私とツノ付きお兄ちゃん

緋宮閑流

文字の大きさ
上 下
7 / 10
私とツノ付きお兄ちゃん

#06 ってことで素敵なアクセサリー作ります

しおりを挟む

裏の繁みに毎年実るコケモモが、今年は大豊作だ。
私の傍に置いたカゴいっぱいのコケモモは甘酸っぱい匂いがとても美味しそうで、でも今日はそれ以上に大事に家へ持ち帰りたいものができていた。金色に透ける、不思議な石。
兄の目によく似た色だ。
自分には無いツノと尻尾を持った血のつながらない兄は、近年になって国同士の交流が始まったばかりである魔法の国出身。この辺りでは見かけない金色の目がとても綺麗だ。
石はハンカチで丁寧に包んでポケットに入れた。
家に飾り紐や刺繍糸がたくさん残っていたと思うから、綺麗なアクセサリーが作れるはず。
最近は母も使っていなかったようだし、きっと選び放題だ。もしかしたら先日編んだお気に入りのブレスレットよりも良いものができるかもしれない。

──と、ウキウキしながら帰った家に、紐や糸は残っていなかった。

おかしいなぁ……この間お針箱を見たときは何種類か入っていたはずなのに。
無駄なのは承知の上でハサミや針刺しをどかしていたら、ネジネジに巻かれた刺繍糸がひと束だけ箱の隅に残っているのが見えた。
黒と灰色の糸を撚り合わせた地味な刺繍糸。糸にツヤが有るからちょっと銀色にも見えて綺麗といえば綺麗なのだけど、イマイチ何に使うために買ったのかよくわからない。
「……うーん……」
正直言って私の趣味ではないけれど、糸はこのくらい地味なほうが石が目立つ……なんて考え方もできるかも?
とりあえず貴重な糸は頂いていくことにする。イタズラしかねないペットのモフモフを追い出して干した果物とお茶を用意したら、部屋にこもる準備はカンペキだ。
よし、見事に編んでみせましょう……地味な色でも美しく編み上げるのが一流の職人、もといステキな女の子ってやつなんだから!
がっつり集中して数刻、石の下にはしっかり巻いた小さなタッセルをぶら下げて満足のいく逸品を完成させた頃には夕陽が山の端に沈もうとしていた。
……大変だ。
そろそろ夕食の時間だと思うのだけれど、準備の手伝いもしていない。それに。
慌ててドアを開けると、まさにノックしようとしていたのか軽く握った拳を胸の高さまで上げたままの兄を開くドアでどついてしまった。
「……っ痛ってぇ」
「あわ?!え?!ごめんねお兄ちゃん!」
兄がオデコをこすっている。姿勢が良かったら鼻を潰していたかもしれないから、いつも若干背中を丸めて歩く兄の姿勢にちょっとだけ感謝した……って、そうじゃなくて。
「誰が通ってるかわからないんだから扉はもうちょっと大人しく開けろ。母さんのお腹とか当たったらまずいだろ」
ドアをノックしようとしていたであろう握り拳は、ドアではなくて私の頭に降ってきた。確かに母のお腹には赤ちゃんがいるから痛い強さで当たったら大変なことになってしまう。
「うー、ごめんなさい」
解ればいい、と同じ手でポンポンされつつ、何を慌てていたのか問われて我に返った。ポンポンの心地良さに浸っている場合じゃない。
「そうだ、お兄ちゃん!これ!」
手に持ったそれを兄に押し付ける。
「お兄ちゃんが学校に行く前に渡そうと思って!」
魔族の人たちがよく付けているツノ飾り。父もシンプルなものを付けている。兄が付けているのは見たことが無かったけれど、綺麗な石をたくさん持っているのは知っていたからきっと嫌いなわけではないはずだ。
「……お前、編んだの?」
一瞬の沈黙が流れたあと、いつもより少しだけ低い兄の声が頭上から降ってきた。
「……え、うん」
顔を上げれば兄はなんとなく気まずそうな、複雑な表情を浮かべていて。
「……もしかして、嫌だった?」
「……いや、全然嫌じゃない。有難く貰っとく」
輪っかをツノに通す長い指の間に一瞬カラフルな色が見えたように思えて気になったけれど、ツノ飾りに下がった石が揺れるのを見たら小さな気掛かりは吹っ飛んでしまった。
石にも運命の出会いって、有るんだね。

──────────

ツノに慣れない重みが揺れている。
通学路を歩きながら先程ポケットに押し込んだものを取り出した。
カラフルなブレスレット。この村における民芸品だとかで、授業で道具の作り方と編み方を習ったから妹に編んでみたのだが。
さっきプレゼントされたツノ飾りに触れる。
「これだけデキの良いもん貰っちゃったら、なぁ……」
妹のことだ。笑ったり馬鹿にしたりせずに喜んではくれるだろうが。
星空を見上げる。

「……難しいな、プレゼントって」
しおりを挟む

処理中です...