……処分は如何様にもお受け致します」
 ダスクが弾かれたように顔を上げる。
「えっ、待って、待ってください……!悪いのはわたしですよね?!先生は何も……」
「ええ、何もしなかったから、悪いのですよ」
 対して、マティア教師は晴れやかに笑っていた。
「私には君達を監護する義務があります。そして必要に応じて学院長先生にご相談すべきなんです。私はそれを怠った」
「先生……」
「私は秘密を背負う必要が無くなっただけですから大丈夫。それよりも君の今後ですよ」

 あー、それね。
 それなんだけどね。

「盛り上がってるところ悪いのだけど、私はマティア先生を処分する気もダスク君を追い出す気も、無いわよ?」


────────────────────

 お茶が美味しい。
 淹れたのは、ダスクに出したものと同じ月詠草。キラキラシュガーも良いけれど、今日は綿飴蜂の蜂蜜を選んだ。結晶化させると細い金色の糸状になる蜂蜜で、親指の頭ほどにふわりと丸められている。お茶に浮かべればじわりじわりとお茶が染みて徐々に溶けてゆく様子がなんとも趣深い。

 先日、ダスクのご両親からお手紙を頂いた。学校としてはお家に報告しないわけにはいかないから、ことの顛末と提案をきちんと書面にして送付した、その返事だ。
 手紙には取り急ぎの詫び文とお礼、近いうちにこちらを訪問する旨、そして短い事情説明がしたためてあった。

 やはりというかなんというか、家系的にも優秀な精霊使いであるご両親はダスクの呼び出した精霊がご息女であることを知っておられたそうだ。
 当時ダスクの入学は既に決まっており、学院に打ち明ければ入学許可が取り消されるのは必至だった。更に生前の娘が切望した学園生活を叶えてやりたいという親心も手伝って、結局精霊の正体を隠したまま入学させるという決断に至ったとのことだ。
 確かに、当時そんな相談を受けたらおそらくダスクの入学はお断りさせて頂くことになっていただろう。そして、祖父の代なら間違いなく今回の件で退学だったろうが……

 しかし屁理屈と言う勿れ。広義で言えば死霊召喚は召喚魔術の一種なのである。

 死霊術は屍操術とごっちゃになりがちなために死者の尊厳を踏み躙るものと思われて忌避や嫌悪の対象にされてきたりもしたけれど、この二者は明らかに違う。
 安らかに眠っているご遺体を掘り返して術者の道具とする屍操術に対し、死霊術とは何かの未練に囚われていたり死出の船に乗り遅れたりしてこの世に留まっている魂をお招きし、事件の捜査や歴史資料の編纂などに協力を仰ぐ、そういう類のものなのだ。
 幸い最近はかなり周知も進み、現役世代の代替わりも手伝って偏見は薄まりつつあった。

 そうそう、『死霊術師』という『職業』も存在するのをご存知だろうか。なんと国家資格だったりする。

 ──そんなわけで、召喚魔術科高等科では後期から死霊術の授業も取り入れることになったのだった。ダスクのことで誰かに何か言われたら「知っていましたが何か?」と、シレっと返すつもりだ。

 講師は国に申請した。審査には通ったのでそろそろ新講師が到着する頃ではないだろうか。
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