私とツノ付きお兄ちゃん

緋宮閑流

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私とツノ付きお兄ちゃん

#02ってことで甘党眼鏡男子です

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「ふーむ、つまり結婚というのは契約なんだな?」
ココアから立ち上る柔らかな湯気の向こう、眼鏡をクイと上げながら兄が頷く。傍らには角砂糖とマシュマロのポット。甘党の兄がどのくらい入れるかわからないのでポットごと持ってきた。席に着けば待ってましたとばかりにペットのモフモフが飛び乗ってくる。
私と違う金色の瞳と黒いツノ、矢印型の尻尾。見て判ってしまう程度には私と兄は本当の兄妹ではない。父と兄は国が交流条約を結んだ果ての国、そこから来た『魔族』という種族だ。ちなみに魔族というのは『魔法に長けた人々』という意味で、私たちに無いツノや尻尾は魔力の源に近しい証らしい。よくわからないけれど。
──まぁ、とにかく最近国交が始まった魔法の国から母の王子様が来たということだ。
今は同居人、謂わば仮の家族でしかないけれど、教会の法整備が整いしだい父母は結婚式を挙げて神々も認める夫婦になる筈だ。多分。
兄はココアにちょっと甘すぎるんじゃないかと首を傾げたくなる量の角砂糖とマシュマロをみっつ放り込み、スプーンでぐるぐるかき混ぜて一口飲んだ。
「奇妙な契約だな。お互い好きなんだったらわざわざ契約しなくても一緒にいるなんて当たり前のことだろ」
再び眼鏡を上げ、嫌になったら離れればいい、と呟きながらことんことんと音を立てて角砂糖を机に置き、くっつける。
「……本人たちだけ見たらそうなんだけど、ほら、横から手を出す人も居るじゃない?」
私も角砂糖を手に取って並んだそれの上に置いた。乗せたこと自体に特に意味は無いけれど、継ぎ目に新たなブロックが乗ったことでその継ぎ目は少しだけ強固になったように見えた。
「……あぁ、そういうことなら契約にも意味が有るなぁ」
ことん、と新しい角砂糖が足される。
暫く無言で交互に角砂糖を並べて積んだ。円を描くように並べた角砂糖の壁がどんどん高くなる。角砂糖が無くなってしまったところで兄が笑った。
「……はは、流石に塔には足りないか」
「屋根があればかわいいおうちになりそう。キノコみたいな」
「……んー……屋根か……」
兄は少し考えたようだった。徐にマシュマロを手に取り、眺める。燭台の火で少し炙ると溶けてきたマシュマロをふたつ、くっつけた。
「屋根、作れそうだぞ」
「ふぇ?」
静かに慎重に、優美に動く指先に見惚れていて何を言われたのか判らなかった。にんまりと笑った兄は双子になったマシュマロを振ってみせる。
「コレをくっつけていって被せよう」
私は燭台で、兄は指先に灯した火でマシュマロを炙ってくっつけた。良い感じだ。
最終的に椀の形になったマシュマロを、角砂糖の上にそっと乗せた。
「……キノコみたいな家にするにはちょっと小さかったな」
「でもコレはコレでかまくらみたいでかわいい」
「あー、お前がこの前作ってた雪の家か。確かに似てるな」
兄はまたまた眼鏡をクイと上げ、いかにも甘そうなかまくらをじっくり観察している。私はといえば角砂糖と共に積み上がっていた笑いの種が芽吹いて、つい笑い出してしまった。
「さっきから思ってたんだけど、眼鏡、大きさ合ってないんじゃない?……だいたい眼鏡なんかしてたっけ?」
「いや、今日から。似合うか?」
「うーん……イマイチ?」
正直に述べてやる。兄は少し膨れて眼鏡を外した。ちょっとだけ心配になって見えるのかと問えば、何が?と返された。
「目が悪くてしてるんじゃないの?」
「いや、昨日学校のヤツからコレ掛けると頭良さそうでカッコイイって聞いたから」

つきん。

一瞬、胸が痛んだ。
学校のヤツって誰だろう。
誰にカッコイイって思われたいんだろう。
普段着飾ることには無頓着な兄だから、兄に眼鏡を掛けさせた存在が妙に気になった。
立ち上がる。膝枕でご機嫌にしていたモフモフが不満げに飛び降りるけど、気にしてやる余裕はあまり無かった。
「……私、もう一杯ココア淹れてくるね」
笑顔を作りふたつのカップを取り上げた。なんだかわからないけれど、少し離れて胸のモヤモヤを取り払いたかった。
おぅ、という返事を背に兄の部屋を出る。少しゆっくりココアを淹れよう。

───────────────────

がこん、とゴミ箱が鳴る。
気に入ってもらえないのなら、もう要らない。
慣れないものをぶら下げていたからか耳とツノの間が引き攣ったように痛かった。
「……休み明けたら殴ってやろ」
なーにが人間種族の女の子が大好きなアクセサリー、だ。嘘つきめ。
角砂糖の壁とマシュマロの屋根を持つ小さなかまくらが目について、気紛れに光球を放り込む。コレはコレでなかなか美しい。妹が好きそうだ。

伸びをしたモフモフが膝に乗ってきた。ココアのおかわりはまだだろうか。


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