私とツノ付きお兄ちゃん

緋宮閑流

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私とツノ付きお兄ちゃん

#04ってことで床が抜けちゃいました

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廊下の床が抜けた。

知らないうちに虫が喰っていたらしい。兄が直そうかと父と話していたけれど、父が魔法ではなくて手で直してみたいというものだから、とりあえず自室で待機している。
魔法の国出身の魔族である父と兄。父、兄、と呼んでいるが、父と母が法律的にはまだ結婚していないため本当の家族になれていない。二人とも私には無い黒いツノと金色の目が綺麗な、私の自慢の家族なのに。
話を元に戻すと、私の部屋の前がごっそり抜けてしまって怪我せずには出られそうにない。梁は見えているが折れ口がザリザリの床板がはみ出していて、渡るのにはちょっと勇気が要りそう。
浮遊魔法で私を抱えて部屋を出るのは廊下が高さ的にも幅的にも狭くて無理、ということで、兄が差し入れてくれたお茶のポットとお菓子をお供に自室待機とあいなった。
まぁ、自分の部屋だし休日だから致命的に困ることは無いけれど、窓から見える紅葉の進んだ木と細い雨はなんとなく孤独感を煽った。部屋を出ないのと出られないのでは気分的に全然違うのだ。
ドアの外からは木材を剥がす音や鋸の音、父の叫び声なんかが響いてくる。
……叫び声?
「……お父さーん、大丈夫ー?」
今はマトモに開かないドアの向こうから父の声が無事を告げる。そこそこ派手な音がしているのだけど、ドアの外はどうなっているやら。
こちらも兄が差し入れてくれたペットのモフモフを抱き寄せる。これ、今は大丈夫だけどトイ……お花摘みとか行きたくなったら困るな。
気にし始めたら気になってしまって足をモゾモゾ動かしていると、隣の部屋からもガサゴソバタバタと音がし始めた。兄も何かしているようだ。
うーん、うるさい。
モフモフを抱いたままごろんとベッドに横になる。モフモフは控えめに脱出を試みているが逃がさないようガッツリ抱え込んだ。背中の柔らかな毛に顔を突っ込む。モフモフの匂いだ。

──いつのまにかウトウトしていたらしい。
気付くと兄が部屋に居て、勝手にお茶を飲んでいた。モフモフは私の腕から兄の膝に引越して満足げに丸まっている。
ドアの外からはトンテンカンテン音がしていた。父の作業は釘が打てるところまで漕ぎつけたらしい。
「おはよ」
「ん。父さんが長引きそうだったから壁に穴開けたんだが……寝てたなら放っといても良かったな」
言われて壁を見れば、人が一人通れるくらいの穴が開けられている。隣に有る兄の部屋は壁際に本が積んであったはずだから、さっきのガサゴソは本を片付けてくれていたのだろう。壁に穴を開けるために。
「俺の部屋から出入りできるけど外に父さんの道具とか置いてあるから足元気をつけろよ」
「わかったー!ありがとう」
早速作業の進捗を覗くべく兄の部屋へ入り込んでドアに辿り着き、ノブを回してドアを開……

──ガコン。

「……お兄ちゃん、ドア開かない」
は?と声がして、兄が穴をくぐってくる。押して引いてを二、三度試して……ガン、とドアを蹴飛ばした。
「……マジかよ……っの、クソ親父!!」
ごめーん、と悪びれない父の声が笑い声と共に返ってくる。
ゴメンはいいから早く退けろと喚く兄の背中を見ていたらついつい笑いが込み上げてきてしまった。
父の作業が終わるか道具をどかしてくれるまで本当に部屋を出られなくなってしまったけれど、兄の部屋と繋がったことで孤独感はどこかへ吹っ飛んだ。

修理が済んで雨が止んだら思いっきり外に出よう。お弁当を作って、どんぐりの森へ。
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