私とツノ付きお兄ちゃん

緋宮閑流

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私とツノ付きお兄ちゃん

#05ってことでお留守番で星を見ます

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「いいもの見せてやるよ。準備してくるからちょっと待ってろ」
そう言って席を立った兄が戻ってきたのは退屈凌ぎの歌を三曲歌い終えた頃だった。
今夜は父も母も居ない。ナントカいう研究施設にお泊りなのだそうだ。お仕事なのは仕方ないけれど、兄と自分だけの食卓はどこか寂しかった。
人間の娘が一人で留守番は危ないから、と兄が学校を休んでくれなければ一人で夜を過ごすことになっていただろうからそれだけでも感謝しなくてはならないのだけれど、でもやっぱり寂しくはあって。顔には出ていたのだろう、兄に気を遣わせてしまった。
私には無いツノと尻尾を持った異種族の兄とはもちろん血が繋がっているわけではないけれど、私と母をとても大切にしてくれる。
「外、出ようぜ」
普段は表情豊かなほうではない兄が今日はなんだか楽しそうだ。
月の無い夜だから外は少し怖かったけれど、その表情に釣られて裏口から外へ出た。
「やっぱり暗いよ……ランプ持って出れば良かったんじゃない?」
取りに戻る?と聞くと、夜闇に慣れた兄は小さく笑った。
「ランプなんか使ったら台無しだ。目はすぐに慣れる」
バサバサという音から察するに、敷物を広げているらしい。こんな夜中にピクニックというのもなんだかおかしな話だが、魔族は学校も夜中だ。彼らの間では案外普通の話なのかもしれない。
兄の言った通り、目は思ったよりすぐに慣れた。
それにしても、月が空に無いのにこの青白い光はどこから来るのだろう。星はたくさん見えているけれど、星の光は小さすぎるよね……そんなことを考えていると、敷物に座って熱心に懐中時計を見ていた兄が顔を上げた。
「そろそろ来るぞ」
天を指差しながら寝っ転がる兄の姿にどうして良いのかわからずオロオロしていると、兄の隣をポンポンと叩かれた。
えーと、私にもそこに寝転がれと……?
………………
………………
………………
うん、転がるか!
スカートが捲れ上がらないように気をつけて寝転がる。

ぶわっ、と、目の前に星空が広がった。

見上げるのと寝転がるのじゃ全然違う。わぁと声を上げる目の前を一筋の星が流れていった。
「……あっ、流れ星!お願いごとしなきゃ!」
「なんだそれ」
「お星様が消えないうちにお願いごとをすると叶うんだっておまじない……」
私が説明すると、兄は声を上げて笑った。
「じゃあ、願い事を沢山用意しないとならないな」
それってどういう……言いかけた目の前を、また星が横切る。
……こんな短時間に、また?
「ほら、来たぞ」
こっちに一筋、あっちに二筋。
間を置きながら次々と。
「なにこれ……」
「流星群。本では読んだことあったけど、俺も見るのは初めてだ」
自分のいた国では星も無いからな、と上機嫌な声。ちらりと横目に視線をやると僅かな光に白く浮かび上がる兄の横顔にキラキラと輝く金の目が見えた。
お兄ちゃん、楽しそうだな。
兄の横顔をキラキラにしてくれた空へと視線を戻す。
私もこの空を目に焼き付けるんだ。そうしたらリュウセイグンの話をする度に、きっとこの横顔が見られると思うから。




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企画時に書いたストックはここまでです。ご愛読ありがとうございました!

今後は企画とは関係無くちょこちょこ書いていこうと思います。上がっていたらまた宜しくお願いします。

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